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冒険者登録試験その1

ドアをノックする音が聞こえる。

(‥ん)


窓から日光が差し込んでいた。

朝になったようだ。


何度目かのノックのあと、廊下から足音が聞こえ、次第に遠ざかるのがわかった。


(モーニングノックかね)


起き上がり、ベッドの上で少し伸びをする。

ブーツに足を入れ紐を軽く結んだ。


テーブルの上に置いていた鍵を掴み、部屋を出る。

念の為鍵はかけておく。

階段を降りて、トイレへ。


男性用の縦長の小便器が1つ。

貯水タンク付きの洋式の便器が1つ。

洋式便器のそばには四角い木の箱があり、その中に紙も準備されていた。

使用後の紙を捨てるゴミ箱は見当たらない。紙を流して問題ないのだろう。

(異世界とはいえ日本風なのは助かる。この感じだと下水も整備されてるのかも)


小便器上部に繋がっている、水を流すための三角のハンドルの中央部と洋式便器の貯水タンク、どちらにも白く濁った光のクォーツが嵌め込まれている。


用を足した後、ハンドルを回して水を流すとクォーツが少し光ったようだった。


トイレの中は嫌な臭いもしない。

おそらく光のクォーツで水に浄化の力を与える構造になっているのだろう。


ゲーム内では生産スキルで何かを生み出す時はクォーツと共にMPも消費していた。

試しにステータスを確認してみると、MPが1減っている。もう一度ハンドルを回して水を流すと、さらに1消費された。

(なるほどね)


「へークォーツ消えないんだな。こんな使い方あるとはねぇ」


「さすがに永久に使えたりはしないと思うけど」


トイレから出たあとは、洗い場の蛇口を捻り、手を洗ったのちに顔を洗って口をゆすぐ。

「ふぅ」


シャツで顔を拭いつつ食堂へ向かうと、10歳前後と思われる女の子が料理を運んでいるのが見えた。

(娘さんかな) 


女主人の姿は見えない。おそらく厨房だろう。


宿泊客なのか、ヒューマンの5名がテーブルについている。


親子だろうか。父親らしき男と、15歳前後に見える少年が同じテーブル。

身なりの良い若い男女が同じテーブル。

少し汚れたシャツを着ている冒険者と思われる若い男は1人のようだ。


とりあえず空いているテーブルの椅子に腰掛ける。

こちらを伺っていた給仕の女の子が近づいてきた。


「おはようございまーす!お飲み物はどうされますか?」

元気よく話しかけてきた。

体型は似ていないが、顔立ちは女主人によく似ており、大きな目が可愛らしい女の子だった。

白のエプロンと頭巾は女主人とお揃いのようだが、頭巾の端には赤いサンゴの刺繍が入っている。


「えーと、エールとワインと果実酒があるんだっけ?」

昨日聞いた事だが、一応確認してみる。


「はい!あと、ソーダ水とお茶もあります!」


「なら、ソーダ水をもらえる?」

「わかりました!」

小走りで厨房の方へかけて行く女の子。


(元気でよろしい)

少し口元がほころんだ。


取手のない土色のコップに入ったソーダ水が運ばれてきたので口をつける。

炭酸は薄めだが、よく冷えており美味しかった。


そのあとはテキパキとテーブルに料理を運んでくれた。

丸いパンと、切れ目の入った細長いパン。どちらも焼きたてで、いい匂いがする。

湯気の出ている黄色いスープ。

緑の葉物野菜とトマトのサラダ。

胡椒のまぶされた肉厚のソーセージ。

スクランブルエッグ。

カットされたオレンジ。

といったメニューだった。


「パンとスープはおかわりもできます!」


「ありがとう」

おじぎして厨房にもどっていく女の子に声をかけて食事に向き合う。


焼きたての丸いパンを真ん中から千切ってみると、かすかにチーズの香りがした。どうやらチーズが練り込まれているようだ。

テーブルの真ん中にある藁で編まれた入れ物から、ナイフとフォークを取り出す。

ソーセージは胡椒と塩が絶妙な味つけで肉のうまみを引き立てており、肉厚かつジューシー。1口サイズにカットしながらスクランブルエッグと一緒に切れ目の入ったパンに挟んで食べた。

スープはどうやらコーンスープで、甘みのある味わいだった。パンを浸しても美味しい。

パンとスープはおかわりし、サラダとオレンジも新鮮で、満足のいく朝食だった。


「ふー。腹いっぱい。やっぱりグルメ旅決定だなこりゃ」


こちらが食べている間に親子と1名の冒険者は部屋に戻ったようだが、身なりの良い男女は談笑しながらまだ食事中のようだった。

女の子は見当たらない。

他の客は空き皿をそのままにしていたようなので、倣って部屋に戻った。


靴紐を結び直して外套を羽織り、荷物袋を背負う。

テーブルに置いていた短剣もベルトに固定した。


使用した毛布は一応、四角く畳んでおく。

「いきますか」

鍵をしめて一階へ。


受付には誰もいない。

まだ厨房だろうか。

男女も引き上げたようで、食堂にはテーブルを拭いている女の子のみだった。


近づいて話しかける。

「えーと、チェックアウトしたいんだけど、鍵はどうすれば?」


女の子は顔を上げ、側に寄ってきた。

「はい!ありがとうございました!鍵はわたしが預かります!」


鍵を手渡す。

「こちらこそありがとう。料理おいしかったよ」


母の料理を褒められたのが嬉しかったのか、少し自慢げで元気のいい笑顔を見せた女の子に背を向け、宿を後にした。


「さてと、今日は冒険者登録しないとな」

腰の短剣の柄にそっと手を触れ、冒険者ギルドに向けて歩き出す。


大通りは朝から買い物客で活気があった。

しっかりとした扉のある店舗が大通りの両端には建ち並び、歩行ルートとなる通りの中心は避けるような形で、所狭しとテント式の店も並んでいる。


テント式の店はほとんどが食料品のようで、一部がアクセサリーやガレージセールのように様々な雑貨等を扱っているようだ。


「いろいろ見て回るのも面白そう」

大通りの店を見回しながら冒険者ギルドの扉前までやってきた。


扉を開いて中へ入ると、結構な数の冒険者が集まっており、掲示板を見たり、テーブルを囲んで談笑したりしている。


(お、エルフにドワーフもいる)

エルフの男性とドワーフの男性が掲示板を見ながら何やら話している様子が見えた。


2人を横目に受付カウンターへ向かう。

昨日と違い、受付の女性はエリザ含めて3名。

エリザはカウンター正面に立っている。

他2名もヒューマンだった。

2名はカウンターの両端におり、どちらも冒険者とやりとりしている。


エリザと目が合った。

最初からこちらに気づいていたようだ。

(今日も美人だ)


受付カウンターまで歩を進め、エリザの前に立つ。

「おはようございます。冒険者登録をしたいのですが」


「お待ちしておりました。新規登録ですね」

エリザは笑顔で応じつつ、カウンター下から白い紙の用紙を取り出した。


「それでは、こちらにご記入よろしいですか?」


「わかりました」

カウンターに備えてある羽ペンをとり、側にあるインクをつける。

(えーとなになに‥‥)


冒険者登録許可申請書

名:

年齢:

性別:

種族:

(なんだ、これだけか)


記入後、用紙を180度回転させてエリザの方へ向けた。


「クライム様、ですね」

エリザはさっと目を通し、用紙の右下に印を押した。


押された印を読むと、『申請中』となっていた。


「クライム様。冒険者登録するには試験を受けていただく必要があります」


「はい」

(クォーツも全部売ったし、外で適当に弱そうなモンスターでも探せばいいか)

 

などと考えていると、予想外の言葉が聞こえてきた。


「それではギルド長をお呼びしますので、しばらくお待ちください」

(ん?)


「あの」

受付カウンターの奥の扉に向かおうとしたエリザに声をかける。

「えーと、ちなみにどういった試験なんでしょうか?」


「申し訳ありません!新規の方は久しぶりでしたので説明するのを失念しておりました」

エリザは少し焦った様子で答えた。


「冒険者新規登録には当ギルド長、もしくは当ギルド所属のシルバーサードクラスの冒険者のいずれかとの模擬戦をしていただく必要がございます」


(え!?)

「そ、そうなんすね。知りませんでした」


「本日の試験はギルド長が担当いたします」

お辞儀して、エリザはカウンター奥の扉の先へ消えていった。


(模擬戦?マジかよ)

試験はモンスターのドロップ品の納品だと勝手に思い込んでいた。


ゲームの通りだとすれば、冒険者ギルド長はどの街のギルドであったとしても、かなり強力なNPCだった。


仮にギルド長ではなく、シルバーサードクラスの冒険者が相手だったとしても今のステータスでは太刀打ちできない。


「ハードモードどころか、バグレベルのイベントなんですが‥」


うなだれるように受付カウンターに両肘をついて、重ねた手を額に当てた。

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