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06.魔法が解けた後のこと


ガウルから説明を受けて、レナードが頷いた。


「信じられない話ですけど……。今のプリシラ嬢は確かにガウルですね」


レナードがはあとため息ををつく。


プリシラも、はあとため息をついてやる。


「もう本当に……。ガウル様ったら、全然私に似せようと努力もしないんですよ。私はこんなにガウル様を演じてるのに」


「………」




レナードは黙った。

ガウルを演じているというのは、この部屋の扉の前に立った時の事を言うのか。

それとも今目の前の姿も含まれるのか。



「テメェ死にたいのか?誰も部屋に来るなと言っただろう?」

「うるせえ!知らねえよ!痛い目に遭いたくなかったら、とっとと失せろ!」

「嫌だ!帰れよ!」


ガウルの声で、プリシラが自分に放った言葉。


ガウルはそんな事を言う奴では無い。


確かにガウルの見た目は威圧感があり、騎士団関連の事に関しては厳しいが、ガウルは基本落ち着いた男だ。


意味もなく声を荒げたりしないし、人が真剣な顔で説明している中、「飴だって噛んで見せるわ」などと嬉しそうに侍女に飴を噛み砕く姿を見せつけたりはしない。


この中身は本当にあの妖精姫なのか。




「あの、プリシラ嬢」

「え、何?私はガウルよ」

「……」


レナードがプリシラに声をかけると、すかさず訂正された。


「……ガウル。舞踏会からそのままこのガウルの部屋に来たようですが、これからどうなさるのですか?

三日後には魔法が解けるのでしょう?

このまま別れれば、世間は「プリシラ嬢は弄ばれて捨てられた」と噂しますよ。この先に、良い縁談は見込めないのではないですか?」


「まあ……そうなるでしょうね。でも良い縁談先って、「淑女のプリシラ」を期待してる訳でしょう?

一生気の抜けない淑女生活だなんて……そんな人生を送るくらいなら、「弄ばれた事で心身を病んで、領地で一生療養生活を余儀なくされるプリシラ」の方がマシかもしれない、って思いますの」


ふふとおかしそうに笑うプリシラに、ガウルが力無くため息をつく。


「俺の方が噂に耐えられねえよ……」


「あら?ガウル様、意外と繊細なのね」


意外そうに自分を見るプリシラに、ガウルが言葉をかけた。


「お前のその性格は、サッコロッソ伯爵も伯爵夫人も知ってるんだろう?ちゃんと訳を話せば、うちに泊まった事は上手く隠してくれるんじゃないのか?」


「ダメです!!」



それまで大人しく側に控えていたハンナが声をあげた。


「お嬢様はご家族様の前でも完璧な淑女なんです!こうしてリラックスしている姿を見せるのは、私の前だけなのです!」


どこか誇らしげにハンナが主張すると、ほほとプリシラが笑った。


「敵を欺くにはまず味方から、って言うでしょう?

誰にも怒られずに安心して引きこもるためには、家族の前でも病弱で完璧な淑女であるべきなのよ。

屋敷にいても部屋の外では気が抜けないから、淑女って本当に大変なんだから。

ここではガウル様らしく振る舞えばいいだけだし、気楽に過ごせて快適だわ。

あ、レナード様。私が淑女を装っている事は極秘事項ですよ。もしどこかで話そうものなら、この腕で痛めつけてやりますからね」


プリシラは袖をまくって、たくましい腕を見せつけてやる。


「「………」」





ガウルとレナードが何も言わずにお茶を飲み出した。


確かに秩序ある騎士団のトップともなれば、色々心配する事もあるだろう。


慰めるようにプリシラは声をかける。


「ガウル様、レナード様、ご安心ください。ガウル様とは昨夜も一緒のベッドで眠りましたが、ガウル様はしっかり縛り上げていますし、決して後から「あなたの子供です」なんて赤子を抱いて訪ねることはありませんから」


「「ブッッ!!」」

二人の男がお茶を吹き出した。


「ちょっと!私の姿でお茶を吹き出さないで!ハンナ!私を拭いてちょうだい!」


「はい!……ガウル様も、もう少し淑女らしくする努力をなさってくださいね」


プリシラの指示にハンナが素早く動き、ハンカチでガウルの口元を優しく拭きながら注意する。


『困った人達ね』という顔で自分達を見るプリシラに、レナードは声をかけた。


「プリシラ嬢。いくらプリシラ嬢の姿をしていても、こいつは男なんですよ。一緒のベッドで眠るのは危険じゃないですか?女性の力で縛った縄なんか、簡単に千切れるものですよ」


「え!!……縄を千切るですって?!」


プリシラの目が見開かれ、『信じられない!』というようにプリシラが立ち上がった。


『しまった。プリシラ嬢を怖がらせてしまった。ガウルの姿をしてるが、中身は妖精のように繊細なお嬢様だというのに』


レナードが謝ろうとプリシラの方に体を向けると、プリシラがダッと奥の寝室に駆けていってしまった。


泣かせてしまったのかもしれない。


「悪い。怖がらせたな」とレナードがガウルに謝ると、寝室に駆けて行ったはずのプリシラは、すぐに戻ってきた。



手にはスカーフを持っている。

そして二人の男に不敵に笑いかけた。


「おい、テメェら!俺を舐めてんじゃねえぞ!調子に乗ってるとこうだぞ!」


低い声で凄んで見せて、スカーフの両端を引っ張って、ビリッと破いて見せた。


「こんなんでビビってんなよ。俺の力はこんなもんじゃねえぞ。俺は縄だって千切れんだぞ!」


プリシラはさらにいきってみせる。

そしてハンナを見て、にっこりと微笑んだ。


「ねえハンナ、ちゃんと見てた?今の私、すごく凶悪じゃなかった?」

「ええとても。とても迫力がありましたよ」


「ふふ、そうよね」と侍女に楽しそうに笑うプリシラは、とても嬉しそうだった。






『どうやらプリシラ嬢は、ガウルの体が気に入ったようだな』


プリシラがガウルの顔で輝く笑顔を見せていた。

レナードは『まあこの先はこの先でまた考えればいいだろう』と、いったん問題を先送りする事にした。


ガウルも、もう何も言うことはないのだろう。

プリシラの姿をしたガウルが、考える事を放棄したのか無表情でプリシラを眺めていた。


レナードは、「ガウル、元気出せよ」と声をかけて、ガウルの肩を軽く叩くと、プリシラに鋭く睨まれた。


「おい!レナード!!俺のプリシラに気安く触んじゃねえぞ!俺は溺愛中なんだよ!やんのか?この野郎!」


ドスが聞いた声で、どう考えても淑女らしくない言葉で、レナードはプリシラに凄まれる。


「オラ!かかってこいよ!!」と袖を捲って、太い腕を見せつけてくるプリシラはとても楽しそうだった。


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