06. 劣る
⚠️暴力・性描写あり
エアコンの静かな風音とシャープペンシルを走らせるかすかな音だけが、自室に単調に響いていた。優一郎は問題集のページをめくると、間を置かずノートに解答を書き込む。
夏休み前の模試の結果は上々だった。自分なら難なく理科I類に届く。何も心配は要らない。順調そのものだ。
シャープペンシルの芯が折れる。
――……。
優一郎は無言で立ち上がった。
隣の紬の部屋を覗きに行くも、当てが外れたようで部屋は薄暗く誰もいない。
その時、遠くから打ち上げ花火の音が重く響いた。
優一郎はテラス窓に近づき、夜空を仰いだ。
光が弾け降り注ぐように散っていく。けれど、その灯りを捉えてもなお、その瞳は一片も揺らがなかった。
――初めて紬と会った時のことはよく覚えている。
母親の背後に、大人しく控えめに立っていた。
緊張を隠しきれない面持ちで、小さな声で短く挨拶をする儚げな姿。
ああ、一目見て合わないなと思った。これから兄弟になると思うと不愉快になった。母親に似た女のように整った顔も、白い肌も癪に障る。
一緒に住むようになってからも、紬には他に秀でたところはなかった。気まぐれに少し冷たくしてやると、綺麗な顔が台無しに歪む様子が愉快だった。
あの頃は何でも手に入ったから、少し退屈していたんだと思う。
あいつから母親を奪ってやったらどうなるだろう……興味が湧き上がる感覚も鮮明だ。
人は誰でも残酷なものを楽しめるようにできている。
幼い頃、誰だって蟻を潰して遊んだじゃないか。
あれと同じだ。
紬の前では、理性的でいる必要がない。
何の取り柄もないあいつの、唯一の活かし方だと思う。
いなければ、いないで構わない。
優一郎はキッチンでスナック菓子を一袋手に取ると自室に戻り、少しつまむ。そして再び勉強に集中した。
…
「ごめんなさいっ!ごめんなさい…!」
紬は床に崩れたまま、涙と唇から吹き出す血で顔を汚しながら、縋るように懇願する。頬と口が腫れ上がり動かす度に鈍い痛みが走る。
「お前……最近ずうっっと、出掛けてるよな」
「……夜中まで、何、してんだよっ!」
腹の辺りを二度蹴り上げられると、肺の空気が押し出され、声にならない悲鳴が喉で潰れる。視界が揺れ、胃の奥から吐き気がこみ上げる。
「これ見よがしに、遊びやがって!」
今度は乱暴に髪を掴み、床に叩きつける。
乾いた音とともに、紬の脳裏に短い白い閃光が走った。
鼻腔に鉄の匂いが広がり、一滴、二滴と鼻血が床に落ちる。
「……お、おねがい…死んじゃう…」
「……はぁ?」
優一郎は呆れたように顔を歪め、紬を見下ろす。
――死ぬわけないだろうが、馬鹿が。
過去に一度だけ骨折させたときは面倒なことになった。
力を加減してやってるのが分からないのか。
泣いて、喚いて、出任せの命乞いを繰り返す姿はまるで頭の悪い子供だ。同情を引こうとしているようにしか見えない。顔と弱さしか取り柄のない存在が、ただ惨めに縋りついてくる。
優一郎は机の上に置かれた紬のスマホを床に放り投げる。
「ほら……見せろよ。誰と仲良くしてんの?」
紬は血の滲む口元を両手で覆いながら、恐怖で染まる目が大きく見開かれる。
――いやだ……、とは口が裂けても言えなかった。
優一郎が見ている前で震える指でロックを解除すると、優一郎がスマホを奪い取り、チャットアプリを開く。すると、画面に出た名前を一瞥して、鼻で笑う。
「……玲衣…ねぇ。……女?」
その瞬間、紬の心臓が跳ね上がり、全身から血の気が一気に引いていく。
耳の奥で自分の心臓の音がやけに大きく響き、呼吸が浅くなる。
「な訳ないか。お前、友達いたんだな。……ほら、どんな奴なのか聞かせろよ?顔は?家はどこ?」
――やめて、お願い……それだけは。
声にならない叫びが胸の奥で何度も反響する。
今にも目の前で踏みにじられそうな大切なもの。
「……お願い、何でもするから。それだけは許し――」
言いかけた瞬間、腫れ上がった右頬に平手が叩き込まれる。衝撃に頭の中が真っ白になる。
優一郎はそのまま悶絶する紬の腕を掴むとベッドの上に押し倒した。
「上手く出来たら、返してやるよ」
「な、何言って……」
優一郎は紬のハーフパンツを剥ぎ取り、露わになった両脚を力で押さえ付けた。
…
「いやだ!お願いっ!無理っ…!!」
紬は優一郎の腕を掴み、必死に頭を振る。
「うるせぇな、この前菓子の容器咥え込んでただろ」
「力抜けよ」
ローションをたっぷり垂らし、自身のモノを紬の尻に押し当てる。
「い…痛い!駄目っ、入らないっ!」
「だから!力抜けって言ってんだろ!!」
優一郎は紬の脚に体重を掛けると、力任せに挿入する。
「あああぁっ……!!」
瞬間、紬は反射的に仰け反り、痛みに声を上げる。
「きっつ…」
そのまま何度も腰を振る。
紬の泣き声も抵抗も次第に弱々しくなり、白い身体が優一郎の目の前で生々しく揺れる。
――あぁ、でも………。
嫌でも視界に入る紬の腫れてぐちゃぐちゃな泣き顔。聞こえるのは嗚咽混じりの汚い喘ぎ声…。
「……なんか萎えた」
優一郎は紬から体を離すと、外したゴムを床に投げ捨てる。それから、落ちている紬のスマホを拾い上げると画面に指を滑らせた。
「ほら…」
優一郎がベッドに横たわる紬にスマホ画面を差し出すと、紬は緩慢に視線だけ動かす。
「消したといたから。お前の友達」
「……え」
目が見開き、頬がピクリと引き攣る。
部屋のドアが音を立てて閉まった。
頭の中にその音が反響する。
画面が黒に落ちる。




