街を目指して
日の光を感じて目を開ける。
空腹と喉の渇きを感じた。
まだ薄暗いが、どうやら朝になったようだ。
荷物袋には食料は入っていなかった。
せめて水を飲みたい。
湖の水を飲んでも大丈夫だろうか。
湖は透明度が高く、澄んでいる。
「まあ大丈夫だろ」
手ですくって水を飲む。
「うまっ」
何度か口に運んで喉の渇きはおさまった。
たしかアレがあったよな。
荷物袋から白い粉の入ったガラス瓶を取り出し、中身を舐めてみる。
思ったとおり、塩だった。
水分と塩分があれば、この場にとどまったとしても、食事なしでも10日は生き延びることは出来るだろう。
ネットでプチ断食サバイバル?に挑戦した人のブログを読んだことがある。
だが、楽しくなりそうなこの転生人生を餓死で終わらせたくは無い。
荷物をまとめて出発の準備をする。
荷物袋を背負い、敷いていた布は丸めて袋のフラップの間に挟み込んだ。
着替えと一緒に丸めてあった革の外套を羽織り、短剣の鞘をベルトに固定した。
外套を羽織ったことで、いかにも冒険者っぽくなった気がした。
周りを見渡す。
昨日は気付かなかったが、眠っていた場所の木の根元の反対側の地面は道のように均されていて、林へと続いていた。
湖の方に目をやると、遠くの方に小さな島が見えた。
島には何か青い石碑のようなものが建っている。
そのとき、思い出した。
「あー、リバイアサン」
この世界がクォーツワールドファンタジーだとすると、島の中央には地下に降りる階段があり、その先にリバイアサンというボスモンスターがいるはずだ。
「こんなでかい湖だったのか」
ゲーム内では、大きな木のエリアを経由してエリア移動した先に湖があったが、画面表示的には湖というより船着場があるのみで、そこからはすぐに島へ移動する演出だけだった。
船着場は見える範囲にはなかった。
「リアルだとこんな感じかぁ」
ということは、この場所は初期ダンジョンの水神の森だろう。
新規プレイヤーのレベル上げや素材回収の場所として設定されており、大きな木のある場所はモンスターが出現しない安全地帯だった。
木を見上げる。
「ん?まてよ‥?」
この場所にこのステータスで、しかもソロで来れるわけがない。
(いやいや、マジ?)
初期ダンジョンではあるが、ここは最深部である。
戦闘を避ければ、初期ステータスでも来るだけなら来れたとは思うが、来る意味がない。
「さすがにハードモード過ぎるだろ‥」
ゲーム内であればモンスターに倒されれば、設定したポイントへ死に戻りすることが出来る。
モンスターに見つかったらおそらくすぐに倒されてしまうだろう。
この世界で死んだらどうなるか、試す気はおきなかった。
モンスターにはプレイヤーを感知するいくつかのタイプがあり、視覚感知、聴覚感知、嗅覚感知、生命感知、全感知、などがあり、それぞれに感知範囲も設定されている。
水神の森は視覚感知のモンスターのみが配置されていたはずだ。
そのため感知遮断魔法がなくとも見つからずに移動することはそこまで難しいエリアではないが、モンスターはプレイヤーを見つけると鈍足のモンスターを除き、移動スピードが最低でもプレイヤーの1.2倍になるため、もし見つかった場合、逃げ切る事は難しい仕様となっていた。
基本的にダンジョンは奥に行くほどモンスターが強くなる。
ソロなら前衛職でレベル10、回復アイテムなどを持っていればここまで来る事は容易いが‥。
「職なしじゃなぁ」
ゲームであれば、レベル上げのために冒険者がここまで来ることもあるかもしれないが、そもそも自分以外のプレイヤーがいるかどうかも分からない。
迷ったが、街を目指すことにした。
視覚感知のモンスター相手ならば、やり過ごす事ができるだろうという自信があった。
「ただ、ここから街までどれくらいかかるやら」
林の方へ続いている道へと足を運ぶ。
おそらく、ゲームのように30分でエリアを抜けられるなんて事はないだろう。すくなくとも数時間はかかると予想した。
足を止め、短剣を抜いて振ってみた。
ゲームと違い、思うままに振ることができる。
「もしかしたらレベル差補正とか関係なく格上も倒せたりするかも」
短剣を鞘に戻し、林の中へと足を踏み入れた。