16『真希の弁当』
そして2日後……明日は“ハズレ穴”に潜る日だ。
すぐにハズレ穴に行かなかったのは今回は準備を念入りにしたかったからだ。
クズ魔石を外へ持ち出すのに使用した《幻界収蔵》を、今度は外からダンジョン内に物資を持ち込むために使うことにした。
状況によってはかなり深く、もしかしたら数日間潜る可能性だってあるからな。
ついさっき飲料水、保存食や塩、簡易調理器具、寝具、着替えのシャツ等を社用車に詰め込んだ。
これらをダンジョンの中に運び入れ、そして《幻界収蔵》に収納して持ち歩くってわけだ。
社用車への積み込みを終えた俺と真希は事務所に戻ってきた。
「ふう、おつかれさん。さてと昼飯どうすっかなぁ。真希は今日も弁当か?」
「そうよ」
俺と真希は仕事がなくても毎日事務所に来ていた。
五郎はやることがない日は筋トレをしたり山や海に行ってるらしい。
久留里は動画チャンネルもやっているらしく家で編集作業だそうだ。
真希は事務所ではネットをしたり本を読んでいることが多かった。
向こうから俺に話しかけてくることはほぼないので、俺から何か言わない限りは事務所は静かだった。
休日以外はほぼ一緒に過ごしているわけだが、彼女は何を考えているのかが掴みにくい。
前に「どうしてツースキル持ちなのに西新宿ギルドなんかにいるんだ?」と尋ねたことがあったが「たまたま募集を見たから、西新宿ギルドなんかにいるの」といつもの淡々とした調子で答えが返ってきて話は終わった。
もしかしたら性格は几帳面なのかもしれない。
真希が持ってくる弁当はいつも小さいオカズがきっちり詰め込まれていて、彩りも綺麗だった。
いま彼女が食べている弁当のニンジンも、可愛らしい花形になっていた。
「いつも弁当凝ってて、感心するよ」
「バランスのよい食事は大事よ。メンタルにもフィジカルにも」
「俺も若くないし栄養バランスは考えようとは思ってはいるんだけどさ、つい昼は牛丼とかラーメンになっちゃうんだよなぁ」
真希は窓の外の夏の太陽で真っ白になっている街を一度眺めてから、俺の顔を見て少し首を横にかしげた。
「お弁当、あなたの分も作る?」
その声は、いつもよりほんの少しだけ柔らかいような、そんな気がした。
「えっ? いや、だけどそれは面倒だろうし悪いよ」
真希の方からこういう提案をしてくるのは意外だった。
いつもウマそうだなぁってチラチラ見てたのバレてたのか!?
彼女の表情からは……やっぱり、よくわからない。
「ひとりぶんも、ふたりぶんも手間は変わらないし」
「そっか、じゃあお願いしちゃおうかな」
「でも明日はハズレ穴に行くからお弁当は生きて戻って来たあとからで」
「フラグ立ちまくりじゃねえか……」
まあ、でもちゃんと生きて帰ってこないとな。
ダンジョンはどこにも逃げないんだから、諦めるときはスッパリと諦めてまた再挑戦すればいいんだ。
そして──真希の弁当を食べよう。
毎日2話(朝と午後に1話づつ)更新予定です。
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