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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最高のモブキャラスキルで世界征服する

Re

作者: レタス

一応、「最高のモブキャラスキルで世界征服する」という作品の前の物語ですが、単体だけでも読むことは出来ます。結構鬱めなので、苦手な人は本当にやめた方がいいです。あんまり鬱じゃないと思う人もいるかもしれません。

 俺は冬が嫌いだ。だって上着を着ないと寒いし、運動を楽しくできない。

 それに───



 家から締め出された時、寒くて仕方がないから。



 僕の名前は霧竺 幸也(きりじく こうや)。小学4年生。同級生にはコウヤ菌って呼ばれて、当たると押し付け合いになる。

 毎日冷たい目で見られて、机には黒いインクがばら撒かれてる。

「あ、ごめん。それコウヤ菌の机だった?こぼしちゃったw」

 ニヤニヤしながらこっちを見てくる。周りの奴らは、インクが可哀想と笑いながら言う。

 仕方がない。だって僕には父親が居ないから。お母さんが妊娠してすぐ、東京に転勤したらしい。

 そんなお父さんにも1度あったことがある。その時に唯一言っていたのは、「他人を信じるな。仲間を信じろ。」というよく分からないことだけだった。仲間だって他人じゃないか。でも、氷のように冷たい目をしたお父さんにはそんな言葉は届かない。

 廊下を歩いていると、陽キャの高島(たかじま)が前から歩いてきた。すると、わざとバン!と当たってきて、言い放った。

「うーわっ。コウヤ菌がついたんだけど。どうしてくれんの?」

 睨みつけることしか出来なかった。

「おい?何か言えよ?きゃん ゆー すぴーく じゃぱにーず?」

 煽るような英語で言ってくる。ストレスを貯めるしかない。だって何したって勝てっこないんだから。

 高島は走るのが速くて、殴ろうと思ってもすぐ逃げられるし、空手を習ってるから、逆にボコボコにされて終わる。

「なあ。こいつマジでムカついてきたんだけど。殴っていい?」

 周りの友達に聞く。周りも乗り気でやっちゃえーと言う。

「はあい。じゃあ許可貰ったのでボコしまーすw」



 教科書はない。靴も無い。上履きもない。もう、流れる涙もない。

 田舎だから近くの川にすぐ捨てられる。

 靴下のまま、家に帰る。途中、尖った石が足に刺さって転んで、周りの奴らに笑われる。

 でもこれはまだ僕の人生において地獄じゃない。



 家に着くと、母親が歩いてきた。

「...何これ?」

「川に捨てられた。僕いじめに...」

「何で私がお金かけて買ったものをコウ君は捨てちゃうの?ねえ?何で?!何でなの!?コウ君も私のことがどうでもいいの!?お父さんと同じように!?私が死んだってどうせ何も思わないんでしょ!?ねえ!?答えてよ!?」

 お母さんは僕の話を聞いてくれない。だから僕は話せない。僕にはお姉ちゃんが居る。今は自分の部屋で多分寝ている。優しくて、仲良くしてくれる。

 お母さんは気づいてないと思ってるみたいだけど、僕は気づいている。お父さんからは、月に1回裕福に暮らせるだけのお金と、僕への手紙が送ってこられる。けど、お母さんはそれを毎回破って捨てる。平日お母さんは仕事と言っているけれど、いつも、彼氏と遊んでいるのも知っている。休日に池の周りでサッカーをしようとしたら、お母さんが変なお兄さんと歩いているのを見て気づいた。その後、同級生にボールごと池に落とされて、無くなっちゃったけど。

 その時もお母さんは気づいていた。こっちを見て助けるどころか、彼氏と大笑いしていた。

 そんな毎日を過ごしていて、小学6年生になった。ある日先生に呼び出された。始業式の日に教科書は捨てられたから、ほぼ半年間授業は聞いているだけで、テストの点数はとても低い。

 先生は、

「俺は悲しい。どうしてお前は授業を受けない?教科書を持ってきてもくれないじゃないか。何でだ。言え。」

 と言った。理解が出来ない。お前は5年半何を見てた?1年生から残っている教師はお前だけだぞ?

「おい、言え。何でだ。聞いてるだろ!答えろ!そんなに学校が嫌いなら来なければいい!帰れ!」

「あんたがいじめを放置したからだろうが!!理由が他にあるか!!」

 全員が黙った。生徒も教師もいる職員室だった。だけどそんなことどうでもいい。何でまだこいつは教師ヅラできるんだ。生徒に寄り添えなくて何が教師だ。

 気づけば殴りかかっていた。急いで理科の教師が止めにかかるが、女の教師だったから押さえられず、体育の教師がやっと来て止まった。

 帰り、下駄箱に向かう途中、高島にあった。

「...キンモ」

 高島はそれだけ言って帰って行った。



 家に帰ると今までの12年間と同じように親はヒステリックに怒鳴り、殴りかかってくる。

 なんで?どうして僕が殴られるんだ?クソ教師を殴っただけだろ?被害者は良い奴でいないといけないという法律があるのか?正当防衛もダメなのか?そもそもこの世に正当なんてものがあるのか?

 人間の先入観で作られたハリボテのものを正義と言い、その土台に乗ったハリボテの人間をヒーローの呼ぶ。

 馬鹿なことを考えていても変わらなかった。中学1年生の冬。薄着1枚のまま、「出てけ!!」と言われ、ベランダに閉じ込められた。

 俺は冬が嫌いだ。だって上着を着ないと寒いし、運動を楽しくできない。

 それに───



 家から締め出された時、寒くて仕方がないから。

 寒い───そう思って何時間経っただろう。窓を割って中に入ってやりたいけど、もうそんな力残ってなかった。

 すると、家の中に誰かが入るのが見えた。ベランダは2階にあるから、玄関の様子がハッキリと見える。

 あれはもしかして───

 回らない頭で考えようと努力してみても、寒くて考えられなくなる。

 すると、ベランダの窓が開けられた。目の前には玄関に入っていった人物、お父さんがいた。

「なんで来たの?」

 答えてくれない。

「なんで今まで家に来なかったの?」

 答えてくれない。

「なんで───

銃を持ってるの?」

 言い終わる前に、リビングに入った。すると、目の前に広がっていたのは、赤と黒。

 床に倒れるお母さんの周りには赤黒い液体が広がっている。

「お姉ちゃんはどこだ。」

 お父さんが聞いてくる。

「自分の部屋でずっと寝てる。」

 そう言うと何か察したように、目を見開いて、すぐいつもの表情に戻った。

「他人を信じるな。幸也。」

 黒く淀んだ目をしたお父さんはそう言い、また家を出ていった。



 そこからは端的な毎日だった。学校へ行き、虐められ、帰る。唯一違うのは帰っても何も音がしないだけ。シンと静まった家は妙な安心感があった。

 ご飯は自分で用意した。床は赤くて汚いけれど、ご飯は美味しかった。



 そんなある日、食料が尽きた。この暗い家に、1人取り残された気分だった。そんな時、インターホンがなった。

「警察です。」

 驚いて、吐きそうになったが無視していると、強引に扉を叩いて、(しばら)くすると、扉を突き飛ばし入ってきた。

殺せ───

 そう心が言って、今にも暴れだしそうだった。

「何だ...この家は───!」

 壁越しに隠れながら警察を見ると、身長の高い男と、太った小さい男が倒れているお母さんに近寄っていた。

───何が不思議何だ?ただ死んでるだけじゃないか。

「2階も探せ!」

 小さい男が指示する。待てよ、2階はお姉ちゃんが寝てるんだぞ?

 偶然自分のいる場所の方が階段に近かったので、先に2階のお姉ちゃんの部屋に行った。

「お姉ちゃん大丈夫だよ。安心して寝ててね。」

 部屋の鍵を閉めて、音を立てないように扉の前に座り込んだ。

 こんな事態でもお姉ちゃんはピクリとも動かない。

───相当熟睡してるんだろうな。

 そう思っていると、身長の高い男がドンドンと扉を叩き、小さい男に報告する。

「鍵のしまった部屋があります。どう致しましょう。」

「捜索願は出ている。無理やりこじ開けろ。」

 そういえば1度お母さんがここらの警察はおかしいと言っていた事がある。

 そんなことを考えていたら扉が開き、警察2人が入ってきた。

「...!小さい子供じゃないか。まさか監禁されていたのか!?」

 そう言うと、小さい方の男はクローゼットや布団を見始めた。

「ここにも死体が...長女のカスミちゃんか...」

 死体?何を言ってるんだ?寝ているだけだろ?

「母親の方は数ヶ月前、長女の方は5年以上前に死んでいるな。」

「幸也君。お話出来るかな?」

 そう言えば最近1ヶ月ほど、何も喋ってなかった。喋ろうとしたが、何故か声が出なかった。最近夢にお母さんの死体がよく出てくる。道徳の授業で先生が言っていた、PTSDという症状かもしれない。言葉が詰まって出てこない。

「これはPTSDっぽいですね。1度施設に連れていきましょうか。」

 大きい方の男が言う。小さい方が頷き、そのまま連れていかれた。

 パトカーの中で色々聞いてきた。

「今から、新しいお家に行くんだけど、持ってきて欲しい荷物とかあるかな?」

 優しい口調で聞いてきてはいるが、探っていることぐらい分かる。

 あるにはあるが、面倒なので首を振ると「そっか」と言い、他の質問をしてきた。

「えーと、中学校はどこに通っているのかな?」

「...〇✕中です。」

 そう言うと驚いたようにわざとらしく言った。

「結構頭がいいところに行ってるんだね。勉強は楽しい?」

 首を振ると、「そうだよねー俺も嫌いだったなー。」と笑いながら言った。

「じゃあ友達関係はどうなんだい?優しそうだから多そうだけど...」

「そんなんいない!」

 突然大声で言ったので、小さい方はビクッとしていたが、慣れているのか大きい方は微動だにしなかった。

「そっか。ごめんね、嫌な事聞いて。」

 そう言うと運転に集中し始め、質問はしなくなった。小さい男は隣でこちらを睨んできている。

 何だか自分では無いみたいに、怒りやすくなっていた。

 始めに警察署にやってきた。女の警察に事情を説明して、「さっ、こっちに座っていようか。」と言って椅子に座らせた。

 すると、歳をとった警察と、先程の女の警察が近寄ってきた。

「辛いことがあったんだね〜。大丈夫〜?」

 空気も読まず金髪の女が聞いてくる。その後は色々な警察に事件のことを聞かれたが、全て黙って聞いていた。



 十数年後、施設から出て8年がたった俺は、会社員になっていた。とは言っても、大した給料は貰えない。ブラックな訳では無いが、あまり金のない会社だった。その後仕事を転々としつつ、35歳で安藤エリという女性と出会った。一目惚れした俺は様々なことがありつつも、付き合い、結婚に至った。6歳の霧竺 仁(きりじく じん)という息子を持って幸せな生活をしていた。



 44歳になった年、息子の8歳の誕生日になった。1月13日、夜遅くまで仕事をしていたので、夕食のレストランには間に合わなかったが、ケーキは買うことが出来た。息子は喜んでくれるだろうか。期待を抱いて、インターホンを鳴らすが、扉は一向に開かない。扉を開くと、昔見たような景色が広がっていた。証拠隠滅のために顔や指を焼かれた息子と、妻の死体があった。誰が見てもわかる他殺だった。

 数時間後目覚めたのは病室の上だった。アパートの2階で暮らしていた為、死体を見たショックで倒れたらしく、2階から落下した。

───いっその事死んだら良かったのに。

 そう思っていた。周りのものをぐちゃぐちゃにしても、頭を地面にうちつけても、2人が生き返らないのは分かっていた。けれどもう嫌だった。

 自分の中で自分が崩れる音がした。



 数年後会社は倒産した。46歳。飛び降りようと、何度考えただろう。犯人を殺してやると何度考えただろう。だけど、俺が死んだら2人は悲しむだけだとわかっていた。でも、死んだ。と言うより殺した。「霧竺幸也」という存在を消した。

 戸籍を偽った。犯人を殺すために、俺は別の人間になった。名前は「安藤仁」。2人から、苗字と名前を取った。意味は無いかもしれないが、犯人を殺すためなら何でもやってやる。

 これからが俺の『Re()』ベンジだ。



「年齢は32歳、名前は安藤仁です。御社に着いた際には───」

 まず、妻の会社に着くことにした。社内に関係者がいるかもしれない。結婚した後、数年後に妻はこの会社に突然着いた。何かあったのだろうか。

 数ヶ月が経ち、社員とも打ち解けてきた。

「そう言えば、ここの社員の方で亡くなった方がいるんですよね。名前は確か…」

「霧竺エリだ。元々は安藤だったが、結婚して霧竺になった。」

 そう言うと、上司はため息をついた。

「優しい子だったよ。よく社内で夫の自慢話をしていた。夫の方も色々事情があるらしいが頑張ってやっているらしい。」

 結構知っている上司に、だんだん疑い深くなっていった。

「先輩。ちなみになんですけど、犯人が誰だか分かるんですか?」

「知るわけないだろ。知っていたらそいつを殺してやるさ。」

 小柄で少し太った体型の上司だったが、中々優しさがある。

「じゃあ先輩はその女性のことが好きだったんですか。」

 恋愛感情を抱いていたが、結婚していることを知り、逆恨みで。という可能性もありうる。

 そう思い、聞いてみるとギクッとした表情で囁いてきた。

「別にその感情から何か行動を起こした訳じゃないが、好きではないといえば…嘘になる。」

 真剣な目をしていた。おそらく本気で妻を好きだったんだろう。

 嘘は着いていなさそうなので、この先輩は候補から外した。



 家に帰るといつも通り壁に書かれた数千人の名前を1人消した。

「名倉先輩は無しか…」

 会社での繋がり、同級生、よく行く店の店員、更には死亡日にすれ違った人。

「あと、2563人。」

 この中に犯人はいる。確実に。



 数年が経ったある日、この日は妻の同級生のいる会社に来ていた。残りは624人。まだ犯人は見つからない。気づけばもう35歳だった。

「もう25時か…」

 この会社では、35歳にもなってニートで行くあてもなく行った先がこの企業だったという設定になっている。会社はブラック企業だが、そんなことはどうでもいい。

 そんな、感覚が鈍くなったまま信号を渡ろうとすると、「危ない!!」という声が聞こえた。

 気づけば隣では大型トラックが突進してきていた。が、その時思ったことはひとつだった。


───そういえば今日誕生日だった



 壮絶な幼少期時代を過ごし、大人になっても妻と息子が殺され、悲惨な人生を送った安藤仁は死んだ。



 目を開けると、暗い海の上だった。だが、息をつくまもなくその海が金色に輝き出した。

 そして上からはこの世のものとは思えないほど美しい何かが降りてきた。そう最早、人ではなかった。

「えっと…あんたはなんだ?天人か何かか?」

 こんな状況でも意外とスっと頭に言葉が浮かんだ。

「私は貴方の転生後を決める者でございます。名をルェジンエと申します。」

 白く長い髪を揺らしながら、輝く姿はまるで天使のようだった。

「どうせ転生後も今までみたいなモブの人生を送るんだろうな…」

 と、言うとルェジンエは、直視すれば失明する程に輝き出した。

「承りました。貴方の転生後の能力はモブキャラスキル、名はオクル・ロウナですね?」

「へっ?」

 すると、ルェジンエは願うようにしていた手を上にかざし消えた。と、言うより自分がどこか違う場所に転移した。いや、転生した。



 また、俺の人生は『Re()』スタートした。

鬱漫画読んで影響されました。すいませんでした。

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