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初めての闘い

林に踏み入り、どれくらい経っただろう。

均された道を進んでいた。


なるべく慎重に進んではいるが、ここまで特にモンスターの気配は感じられなかった。


道幅は2人が横並びで通れるほどしかない。

おそらく、大きな木の安全地帯、通称『ヒノキ』に続く道だろう。


「こんなに長いのかよ」


ゲームでは1分もかからない道のりだったが、たしかにこの道でモンスターに遭遇した記憶はない。


しばらくすると、開けた道へ出た。


「おおっ」


道幅は10メートル以上はあるだろうか。

道の両端は背の高い木々で囲まれている。

木々を切り拓いて作られた道だろう。


木々の緑は風で揺れており、気持ちが落ち着く景色だった。


「癒される‥」


足を進めながら、視線を伸ばす。

道の先は分かれ道となっているようだった。


分かれ道までくると、側に立札があった。

『→エラント』

『←エラント渓谷』

(文字は読める、と)


始まりの街エラント。


「こっちね」

立札に従い、足を向ける。

反対の道の渓谷を越えた先には騎士の国オーダル王国があるはずだ。


「やっぱりQF世界で確定っぽいけど」

「なんかゲームとは全然違うな」

こんな開けた場所で遭遇しても困るわけだが、モンスターは一向に出てこない。


ゲーム内の水神の森は木々の間を縫って進むようなエリアだった。モンスターがいても、木の背に隠れてやり過ごしたり、見つかって追われても木に誘導して引っ掛けてやれば逃げ切れたりと、戦闘せずともプレイヤーの工夫で進めるような構造になっていた。


「行く意味あるのか分からんけど、これなら職なしでもあそこまでは普通に行けそうだな」


しばらく進むと、さらに道が広がった。

足の甲ほどの高さの草が生い茂る草原だった。

岩山や丘も見える。


こんなエリアは記憶にないが、どうやら水神の森を抜けたらしい。


かなり遠くに、街らしきものも見えた。

「エラントかな?結構遠いな」

日も昇り、おそらく昼ごろだろうか。

それなりに疲れも溜まっているが、足を止めるほどではない。

「腹減った‥」


その時、視界の端に動くものを捉えた。


初期エリアに配置されていたモンスター

『ウルフ』

間違いない。

ゲームと同じ焦茶色の毛に覆われており、2体いた。


そこそこ距離はあるが、見つかってしまったようだ。

モンスターの強さを調べられる基本スキルである『調べる』スキルも職なしでは使えない。


(勝てなさそうだしとりあえず走って逃げてみるか)


街の方へ軽く走りながら視線をウルフへ。

(はやっ)


すぐに追いつかれるとわかる程のスピードで近づいて来る。


走るのをやめて短剣を抜いた。


「意外と小さいな」

遠くからでは分からなかったが、柴犬の成犬程の大きさだった。


目の前まで来るとウルフ達はスピードを落とし、にじり寄るように近づいて来る。


なぜか恐怖を感じない。

内心ゲームと思っているからなのか。

ただの犬にしか見えないからなのか。


ーそれとも


吠えながら1匹が飛びかかってきた。

短剣を右手で前に突き出した構えで迎え撃つ。


(うわぁ‥)


いやな感触だった。

自分でも驚くほど冷静なまま突き出した短剣が、自ら飛び込む形となったウルフの胸の辺りに深々と突き刺さる。

滴る血が右手を濡らす。 

左手でウルフの毛をつかみ、そのまま地面に叩きつけざま、短剣を抜いて右手を前に突き出した構えをとり、残されたウルフと対峙する。


襲ってくるかと思われた1体は後退り、森の方へと去っていった。


ほとんど動じていない自分自身にとまどいはあったが、息を吐き、一息ついた。


「‥‥初めて動物殺しちゃったよ‥」

短剣を持ったままの右手の血の匂いをかぐ。

「うえっ」


短剣を地面に突き刺し、刃と右手の血を土で洗った。葉のある草を纏めて掴んで刃をぬぐい、鞘に納める。


倒れたウルフの死体を見つめる。

ゲームなら死体は消えて、ドロップアイテムとクォーツが残ったが、この世界ではどうだろうか?


「あっ」


死体がほのかに黄色く光り、側には黄色く濁った小石が残されていた。 

「クォーツはドロップするのか」

拾い上げ、巾着袋へしまう。


クォーツはモンスターを倒した時に得られるもので、いくつかの属性があり、また石の透明度によって希少性が変わる。


生産スキルで何かを作りだす時に用いられる、燃料のようなものでもある。


強敵であれば大量にドロップする。

冒険者にとってはクォーツの取得は通貨を得る基本的な手段のひとつであった。


「土のクォーツ。見るからにモース1かな」

ゲームではクォーツの希少性はモースという単位で表示されていた。最高はモース7。


ドロップアイテムを除き、最終装備となりえるようなレア装備はモース7のクォーツを大量に消費して製作するものがほとんどだった。


サーバー1の鍛冶職人に頼んでレア装備を作ってもらった思い出が蘇る。


巾着服にもいくつか入っていたのを確認済みだったが、どれもモース1だった。


「まあ飯は食えるだろ」


ウルフの死体を横目にエラントへ足を向けた。







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