職業選択その5
ロープリング内でガンドフと向かい合う。
「ドランからお前さんは格闘術の心得があると聞いてるからな。適性に関しては問題ないだろ。とりあえずは拳闘士の特徴の説明をするか」
「はい」
「拳闘士はその名の通り拳で戦う事を得意としている職業なわけだが、人相手ならともかくモンスター相手にゃ流石に素手じゃ心元ないからな。俺みたいに手甲やらナックルを装備するのが普通だな。蹴りを使う事もあるから脛当やら鉄を仕込んだブーツなんかも必要だな」
ガンドフは金属製の手甲を軽く手で叩きつつ説明した。
「なるほど」
「まあ装備より何よりも拳闘士として重要な事は自分の肉体を闘気で強化出来るかどうかにかかってくる。剣士と比べるとリーチや攻撃力では劣るからな。そこを埋めるのが闘気ってわけだ」
そういうと、ガンドフはその場で跳躍した。
大柄な体格ながら2メートル近くの垂直飛びを披露してみせた。
「闘気で肉体を強化出来れば攻撃力も上がって、俺みたいな体格でもこの程度の跳躍は軽く出来るようになるぜ」
「すごいジャンプ力‥」
プロレスラーのような体格のガンドフが体操選手さながらの軽やかな跳躍。現実ではありえないレベルの身体能力だった。
「闘気自体は他の職業でも使えるようになるが、こと肉体強化という点においては拳闘士が1番だな!」
(ふーむ、闘気か。この辺はゲームと少し似てるかも)
ゲームでのいわゆる前衛職業は戦闘中攻撃をヒットさせる、もしくは攻撃を受けたり回避すると闘気ゲージが上昇し、職業ごとの恩恵が得られるシステムで、拳闘士は攻撃間隔が短く、敵からの攻撃を回避する能力にも長けていたため闘気ゲージが貯まりやすい職業だった。
「あとは‥剣が効きにくい硬いモンスターには拳闘士の攻撃が効きやすい。逆に柔らかくて衝撃を吸収するようなやつらは苦手だな。特徴としてはざっとこんなところだ」
「わかりました」
「よし!なら軽く模擬戦でもしてみるか!」
「なぜに‥」
「ドランとの模擬戦の話を聞いた時からお前さんが実際どのくらいやるのか興味があってな。さっきの剣さばきといい、聞いてた以上にただ者じゃねえな」
にやりとしているガンドフはやる気まんまんのようだった。
(いやいや勘弁してくれよ‥)
「えーと痛いのはちょっと‥次はミルーシャさんの猟士の適性確認ということで‥」
ガンドフにくるりと背を向けてミルーシャの姿を探そうとしたところ、ガシッと肩をつかまれる。
「おいおい、そりゃないぜ、軽くならいいだろ?」
(うーん、まあ軽くってことならチート能力確認も兼ねてやってみてもいいかも)
「わかりました。軽くなら」
「よし、ならいくぜ」
言うが早いか、ガンドフが一足跳びで踏み込んでくる。
「ちょっ準備くらいーー」
ガンドフは飛び込みざま、着地した左足を軸として振りかぶった右拳をこちらの顔面へと打ちこんできた。
スピードはあるが、目で追えない程ではなかった。
左手をガンドフの右拳の側面に当てがいながら内側に回転させつつ、前進しながら身体を半身にして拳を避ける。
こちらの右拳は腰溜めにしておき、ガンドフの胴体へといつでも放てる状態。
「ーーやるじゃねぇか」
ニヤリとするガンドフ。
「いやいや今の当たってたらけっこうな怪我ですよ‥」
(あぶねえー、これで軽くとか)
バックステップでガンドフから少し距離をとっておく。
「わはは!手加減はしてるぜ?ただまあサンドラがいるから多少は怪我させちまっても大丈夫だろと思って打ち込んでみたけどな!」
「勘弁してくださいよ‥」
「今のを捌けるんなら次はもう少し強めにいくから、なっ!」
下がってとった距離をすぐに詰めてくる。先ほどと同じ踏み込みながらの右ストレート。
「っ!」
(さっきより速い!)
気づいたときにはガンドフの右拳が眼前に迫っていたが、思考は相変わらず冷静なまま。
(ーーちょっと本気でやってみる)
気持ちを固めた瞬間、自然と身体が臨戦体勢に入った事が理解出来た。
ガンドフの右拳に対し、重ねた左右の掌でつつみかぶせるようにして衝撃を受けとめる。
かなりの衝撃に両腕へと痛みが走り、体が浮き上がる。
体が浮き上がると同時に右足で地面を蹴り、打撃の威力を極力殺しつつ、その勢いは上昇する力へと利用して左の膝の一撃をガンドフの右上腕内側へと叩き込んだ。
手甲で守られていない内側部分への一撃。
本気で攻撃の意思を込めたこともあってか、確かな手応えを感じた。
(今の感触‥やりすぎたかも)
が、ガンドフは止まらなかった。
すぐさま右拳を引きつつ軸足を右足に変えて、まだ滞空中のこちらへと左のミドルキックを放ってくる。
(あーこれは無理)
着地が間に合わないため、回避は出来ない。
右肘と右膝を付けるようにして衝撃に備え、体を丸めつつ蹴りの一撃を受け止めた。
蹴りは重く、先ほどの拳とは段違いの衝撃に一瞬意識が飛びそうになる。
衝撃により吹き飛ばされながらも空中で姿勢制御、一回転して何とか着地したが、視界がフラつき立っていられず膝をつく。
どうやらロープリング外まで吹き飛ばされたようだ。
「いってぇえ」
右腕を押さえながらガンドフの方をみやると、蹴った左足をゆっくり下げているところだった。
「ここまでだな!」
その顔は満足そうだ。
「サンドラ!クライムをみてやってくれ」
ガンドフが声をかけるとサンドラが駆け寄ってきた。
「クライムさん、ガンドフさんを相手にすごいです!」
サンドラは興奮気味だった。
「はは、頑張りました」
(ギルド上位のベテラン相手に思ったよりも喰らいつけたって感じかな)
「治療しますね。『ヒーリング』」
サンドラがこちらの右腕に向かってヒーリングの魔法を放つ。
「あ、骨にヒビ入ってますね」
サンドラは笑顔のままだ。
(ヒーリングで診断もできるのね)
淡く白い光が痛めた腕をつつむ。
急速に痛みがひいていくのがわかった。
「おー、魔法すごい!痛みが引きました」
痛みは完全に消え去っていた。
サンドラはニコリと笑顔だ。
「サンドラ、俺も頼めるか」
「はい」
ガンドフの方へサンドラが駆け寄っていく。
ガンドフの右手にヒーリングをかけ始めたサンドラがつぶやいた。
「あ、ガンドフさんは折れてます」
(げ、やっぱりか)
「す、すみません」
ガンドフに頭を下げる。
「なあに、気にすんな!俺も結構本気で攻撃したからおあいこだ」
ガンドフはとくに気にもしてないようだった。
「それにしてもクライムよ。お前さんの身体能力は常人離れしてるな。防御系スキルは使っちゃいなかったが、闘気で身体能力は強化してたのにこれだ」
ヒーリング中の腕に視線を移しつつガンドフが言う。
「ああ、そうだな」
いつのまにかリーグザールが側に来ていた。
「職業についておらず、レベルも低い状態でここまで戦えるとはな。戦闘において天性の才能があるように思える」
「お二人にそう言っていただけるとちょっと自信ついちゃいますね。はは」
(何となくだけど分かってきたような)
ウルフ戦、ドランとの模擬戦を経て、戦い方は体が理解しているのではないかという事は薄々感じていたことだった。
今回の模擬戦により、確信に変わった。どこまでやれるのかの限界は把握出来てはいないが、ギルド上位の冒険者にここまで認められるのであれば近接戦闘能力はかなりのものだろう。
戦闘中に気持ちがやけに落ち着いてるのもそこに起因していると思われる。
レベルの高い相手にも攻撃が通り、攻撃を受けたとしても直撃せずに受ける事ができれば初期ステータスでも耐えることができるということから、レベル差補正のようなシステムはこの世界には存在していない。
加えてリーグザールの剣のことといい、ゲームと違い装備品に関してもレベルやステータスが関係ないようだ。
ゲームでは装備品によって必要レベルや必要ステータスが設定されており、満たせなければ装備は出来ても性能が発揮されないようになっていた。
(とりあえず戦闘能力はそれなりにチートレベルといってもいいくらい高そうだってのは分かってきた感じかな。レベル上げたら無双もできたりして)
「治療完了です。どうでしょう?」
ガンドフの右腕の治療が終わったようだ。
「大丈夫そうだ。ありがとよ!」
腕をぐるぐる回しながら確認するガンドフ。
(ものの数分で骨折も完治とはヒーリングすごいな)
「はい。ではクライムさん、次が最後となりますね。ミルから猟士の適性確認をしてもらいましょう」
ガンドフの容体を確認した後、こちらに向き直ったサンドラがミルーシャを手招きする。
近づいてきたミルーシャは弓を手に持っていた。
「はい!じゃあ猟士の適性確認していくよー」
ミルーシャは明るい声で弓を掲げつつ言った。




