職業選択その3
ギルドを出て、訓練場へと続いている小道を進む。
「ギルド長ドランから聞いたんだが」
前を歩くリーグザールが振り向きながら話しかけてきた。
「君はかなり腕が立つみたいだな」
「ドランさんがそんなことを?いえいえそんな大したことは…」
(うーん。よく分からないチート能力でそこそこ動けるみたいですとは言えない)
「ドランが言ってるんだから自信もてよ!」
バン!とこちらの背中を叩きながらガンドフが言う。
「ごほっっ、そ、そうっすね」
咳き込みながらこたえる。
(力つよすぎだろ!それにしてもドランを呼び捨てにするとは。ベテランって話だったっけ)
「新人の職業適性確認指導クエストは後輩連中のいい経験になるからいつもならスルーするんだが、今回はドラン期待の新人ってことで興味がわいてな。まぁ、暇だったってのもあるんだけどよ!」
わははと笑いながらガンドフ。リーグザールも口元を緩めていた。
「そんな風な話はエリザさんからも聞きました。ところで、お二人のランクって・・?」
「俺もリーグもアイアンのファーストクラスだ。だがまあ、そろそろシルバーに昇格だな」
「それは・・すごいですね」
(シルバー付近となるとだいたいレベル60は越えてそうか)
などと話しているうちに、訓練場が見えてきた。
人影が2人確認でき、1人が手を振っているのが見える。
「サンドラ達だな」
手を挙げてリーグザールが応えた。
(同じエラントギルドだから顔見知りってことかね)
近づくにつれ、人影がはっきりしてきた。
1人は裾の長いゆったりとした白いローブ姿のヒューマンの女性。
ガンドフとさほど変わらないくらいに背が高く、背中まで伸びている明るい金髪が目を引いた。
優しそうな雰囲気をまとっている。
(この人がサンドラさんか。またもや好みの美人さん出現!)
手を振っていたもう1人は小柄な猫人の獣人だった。
灰色の髪をボブカットにしており、頭には猫人の特徴である猫耳がついている。
ポケットが幾つもついたベスト、ズボンも腿辺りにポケットがついたいわゆるワークパンツという格好から職業は猟士だろう。
(えーとたしかミルーシャさん?だったっけ。猫人てこんな感じかぁ)
パッと見は猫耳があるといえヒューマンに近いが、縦長の細長い瞳孔は想像していたよりもずっと猫っぽく、肌にはよく見ないと分からないほどの産毛が生えているようだ。
「ひっさしぶりー!」
元気な声で叫びながらリーグザールに抱きつくミルーシャ。
尻尾も元気に揺れていた。
「久しぶりだなミル。サンドラも」
顔色も変えずにミルーシャの顔を押しのけながらリーグザールが挨拶を返す。
「もう、ミルったら」
2人の様子をみてサンドラと呼ばれた白ローブの女性が笑った。
「お久しぶりです。リーグザールさん、ガンドフさん」
(見た目同様、やさしい声だなあ)
「ああ」
「おう!二人とも元気そうだな!」
微笑みながら挨拶したサンドラに二人が応える。
やりとりがひと段落したところを見計らって、こちらも挨拶をすることにする。
「はじめまして。クライムといいます。今日はよろしくお願いします」
サンドラとミルーシャに向けて軽くお辞儀をする。
「サンドラです。回復魔法士の指導をさせていただきます。よろしくお願いしますね」
「アタシはミルーシャ。猟士だよ。よろしくね!」
サンドラは微笑みながら、ミルーシャは元気よく手を上げながら挨拶を返してきた。
(この二人もいい人そうだ)
「挨拶は済んだようだな。サンドラ、今日は君がまとめ役をやってみてくれ」
「分かりました」
真面目な顔で頷くサンドラ。
(低ランクの冒険者にはいい経験になるって話しだったからサンドラさんに進行役みたいな事をやってもらうって感じか)
小さく咳払いして、サンドラが説明を始めた。
「流れとしまして、まずは各職業の適正を確認させていただきます。その後、クライムさんのコアソウルに職業を刻み、その職業の指導を行うといった流れになります。もしもご希望があれば他の職業の指導も行うことは可能ですので」
「わかりました」
(せっかくだし、適正外の職業だとしても全職指導を受ける方がお得かも)
「クライムさん、職業の適性は置いておいて、希望の職業はあったりしますか?」
サンドラが尋ねてくる。
「そうですね。攻撃魔法に興味があるんですが、基本ソロで活動しようと考えていますので回復魔法が使える方が便利かなとも思ってます」
「なるほど。それでは回復魔法士の適正確認からさせていただきますね」
「はい。よろしくお願いします」
「それではまず簡単に回復魔法士の職業についてなのですが、外傷を治すヒーリング、状態異常を治すキュアの魔法を他の職業よりも効率よく使えるようになるのが特徴です」
「はい」
「それから基本的に物理攻撃や攻撃魔法は不得手です。例外として、アンデッド系のモンスターへの攻撃魔法だけは得意としています。簡単ですが、回復魔法士の特徴としては以上となります」
「わかりました」
(ふーむ。だいたいゲームと同じみたいだな)
「では、ヒーリングを通して適正を確認させていただきますね。手を出していただけますか?」
「はい」
言われるままに右手をサンドラの前に出す。
こちらの右手に、サンドラが触れた。
「『ヒーリング』」
言葉とともに、透き通るような青白い光が右手を包み込んだ。
「おお・・。これが魔法・・!」
(なんか手があったかくて心地いい)
「今のがヒーリングの魔法です。魔力の流れを感じましたか?」
「えーと魔力ですか?・・うーん?手が暖かくは感じましたけど」
「よかった。それが魔力の流れなんです」
サンドラの顔が少し明るくなったような気がした。
「クライムさんは回復魔法士の適正があると思います」
「えーと、もしも適性がなければ何も感じ取れないのでしょうか?」
「そうですね。さきほどのヒーリングには微弱な魔法力しか込めませんでしたので、適性がない方は感じ取れないと思います」
「なるほど・・では希望通り回復魔法士の職業につくのは問題なさそうですね」
「はい」
サンドラは優しく微笑んだ。