Ⅲ Ⅱ章「深い海に沈んだ少女達」
Ⅲ Ⅱ章「深い海に沈んだ少女達」
深海のような深い心に沈んだ二人の少女。
美佳とアクア、本名・雫。
今は深い深い闇に飲み込まれて消えた人を想い、沈み込んだ気持ちのまま、イタリア旅行の準備をしている途中だ。
「二人とも~、準備はできたかい」
「ん、まだ。」
「あともう少しってとこね」
「そうかぃそうかぃ~、まぁゆっくり準備するさー。出発は明日だし」
そう言って家から出ていくコッロ。
あの時と変わらない街の中を歩き、一人何を思うのだろう。
日常とは脆く儚いもの。
数年前、それを実感したつもりだった。
なのに改めて今思う。
どうして、こうなったのかと。
どうしてこのような結果に。
このような結果になったのだろうと。
あぁ、そうだ。始まりは全て…
あいつのせいだ。あいつのせいで、俺の人生はめちゃくちゃ。親父を殺し、せっかく友人になれた人まで殺そうとした。
ただ、命令されたってだけで。
人に与えられた事をただやるだけ。
浅薄な人生だ。
今まで、無駄に過ごしてきたと言ってもいいだろう。
己の能力に誇示し、しがみついてすがっていただけだ。
だから、今回は…きっちり自分で決めたことをきっちり最後までやり通そう。
霧也を助けよう。
だけど…
その前にまずは、あの二人だ。
コッロはアクアと美佳の顔を思い浮かべて、ため息を一つ。
「とにかく、あの二人をなんとかしないことには、どーにもならんな…全く…」
「ただいまぁー、荷造りは終わったぜ?」
ほんの少しだけ歩き、帰って来たコッロ。
家の様子をぐるりと一周見まわす。
荷造りは…終わったようだ。
「終わったみたいだね」
「うん、終わったよ。」
「コッロお帰りやー、終わったよー。あたしが手伝ったらちょちょいのちょい、すぐさぁ。」
「ありがとうございます」
「姉やんありがとなぁー」
「お礼なんてええんよ、もう二人が見ていられなくって…全然進まんもんやから、やってあげただけ」
「頼りになりますね」
「うちの姉やんだからあったりまえー」
「そういえば出発っていつ?」
「ん、明日」
「早!」
「だから、今日はもう寝るぜよー」
「口調戻った!?」
―――翌日・イタリア・フィレンツェにて―――
空港から出て、真っ先に向かった目的地、フィレンツェ。
歴史的な建物が並ぶ街並み。
レンガ造りの家。
歴史地区には、大きな橋があり、そこから見える夕日はなんとも美しい。
沈んでいく太陽がルビーのように煌々と輝いている。イタリア4都市に入る有名都市で、歴史地区は世界遺産に認定されている。
ここはコッロ達の生まれ故郷でもあり、宗教信仰と結びつきの強い場所となっているのだ。
「さぁ、ついたぜー俺らの故郷っ!」
「うちらの街、フィレンツェ! 綺麗な所やさかい、ゆっくり観光でもしてってやー」
「はい。」
「じゃ、いくぜー」
コッロとカッミノを先頭にして歩きだす一行。
二人は異常なテンションで雫と美佳を案内する。
「これが有名な サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂! 巨大なドームが特徴で、イタリアに
おけるゴシック建築および初期のルネサンス建築を代表する建物なんよ!」
「フィレンツェのシンボルにもなっていて、大戦後も奇跡的に残っているということから、さらに重
要視されるようになったんぜよ」
「へー。」
「すごいですねー」
「地元やからねー、よくしっとるんよ。うちらは」
「この聖堂、見たことあります。大戦中に…結構来てたんですよ、フィレンツェ。」
「そうかいそうかい! それはいいことだ、戦いの最中でも、ここに来ると癒されるからな」
「たしか、洗礼堂に“天国への扉”があるんですよね」
「そうぜよー、でも今の扉はレプリカであって、本物はあくまでも別のところに移されてるんぜよ。
前まではドゥオーモ付属博物館に置いてあったんだけど、今はある事件をきっかけにどこか奥深く出封印してるとかなんとか。」
「その事件っていうのがね…」
「なんですか?」
「天国への扉が、本当の天国への扉になったんぜよ。」
「はい?」
「要するに、扉が開いて、そしてその中に入った人がいたんよ。その人は、無事帰って来たんやけどね、その人の証言で…」
「神様に会った。といったらしいぜよ」
コッロはカッミノに覆いかぶさるように喋った。
「そして、死んだはずの自分の父親まで目にした。と…」
「そして、その時以来ずっと扉は開きっぱなし。近づくと吸い込まれるため、危険だと思ったその人が、扉を奪い。どこかに封印したっていう事件。」
「なんとも、変な事件ですね。そんなことがあるのでしょうか。」
「さぁ…わからない。」
「なんだったら、調べてみる?」
「ふぇ?」
「観光もかねて、調べてみたらいいと思ってね」
「お、いいんじゃないか?」
「なら決まり! 明日から調べましょう」




