冒険者登録完了
冒険者登録証を準備するまでの間、しばらく待つようにエリザから案内を受けたため、ギルド内の空いている椅子に腰掛けて待つことにした。
エリザ以外の3人はそれぞれの業務に戻っていった。
(これでこの世界でも一応は生活出来る基盤を得たことになるのかな)
冒険者であれば、ギルドの酒場とギルド宿舎を格安で利用出来るようになるはずだ。
ゲームでは冒険者登録することで、ギルド内に自室を与えられ、そこがいわゆる復活ポイントになっていたが、流石にそこまでのサービスはしてくれないようだった。
(しばらくは適当に雑魚狩りして金稼ぎながらこの世界の生活に慣れるとしますかね)
などと思いながら、気になってはいたものの、後回しにしていた事を改めて考えてみることにした。
ウルフとの戦闘、今回の模擬戦。
どちらも真っ先に違和感を感じたのは、緊張感や恐怖感をいっさい感じることもない、やけに冷静な自分。
今までの人生、動物に襲われたこともなければ、人と殴り合いの喧嘩もした事がない。
実際にその場面に直面して、動揺すらしないというのは、内心臆病な自分の性格上、考えられないことだった。
『クォーツワールドファンタジー』の世界に転生したことで、異世界転生お約束の何らかの能力が与えられているのではないか、とは内心期待していたが、ウルフと対峙した時はやけに落ち着いていると感じた以外は、構えた短剣に対し、偶然飛びかかってきたところを迎撃したと思っていたため、そこまで疑問には思わなかった。
だが今回の模擬戦は、この体に特別な力が宿っていると確信させるに十分過ぎるほどの結果だった。
拳闘士の職業につかずとも、ゲーム内の戦闘モーションを頭の中で何となく思い出しただけで、トレースしたかのように体を動かせるようになった。
冷静な思考による瞬時の判断力に加え、咄嗟の反応速度も相まって、拳闘士と呼ぶに相応しいほどの身体能力を発揮する事ができた。
(まあ似た動きが出来たのは構えモーションだけで、打撃とかはゲームの動きとは全く違ってたけど)
無意識に行っていたインパクトの瞬間にのみ拳を握ると言う動作や、体の重みを打撃に乗せるといった体の使い方に関しては、空手の先生から教えてもらった知識だ。
40歳の時、運動不足解消とストレス発散もかね、近所の空手道場に入門したことを思い出す。
子供空手教室がメインの道場だったため、大人の部の稽古は月に1回のみだった。
転生する前、45歳となっても、1度も休む事なく稽古は継続していた。
残念ながら、上達はあまり見られなかったが。
師の顔を思い出す。58歳で見た目は年相応だったが、鍛えた肉体と知識は本物で、噂ではプロ格闘家選手に指導する事もあったという。
(この世界でなら先生から教えていただいた知識を実戦で活用させていけそうです)
今回発揮された能力がチートスキルと呼べるほどの内容かどうかは置いておいて、少なくとも転生特典は間違いなく与えられているようだ。
(能力についても検証しないとな)
カウンター奥の扉からエリザが出てくる。
椅子から立ち上がり、受付カウンターへ向かう。
「クライム様、お待たせいたしました。こちらが冒険者登録証になります」
「これが‥」
渡された登録証は銅製のカードだった。
ちょうど、クレジットカードほどの大きさだ。
カードの左上から順に、名前、年齢、性別、種族、職業の記載。職業の箇所は空欄だった。
右上のランクというところに、カッパーサードクラスとある。
「こちらを提示していただければ、ギルド酒場で割引が受けられます。ギルドの宿舎にもお泊まりいただけるようになります。それから‥」
エリザはカウンター下から木の板のようなものを取り出した。
大きく三角形の絵が彫られており、ピラミッド図のように階層が別れて表記されており、下から上へ行くほどランクが高いというような説明が彫られている。
「冒険者にはランクというものが与えられます。最初は皆様カッパーランクから開始していただくことになります」
三角形の1番下を指差しながらエリザが説明を始めた。
ランク下から
カッパー
ブロンズ
アイアン
シルバー
ゴールド
となっており、それぞれのランクでも下からサード、セカンド、ファーストと区切られている。
例えば、カッパーのファーストクラスに到達すると、次のブロンズランクへの昇格試験が受けられるようになり、昇格するとブロンズのサードクラスから開始となる。
ゴールドランクだけは、フィフスクラスからスタートするため5段階の区切りとなっている。
(この辺りはゲームと同じなんだな)
ゲームではゴールドのさらに上のランクも途中のアップデートで追加されていたが、この世界には設定されてないようだ。
「冒険者ランクの説明は以上となります」
「わかりました。ところで、ランクアップすると何か利点があるんでしょうか?」
「はい。まず、報酬額のよいクエストを受けられるようになります。それと、冒険者ギルドで特注している高性能な装備品などを購入可能にもなります。そして、シルバーサードクラスまで到達されると、他の国や街にある冒険者ギルドとの間でポータル転移が利用出来るようになります」
エリザはスラスラと説明した。
「なるほど。ポータル転移はぜひ体験してみたいところですが、シルバーサードクラスですか。私には荷が重そうです」
苦笑しながら答える。
(このへんのシステムもゲームと同じか)
「そんな、クライム様はすぐにランクアップしていくだろうって、ギルド長がおっしゃっていましたよ」
胸に手を当てつつ、少しカウンターに乗り出し気味でエリザが言う。
「それはありがたいお言葉ですね」
素直に喜んでおく。
「でも、無理はしないでくださいね」
エリザは微笑んで説明を続ける。
「最後に、職業についての説明になります」