冒険者ギルド
扉を開くと、吹き抜けのホールとなっていた。
正面に受付カウンターが見える。
カウンター横にはクエスト掲示板、いくつかのテーブルと椅子もあるようだ。
2階への階段もあり、階段下近くには扉がある。
おそらく扉の先が酒場だろう。
冒険者達の笑い声が聞こえてくる。
カウンターにはヒューマンの女性が立っている。
他の冒険者は見当たらない。
カウンターへ足を進めながら、受付の女性の顔を確認する。
(美人‥)
首元にリボンのついた白いブラウスに、紺色のベスト。
やや面長で、切れ長の目、血色のよい唇。
カウンターに隠れ、上半身しか見えないが、姿勢がよく、モデルのような体型。
艶のある薄茶色の髪は、後ろから右肩に少し流されてまとめてあり、緩いウェーブがかかった毛先が鎖骨あたりにかかっている。
「こんばんは」
軽く会釈しながら声をかけた。
「こんばんは。どのようなご用件でしょうか?」
落ち着いた声色と笑顔で受付の女性が応えた。
(エラント受付人気No.1のエリザさんだろ絶対)
冒険者ギルドの受付NPCは基本3名で、プレイヤー達の間では、各街の冒険者ギルド受付NPC人気ランキングが作られたりしていたが、エラントではエリザというNPCの人気が高かった。
「えーと、先ほどエラントに着きまして、食事と宿を利用したいのですが」
「かしこまりました。それでは私、エリザが承ります」
(やっぱりエリザさんか、にしても美人すぎる)
クール系に見えて、柔らかい笑顔が素敵な、かなりタイプの女性だった。
「冒険者登録証の確認をよろしいでしょうか?」
(やっぱりギルド登録しないと施設利用できないか)
「すみません、まだ冒険者登録出来てないんです」
ゲームを進めるためには冒険者登録が必須となっており、登録する事で職業につく事が出来た。
登録するには簡単な納品クエストを受けなければならず、わざと負けない限り、武器なしでも倒せる最弱モンスターのラビットか、バットの素材を指定される。指定数を納めれば合格だ。
登録後はギルド内に自室を持つことができ、死亡した時の復活地点として設定できる。
「そうでしたか。申し訳ありませんが、新規登録は時間外業務となっておりまして‥」
エリザは困った様子だ。
「そうですか‥」
(納品素材はクォーツでも代用できたはずだけど、ゲームと同じ24時間営業ってわけにもいかないか)
「明日の朝からであれば受付できますので」
「わかりました」
(しょうがないか‥)
「あっ、そうだ」
巾着袋から全てのクォーツを取り出し、受付カウンターの上に並べた。
「買取していただくことはできますか?」
「クォーツの買取ですね。かしこまりました」
エリザは指差しながら、クォーツを数えた。
「全てモース1ですね。土が2つ、水が一つ1つ、風が3つで4500ジールでの買取となりますが、よろしいでしょうか?」
(そんな高く買い取ってくれるのか)
「はい。お願いします」
ゲームでは属性にもよるが、モース1の場合は基本的に100ジールほどの価値しかなかった。
カウンターに硬貨が並べられる。
銅製の丸い硬貨で、それぞれ数字が刻印してあった。
100ジール硬貨が5枚。
1000ジール硬貨が4枚。
「確かに」
巾着袋に硬貨をしまう。
「ちなみに、酒場は利用できます?」
エリザは少し困った顔をした。
「できますが、冒険者証がないと、少し割高になりますよ?」
「そうなんですね‥」
(そんな設定あるのかよ)
「宿もお探しとのことですし、食事も街の宿の食堂を利用された方がいいかもしれませんね」
「わかりました。そうします」
軽く会釈し、出口にむかう。
「あの」
エリザが声をかけてきたため、振り向く。
「はい?」
「宿なら大通りにある赤いサンゴ亭がおすすめですよ」
「ありがとう。いってみます」
笑顔で教えてくれたエリザに礼を言って、再度出口へ向かう。
「明日、お待ちしております」
エリザの声を背に受け、扉から外へ出た。