目覚めたらそこは
初投稿です。
よろしくお願いします。
ふと、風を感じた。
布団の中にいるはずなのに布団の感触がない。
そして、土の匂い。
(なんだ‥?)
目を開けつつ、ぼやける視界に目を擦りながら起き上がる。
ーそこはー
「‥は‥‥?」
思わず声が出た。
そこは見慣れた部屋ではなく、外だった。
時間帯はわからないが、辺りは暗く夜には違いない。
月明かりがわずかに辺りを照らしている。
真っ先に視界に入った目の前には池があり、月明かりを反射していた。
手をついている地面には布のようなものが敷いてある。この上で眠っていたようだ。
着ている服もいつものスウェットではなく、少し厚手の白いTシャツと黒っぽいズボンに年季の入った革のワークブーツ。
わけがわからない。
改めて周りを見渡してみる。
まず正面には池、というより湖と呼んでもよさそうなほど、大きな湖面が広がっていた。
そして眠っていた場所はどうやら大きな木の根元のようだ。すぐそばには焚き火の跡、荷物袋とおぼしきものも置かれていた。
その他には目ぼしいものは特に何もない。
林に囲まれており、見える範囲では土と草、小さい石ころ。そしてわずかな風。
いろんな考えがよぎったが、不思議と気持ちは落ち着いている。
立ち上がり、荷物袋を調べることにする。
「スマホは‥まあないわな」
荷物袋の中身は、鉄製の鍋、白い粉の入ったガラス瓶、木のカップに木のスプーン、フォーク、着替えと思われる衣服類、革鞘に入ったナイフ、革の巾着袋。
巾着には少し濁ってみえる色のついた小石のようなものが入っている。
目覚めた時点ですぐに思いあたらなかったわけではないが、置かれている状況に該当するいくつかの可能性のうちの一つではあった。
確信に変わったのは湖に映る自分の顔だった。
「異世界転生なのに自分の顔のままなんかい‥」
「でもかなり若くなったなぁ。こんな顔してたっけ?」
何気に美形になっている気がした。
「まあ異世界転生だとみんなイケメンになってたりするしな」
体型や身長にはそこまで変わりないようだが、シャツを捲るとお腹は出ておらず、適度に引き締まっていた。
お約束のチート能力とかありそうだけど神様から授かるイベントとかも無かったし、この先発生したりするんだろうか?
などと思いながら、考えを整理する。
名前は山川登
45歳。独身。
部屋で寝ていて起きたらおそらく、異世界。
死んだわけではない、はずだ。
普通に布団に入ったのを覚えている。
夢の可能性もあるが、この現実感は夢とは思えなかった。
荷物から察するに長旅をしているというよりキャンプ的な野宿中のようだ。
そして服装からするとおそらくはファンタジー世界。
モンスターとかもいるかもしれない。
魔法とかもあるかもしれない。
「ちょっと楽しくなってきたな」
昔から基本的にオタクであり、流行りの転生ものにもわりと馴染みがあるせいか、全く動揺していない自分に少し笑ってしまう。
「異世界ならステータスとかありそうだけど、えー、ステータスオープン」
目の前にゲームのようなウインドウが表示された。
あるのかよ。
「えーっと」
名前:クライム
種族:ヒューマン
性別:男
年齢:20歳
職業:なし
HP:110
MP:60
STR:9
DEX:9
AGL:9
INT:7
MND:8
武器スキル
短剣:1
魔法スキル
なし
称号:なし
「ステータスは貧弱そうだしチートスキルもなさそうだけど、20歳というのはいいね」
その場でジャンプしてみる。
体が軽い。
「おー、若さを感じる」
「にしてもクライムって‥まさかのQF世界とか」
昔ハマっていたゲームを思い出す。
「クォーツワールドファンタジー」
剣と魔法の世界で冒険者となったプレイヤーが、最終的に世界を救う英雄となる、という内容のゲームだ。
クライムというキャラ名で、仕事が終わった後、休日、ほぼずっとログインしてプレイしていた。いわゆる廃プレイヤーほどでは無かったが、それなりにサーバー内でも名の通ったプレイヤーだったという自覚はあった。
20代から30代半ばまで、10年以上はプレイしただろうか。
エンディングクエストをクリアしてからは気持ちが薄れて、あれだけ熱中してプレイしていたというのにほとんどログインしなくなり、仲間達も10年の間に次々と卒業していき、気づいたらサービス終了してしまっていた。
たしかサービス終了したのは10年くらい前だったはず。
「QF世界だとしても、こんな湖あったかな」
湖のあるダンジョンは複数あった記憶はあるが、10年以上前のことなので、すぐには思い出せなかった。
「さすがに職なしでこの装備なら初期ダンジョンだとは思うけど」
とりあえず朝まで待つことにして、横になった。