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第8こん 「罵声」と「想い出」と「初鯉」

暫くして俺の耳は復活した。

「彼女」はぜぇぜぇと肩で息をしながらこちらをまだ睨み付けていた。


「あ、終わった?」

余計な一言で「彼女」の怒りの炎に薪を焚べてしまった…。


「お前のせいでこんな姿になったってのにこの男…」

怒りを通り越して呆れの表情で俺を見てくる。

ジト目はご褒美です。


「で、なんで俺のせいなの?」

改めて「彼女」に問うと俺の目をじっと見つめながらこう告げた。


「私はあなたに『捨てられた』って事になってるからよ」

「彼女」は境内の俺の隣に座り直すとそう告げた。


…?

捨てられた?

状況が理解出来なかった。

捨てるも何も…ねぇ?


「あの日、あなたが私を見つけた日に雨が降っていたでしょう?」


「お地蔵さんから尻尾が生えてた日の事?」


「ぐっ…急にあなたが大声で叫ぶからビックリしたのよ。姿を消し損ねただけよ」

悔しそうな顔で俺を睨んでくる。


それと俺が白城を捨てたってのはどう繋がるんだ?


「あの日あなたは私を綺麗にしてくれた。周りの雑草も踏み均して風と陽の光が当たる様にしてくれた。あのお地蔵様はね、私達狐の御神体なのよ」


「あのお地蔵様は人の里に下りる為の転移門の役割も担ってるんだけど、複数で人の里に下りる事は出来ないの。何故なら転移した際に御神体と精神が一体化するから。つまり私がこちらにいる限りあのお地蔵様は私の分身って事ね」

「その時私は…私は…」


ん?顔を赤らめてモジモジしてる。

トイレか?


ゴっ!!

無言で殴られた、スゲー痛い…


「失礼な事は考えない事ね」

すみませんでした…。


「その時私は…あなたに恋をしたのよ」

鯉?濃い?故意?恋!?


「ちょろ過ぎん?」

また殴られた…。


「ちょろくて結構」

じゃあ何故殴った…。


「狐の嫁入りって聞いた事ある?」


ある。

めっちゃ天気が良いのに雨が降ってる不思議なやつだよな。


「あの雨を降らせたのは私よ。両親に結納を急かされてた私は人の里に下りて手頃な少年に当たりを付けたわ。それがあなた」


手頃て…ん?確かにあの日は急に霧雨が降ってきて…えっと夕方だっけ?釣りしてて…。

親父に頭を小突かれて…。

動物の鳴き声が聞こえた気がして…。

町内放送が鳴ってたから夕方で間違いないな。

大声で叫んで。

お地蔵さんに尻尾が生えてて、掃除してあげて…。

親父に小突かれて…。


あれ?記憶の中の俺2回殴られてね?


古い記憶を呼び起こす作業をしていると時系列がチグハグになる。


「そうだ、掃除し終わって帰る時に虹を見た。輪っか状で夕日と繋がってたから指輪みたいで綺麗だったなぁ」


「…っ!?」


「彼女」がさっきよりも顔を真っ赤にして俯いている。

どしたの?って「彼女」の顔を覗き込んだら弱々しく殴られた。


「…あなた壊滅的に察しが悪いのね、(のみ)の方がまだ真剣に生きてるわ」


酷い侮辱を受けて業腹だったが次の「彼女」の一言で「俺はなんと馬鹿なのか」と己を戒めた。


「好きな人に指輪を贈るのは勇気がいるものよ、それが人でも狐でもね」


…そうかあの虹と夕日の指輪は「彼女」が俺にくれたものだったのか。

胸がチクりと痛んだ。

幼かった俺はそれに気付かず、(あまつさ)え何も告げず会いに行かなくなってしまった。


「…ゴメンな」

「良いのよ、またこうしてあなたに逢えた。隣に居られるんだもの」


…コテン。

「彼女」はそう言うと俺の肩に頭を乗せてきた。

ふわっとシャンプーの香りだろうか俺の鼻腔を(くすぐ)る。

お互いの心臓の音が聞こえる位に辺りは静まり返っていた。


なんと言うか…そう。

『良い雰囲気』である。

しちゃうかも知れません。

ちゅーしちゃうかも知れません。


「彼女」は俺の左頬に手を添えた。

人生初ちゅーに緊張した俺は「彼女」の顔を見れない。

間を持たせようと、

「お、俺のど、どこがすすす好きになったの!?」

と、顔を真っ赤にし、声を裏返しながら聞いた。

大事な所でヘタレを発動してしまったのが俺の運の尽きだった。


すると「彼女」は、


「最初はまだ結納なんてまっぴら御免だからテキトーにそこら辺で釣りしてた同年代くらいのマヌケなガキ攫って連れてけば小間使いに丁度いいなぁって思って」


…えっ?


「両親には彼氏でーす、って言っとけば結納先延ばしに出来るし」


えっ?えっ?


「どこを好きになったの?って言われても…ねぇ?」


「ノォォォォォォォ!!」

「殺せ!殺してくれ!お願いします!!」

俺は恥ずかしさのあまり境内から落ち、地面で転がっていた。

この(あま)!!俺の純情(はつちゅー)(もてあそ)びやがった!!


「あれ、でも待てよ?最初はって言ってなかった?」

そうだ!

「今は?今はどうなんですか!?」

(すが)る想いで境内に脚と腕を組んで座る「彼女」の足元に擦り寄った。


「安心しなさい。こんな楽しい『オモチャ』捨てないわよ」


…うわぁぁぁん!!

俺は居た堪れなくなりその場から走り去った。

涙で視界が(にじ)む…。

体に力が入らず、フラフラと走っていたら俺は神社を囲う堀に落ちた。


神社の方から3匹の狐の笑い声が聞こえてきた。

クスクス、ケラケラ、フフフっと。


そして俺のファーストチッスはお堀の鯉から情熱的に奪われた。

ファーストチッスは生臭い魚の味がした。


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