2『1000年の夢』
混乱していた。
奥野勇人としての33年間の人生の記憶と、魔王としての1000年間の人生の記憶が頭の中で混ざり合っている。
今日の昼に食べた家系ラーメンの記憶があり、魔王軍を指揮した550年前の大戦争の記憶もある。
まるで2つの動画を同時に再生しているようだ。
落ち着け、俺……何が起きてるのか順を追って整理するんだ。
残業中に仮眠をとった俺は、異世界の魔王に転生した。
ハードワーク続きだったから心臓麻痺で死んだのだろうとそれを受け止めた俺は、その後はそれなりに魔王らしく1000年生き、子孫や大幹部たちに囲まれて静かに息をひきとった。
人々から畏怖される魔王として死に、そして目を開けたら残業中のオフィスに戻っている。
壁掛け時計の針は2時5分を刺していた。
目を瞑ったのは2時ちょうど……つまりあの1000年の人生は、5分間のうたた寝の間に見ていた夢だったというのか!?
そんなはずはない! 夢で説明がつくことじゃない!
しかし、あの人生が幻じゃなかったという証拠なんて……。
いや、まてよ。
俺は目の前のPCでダンジョンの画像を検索した。
どのダンジョン入口上部にも同じ文字が刻まれている……もしそれが読めるのなら……俺はきっと……。
画面いっぱいに、円や三角で構成された文字が映し出されている。
一般には「未解読文字」とされているものだ。
──試練の深淵を越えし者よ、我らが界に至る扉は汝を待つ。
俺にはその文字が難なく読めた。
やっぱりそういうことか! 俺は“ダンジョンの向こう側”に行ってたんだ!
しかもその異世界で魔族の王……魔王として生きた。
ちなみに魔族とはいっても悪魔とかそういうのではなく(ちょっと闇が好きだったり憎悪からパワーを生み出したり住まいがジオニズム建築的だったりはするが……)人間族とは姿形と信仰する神が違うだけだった。
異世界での俺は魔力こそ高かったが、スキルはこっちと同じようにひとつも持たないで生まれた。
そのため1000年の間にスキルを習得していった。
魔族先祖への謎の忠誠心で、臣下が帰ったあとも残業して頑張ったんだ……魔王だけど社畜魂は変わらなかった。
習得には途方も無い時間がかかった。200年に1つくらいのペースだったかな。
スキルは努力で手に入れることができる……ただそれをするには人間だと寿命が短すぎるんだ。
基本的に最前線では戦わない魔王である俺が手に入れたスキルは、集団を束ねる支配者に相応しいスキルだった。
《魔獣創造》
空間の物質から命令に従うモンスターを生み出すスキル。場合によっては敵の城壁ですら材料にしてモンスターを作り、かなりの戦力になった。
《妖器賜与》
モンスターの素材から未知の武具や道具を作り出すスキル。戦果をあげた者に褒美として武器を作ってやると、泣いて喜ばれたもんだ。
《闇築因子》
様々な構造物などを地中から形成するスキル。長い防衛土塁や矢を射るための高台をこれで一瞬で建造した。そのときの光景は誰もが言葉を失うほどに壮大だ。
《幻界収蔵》
荷物を無制限に持ち運ぶことができるスキル。これのおかげで兵站問題がかなり解決した。それと戦利品の回収にも役立った。
これらのスキルは自分自身の戦闘力を高めるものではないかもしれないが……夢だったギルド運営に使えすぎるんじゃないのか?
とんでもない苦労をして手に入れた4つの魔王専用スキルを、まだ俺は持っているのだろうか?
もし持っているなら
魔王時代の経験で────こっちの人生のリスタートができるぞ。
このときの俺はまだ知らなかった。
この先、その新しい人生に“過去”と“初恋”が静かに絡みついてくることを。




