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05.リスドォル騎士団副団長、レナード


翌朝。ガウルの滞在するタウンハウスで、スッキリと目覚めたガウルの姿のプリシラは、モリモリ朝食を食べている。


「ハンナ、ちゃんと見てる?私こんなにご飯を食べれるわ。お肉だってこうよ。この大きく切ったお肉を、今から一口で食べてみせるわね」

「ええ。ハンナはちゃんと見てますよ」






朝から自分の姿のプリシラが、嬉しそうに朝食を食べている。

少しのフルーツを食べただけで、腹が膨れてしまったプリシラの姿をしたガウルは、プリシラと侍女のやり取りをただ見ていた。


『朝食を食べるだけでどうしてあんなに楽しそうに出来るんだ』と思うが、言葉にするのも億劫だった。



昨夜は上手く眠れなかった。

少し寝不足なだけなのに、この体はとても重く感じられる。頭も少しかすむようだ。


ガウルは昨夜を思い出す。


目隠しをされて風呂に入れられた後、化粧水やらクリームやら、ベタベタするものを身体中に塗りつけられて気持ちが悪かった。

髪を乾かすのにも時間がかかるし、色々あって昨夜は今までにない疲れを感じていた。


どうやらこの体はとても疲れやすいようだ。

ベッドに横になった時には、体が鉛のようにベッドに沈んでいく感覚さえしたほどだ。


『とにかく自分のベッドに横になる事が出来た』と、ため息を吐き出すと、自分の姿をしたプリシラが、同じベッドで横になってきた。


「お前……それは無いだろう。俺の体は丈夫だから、せめて床で寝ろよ」


信じられない思いでプリシラに声をかけると、信じられない者を見る目でプリシラに見返された。


「はあ?か弱い女性の私を床で寝させるつもり?ガウル様の姿をしていても、固い床で寝るのは私なのよ。本当に信じられない!」


「お前な……。いいさ。俺が床で寝る」


怒るプリシラに、ガウルがウンザリして言葉を返すと、プリシラが目を吊り上げた。


「ちょっと!か弱い私の体で床に寝るつもり?!信じられない事しないでよ!

ハンナ、ガウル様が動かないように縛っておいてちょうだい」


プリシラの言葉を受けて、侍女は「かしこまりました」と返事をしたかと思うと、プリシラの体をスカーフで縛りあげたのだ。


肌を傷つけないように縛り上げる技術はなかなかなものだと思うが、緩く縛られているだけなのに、この体が非力すぎてスカーフを解くこともできなかった。


もう対抗する気も失せて眠りについた訳だが、自分の姿を横にして、上手く寝付けなかった。


すぐにスースーと寝息を立てた自分の姿を信じられない思いで見つめながら夜を明かしたのだ。


体がダルくてしょうがない。


あまり食欲を見せないガウルに、「淑女は大変でしょう?」と、プリシラが晴々とした笑顔を見せていた。






「さあ、あと二日間引きこもらなくっちゃね。何して過ごそうかしら?ガウル様、チェスでもしませんか?」


「この姿が見えないのか?俺は仕事があるんだよ」


プリシラが、机に向かってペンを走らせるガウルに声をかけると、あっさりと断られた。

だけどプリシラは話しかけてみただけで、別にガウルと遊びたかった訳では無い。


「ふうん」と流しながら、プラプラと部屋の中を見て回る。


ここはリスドォル家所有のタウンハウスだ。

ガウルが王都で数日間過ごすだけのこの部屋は、特に面白い物がある訳では無い。


それでもプリシラが見慣れぬ、飾られている剣などが興味深くて眺めているところだった。






コンコンコンと扉がノックされる。


『どうやら私の出番のようね』とプリシラは、素早く扉の前に移動した。



「テメェ死にたいのか?誰も部屋に来るなと言っただろう?」


声を低めて扉の外に立つ者を脅してやる。


「ガウル?どうしたんだ?お前が呼んだんだろう?」


扉の外から言葉を返された。

言い返してやらねば。


「うるせえ!知らねえよ!痛い目に遭いたくなかったら、とっとと失せろ!」


「お前本当にどうしたんだ?ちょっと扉を開けろよ」


「嫌だ!帰れよ!」


扉の向こうの男が食い下がるのを聞いて、プリシラは『しつこい男ね』と、更に声を大きくする。





「……頼むからそいつを部屋に入れてやってくれないか。そいつは俺の従兄弟だ。そいつなら事情を話しても大丈夫だ。仕事を片付けるために俺が領地から呼んでたんだよ」


デスクから力無くガウルに声をかけられ、プリシラは「もう、しょうがないわね。溺愛中だって言ってるのに」と、ため息をついてやった。





扉を開けると、ガウルほどではないが、体格のいい背の高い男が立っていた。この人も騎士なんだろう。


ガウルと同じ年頃のような男が、プリシラの顔を訝しげに見てくる。


『失礼な人ね』と思いながら、「入っていいが、プリシラ嬢に触るなよ」と注意しておく。



部屋に足を踏み入れた男が、部屋の中で机に座るプリシラの姿のガウルを見て、驚いた目でプリシラを見た。


「ガウルお前……使用人の話は本当だったのか?あそこに座ってるの、妖精姫だろう?」


「そうだ。彼女はプリシラ・サッコロッソ嬢だ。プリシラ嬢に2メートル以上近づくなよ。俺は溺愛中なんだよ。テメェは用件言ってすぐ帰れよ」


「……ガウル?」


プリシラの言葉を聞いた男が訝しげにガウルを見た。





ガウルがうんざりした声でプリシラに声をかける。


「お前、本当に止めろよ……。そいつは仕事で呼んだと言っただろう?従兄弟のレナードだ。リスドォル騎士団の副団長やってる奴だよ」


「え……?プリシラ嬢……?」


レナードと紹介された男が、自分を紹介するプリシラの姿をしたガウルを見て戸惑っている。



どうやらレナードはガウルの従兄弟で、副団長まで務める男らしい。それならガウルの信頼も厚いのだろう。

目を丸くしているレナードに、プリシラは声をかけた。


「もう……。ガウル様とレナード様が、そのようなご関係ならしょうがないですね。事情をお話ししましょう。レナード様、お部屋へどうぞお入りください。

あれはガウル様ですけど、私の体ですからあまり近付いてはダメですよ」


「え……?あれがガウル……?」


更にレナードが目を丸くする。

混乱しすぎだろう。








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