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第8話

 調理棟の廊下をまばらに人が歩いている。全員これから実習を行う学生たちなので、一部を除いて真剣な顔つきだ。まあまれに目黒のような一見落ち着かないやつもいるが、そういうやつとて緊張がないわけではないのだろう。無駄に落ち着かなくなる理由は僕にはよくわからないが。


 目黒、ひなたと三人で作戦会議をしてから週末が空け、最初の実習の日になった。

 僕はまだ本来クラスAに向かうべきだが、今の目的はクラスBの講師哀原から推薦をもらうことだ。今日から事情を話してBで実習を覗かせてもらおう、正直何ができるかはわからないが僕の熱意を伝えるには必要なことだと思う。


 ギプスを付けて腕を肩から吊っている僕に対し、まだ多少の視線を感じる。桜湊杯の出場に関しての噂が立ち始めているのも耳には入っているが僕は逆に燃えるタイプだ。絶対に出場権を勝ち取って、この状態でも入賞してパリに留学する。


 クラスBに入るともう哀原がいた。都合がいい。

「哀原講師、少し話があるんですが」

 特に取り繕うとかは思わない。コミュニケーションは元々苦手だから単刀直入に伝えてみればいい、そう思いながらも緊張していると、横やりが入った。


「あ、クラスAの月見さん、先週ぶりですね」

「え、あぁ……冬並さん」 


 どうしようか。ちょうど講師と話せると思ったところなのに冬並に話しかけられてしまった。前回会った時の印象やひなたの話がチラリと頭をよぎってしまい、なんだかぎこちなくなる。


「冬並さんなんて呼ばなくていいですよ、でも呼びづらいだろうからお互い呼び捨てにしません?」

「う、うん」


 猫のような男だと直感的に思った。というのは大げさな言い方で、なんか笑い方が猫に似てる。やはりわざとらしいといえばわざとらしいので正直関わりづらい。


「哀原講師に用事があるん? 月見」

 よかった話が戻った。と思い返答をしようとしたが、雰囲気的に冬並がそのまま続けて話しだすようだ。なんか合わなかったな……と終わらせたくなる気持ちの他に、会話の主導権を握られているのでは? なんて感覚を頭の片隅に覚える。


「もしかして、桜湊杯の話? 俺も気になってた。月見はその腕で出られなくなったって噂聴いたけど、もしかしてクラスBの推薦もらおうとしてるのかと俺は思ってさ」

「それは……」


 なにもそこまでいきなり講師に言うつもりはなかったのだが。

 月見が笑った顔のまま、困ったような身体の身振りをする。


「でもさ、俺たちクラスBの推薦枠に月見が万が一来たら、元々クラスBの学生の枠とか減らんのかな?」

「え……?」


 なんだか嫌な雰囲気くらい僕にもわかる。冬並だけじゃない、クラス全体の僕への視線だ。

 冬並はアンサーを求めるかのように講師を見た。



次回 第9話-現実

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