第1こん 「なにか」と「後頭部」と「お地蔵さん(仮)」
初めまして白亜紀と申します。
懐かしい田舎の記憶と妄想を混ぜ込んだ作品になります。
皆様の記憶に残ったら幸いです。
猫が鳴くような、犬が哭くような。
悲しみのような、怒りのような。
そんなが「なにか」が聞こえた気がした。
とある夏休み、小学校まで子供の足で1時間、友達の家まで自転車で30分というド田舎に住んでいた俺は夏の暑さにも負けず近所の川で一人、釣りをしていた。
今では考えられないかも知れないが、子供だけで山の中まで虫取りに行ったり、大して護岸工事のされていない川での魚釣りなんて当たり前な時代だ。
良く言えばたくましく、変な言い方をすれば甘やかされずに育った俺はある夏、遠くで「なにか」を聞いたんだ。
碧空の中に浮かぶ大きく真っ白な雲。
超快晴のなのにも関わらず、俺はいきなりの霧雨に見舞われ橋の下に避難していた。
優しく流れる川の音、遠くを走る車のエンジン音。
草刈機がコンクリートを擦る音でもない「なにか」
川伝いに橋の下まで来るとさらにその「なにか」がハッキリ聞こえてくる。
「動物の鳴き声だ」
そう思った俺は直ぐ様釣り竿とバケツ、練り餌を片付け、土手を登り、家の裏手にある小さな、本当に小さなお社様に向かった。真っ直ぐここに来たかったが橋を境に土手の高さが倍以上になる為、小学生では登れなかったので遠回りを余儀なくされてしまったのだ。
「この辺から聞こえてきたと思うんだけど…」
辺りを見渡しても声の主は見つからない。
白山様と呼ばれていたそのお社には小さな古ぼけたお地蔵様とそれを囲う鬱蒼と生い茂った草木のみ。
時折吹く風が草木を鳴らし、「なにか」の鳴き声を隠してくる。
いくら探しても見つけられない苛立ちを隠しきれない小学生の俺は大きな声で「なにか」を呼んでみた。
「おーい!なんかいるのー!?」
…当然返事はある訳が無い。
それでも何度も何度も呼んでみた。
田舎の夕暮れ時だ。農作業していたお爺さんやお婆さんも農耕具の片付けや晩御飯の準備などで周りには人気はない。つまりは夏の暑さに頭をヤラれ、幻聴を聞いた小学生が騒いでいてもバレはしない。
「おーい!なんか…」
もう一度呼ぼうとした時に後頭部を何者かに殴られた。
…父さんだった。
「うるせぇ!何騒いでんだ晃!」
犬の散歩をしに来た父さんが俺のプリチーな後頭部をグーでしばいたんだ。ただでさえ勉強が出来ない俺の貴重な脳細胞になんて事しやがる。
雨で濡れた地面に這いつくばる俺に父さんは
「晩飯できたって母さん呼んでるぞ」とだけ残して
まだ散歩を続けたい犬のジャックを無理矢理抱っこして家に戻って行った。
「いってぇ…」
後頭部を擦りながらふとお地蔵さんの方を見ると「なにか」の尻尾らしきモフモフがチラッと見えた。
…ビクッ!!とした。
そりゃそうだ。さっきまで何も居なかったはずなのに突然モフモフの尻尾が現れたんだ。しかもフヨフヨ動いている。
恐る恐る尻尾の主を確認しようとお地蔵さんの後を見たらなんと!
お地蔵さんからキツネの?尻尾が生えていた。
さっきよりも随分と風が出てきたのか、葉っぱ同士の喧嘩がヒートアップしている。
だが俺の頭上を飛ぶ飛行機の音や近くを通る救急車のサイレンの音まで聞こえなくなる程に心臓の鼓動が煩かった。
怖いような、ドキドキするような。
ワクワクするような、ビクビクするような。
不思議な感覚。
「お地蔵さんってキツネさんだったの?」
お地蔵さん(仮)に声を掛けるもやはり返事はない。
いつの間にやら夕方5時の町内放送が流れ、子供は帰る時間になっていた。
「ヤバい!父さんに追撃される!」
お地蔵さんの周りの雑草を足で踏み均し、首から下げていた水筒の水でお地蔵さん(仮)をさっと綺麗にしてあげてから、
「また明日来るね!」と言い残して俺は家に戻った。
「…クン」
猫が鳴くような、犬が鳴くような。
楽しそうな、嬉しそうなキツネの「声」が背後からそっと聞こえた気がした。
いつの間にか雨は止んでいて、夕焼けをダイヤに見立てた環状の虹がエンゲージリングのように輝いていた。
今後も連載をしていくつもりです。
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