083 宝島~ブレドウィナー⑦~
「ちょっと! ハナちゃんも、ルナちゃんも意識戻らないよ!」
ステファが悲痛な声でシゲに問う。
「脳に高負荷がかかったんだ。残念だが暫くはどうにもできん。」
「高負荷って……。」
「四神については説明してもらう必要がありそうだな。」
俊也から静かに責められるように問われると、シゲはふうと一息吐くと「わかった。リヴァイアサンを倒したら説明をしよう。」と言うに留めた。
ステファはせめてもと、冷たい床に敷物を敷く。その上に誠と俊也が担いできたハナとルナを寝かせてやる。
「さて、残り一匹。倒してシゲに色々吐かせなきゃならんな。」
誠はそういって大剣を担ぎ上げてリヴァイアサンへと向かう。
俊也もそれに続いてリヴァイアサンへと駆け出す。
ぼりぼりと頭を掻きながらシゲはハナとルナに近づき、印を結んで呪符を貼り付ける。そしてキッとリヴァイアサンに向き直ると誠、俊也に続いて駆け出す。
そんな三人を見て、ステファも最後に残した二人を振り返ってから駆け出す。
「一人欠けてるとはいえ、このメンツで勝てなきゃどうにもならんな。」
そういいながらリヴァイアサンを圧倒する攻撃を一人で澄狐は担っている。
ペインとルカがヒット・アンド・アウェイで空から、地上からの攻撃を行い適切な防御を行って完封するスタイル。
それに対して澄狐はある意味防御をすべて捨て、とにかく連続攻撃で相手をノックバックさせて攻撃を続ける。
そこに誠の斬撃が加わり、俊也の多彩な攻撃も追加される。
シゲは隙を見ては魔法を飛ばす。しかし、あくまでもそれは牽制にしかならない。フレンドリーファイアがあるこの世界では魔法はコントロール可能な有限数で行わなくてはならない。
遠距離攻撃でコントロール可能な範囲となると、やはり4本が限界である。
アイスランスはシゲ自身の周囲に今では10本ほど展開できるのに、パーティで戦うとなると4本をバラバラに動かすことが精いっぱいなのである。
ルナがいれば10本すべてをコントロールすることもできるが、今はそれも望めない。
魔法は「展開」「射出」の二段階ではない。「展開」「射出」「制御」の三段階が求められる。
いわばファンネルと言い換えてもいい。ファンネルと異なることと言えば、属性と半無限に生成できることであろうか。
魔法は奥が深い。解釈次第でどうにでもなる。言葉を紡ぐことで現象を発生させる。
リアルでいくら言葉を紡いでも魔法として発言しないのは、それが世界のプログラミング言語として認識されていないから。
LAOの世界において、言葉は即ちプログラミング言語と同等のものとされており、それは呪となって魔法になる。
詠唱の短縮、つまりは魔法で出現させるものの名前を呼ぶということは『ショートカット』を利用して最終的な魔法を発現させているに過ぎない。
これらを総じて『魔法』と称している。つまり魔法とはexeであり、shであり、batであり、ps1なのである。
そんな波状攻撃の中、リヴァイアサンは反撃を試みるもダメージを負った者は後方にいるステファによってすぐに回復されてしまう。
リヴァイアサンとの戦いは見どころもなく、ただ一方的に蹂躙して結末を迎える。
圧倒的な火力と圧倒的なプレイヤースキル。廃人が本気を出したらボスでもひとたまりもない。
リヴァイアサンは大きく嘶くと、ずしんとその体躯を横にしてさらさらと砂になり消えていく。
「あっけねぇな。」
「弱い。弱すぎる。」
「ペインと師範代が既にだいぶ削っていたしな。」
「さて、今回の本題に入ろうか。」
「リヴァイアサンは前菜。メインディッシュは『四神』だからね。」
「はぁ。説明しなきゃダメか。」
「ダメだろうね。これはパーティの今後の指針にも関わる。」
シゲは腰を下ろし、懐から新しいタバコを取り出して火をつける。
空中に向かって吸い込んだ紫煙を吐き出すと、ようやく語り始める。
「まず『陰陽道』についての説明からしようか。『陰陽』って本来ならば決して交わることのない対極的なものであることは名前からして分かると思う。ただ、世の中にはどんな例外もある。例えば魔法のような水属性と火属性が対極だという事はみんな知っての通り。だが、リアルにはこの反目する属性を両方持つものが存在していることは知っているか?」
「水属性と火属性が両立……?」
「簡単だ。軽油やガソリンなんかがそれにあたるのだろ。」
俊也はこの辺のクイズにはめっぽう強い。
「そう、反目する事象、対極する事象が共存することがある。陰陽道も根っこはそこに在ると俺は考えている。俺自身は陰となり、発現するものが陽。そして四神においてはそれが段階的に強くなる。」
「どういうことじゃ?」
「今の師範代の状態は四神のレベルで言うとレベル2。レベル1は俺がルナに四神を降ろす事だな。基本的に四神を降ろしたルナは自由なNPCとして敵の殲滅に向かって戦う。一方でレベル2は従者となった者が自分の意志で四神の力をある程度使用することができる。あくまでも『四神の力を使用する』だけだから四神に化けることもない。」
「まぁ確かに。拳に青龍の力が乗るくらいじゃな。」
「レベル3になるとルナとのシンクロが必要になる。合体と言ってもいい。そうなると『四神』の姿に変化することができる。一般的な全力はここまで。」
「懐かしい言葉が出てきたな。シンクロとは。」
「便宜上使っているだけだ。レベル3の状態はあくまでも指示系統がちゃんと確立されていて、ハナが主でルナが従となってAIの力を存分に使用することができる。」
「ふむ。ある意味AIを取り込んで脳の二重処理を行うようなものか。」
「そう、そしてそこには明確的な主従が存在する。」
「で、今回ハナが使ったのは禁忌とされるレベル4。正直言ってハナがこの機能に気付いているとは思わなかった。」
「シゲではコントロールできんのか?」
「『四神』の降臨は、ある意味イタコにも似た事象だからな。きっかけは作れてもコントロールは出来ん。」
「あったなぁ。降霊術でスティーブ・ジョブズとお話する新興宗教。」
「おっと、それ以上は止めておいた方がいい。」
それを聞いて、皆一堂にくっっくっくと笑う。
「シンクロ率の話に戻そうか。降霊術の話は嫌な予感しかしない。レベル3はシンクロ率でいうなれば49.999%が上限値だ。持ち株比率と一緒だな。過半数は決してルナのAI側に渡してはならない。じゃあ持ち株比率を、シンクロ率を50%以上にするとどうなるか。自身の脳とAIの主従逆転が発生する。AIの演算速度に人間の脳が勝てるわけがない。だからこその主従関係。AIを人間の上位としてはならない理由は人間の脳では処理しきれないほどの速度を強いられるからだ。」
「じゃあ、ハナは……。」
「そう、レベル4であるシンクロ率50%を超えて、ルナの演算速度に自分の脳を合わせた。だから脳が疲弊してしまったんだ。」
「シゲの感覚で言うとどのくらいのシンクロ率だったと思う?」
「多分51%とか52%……本当に少しだけだとは思う。60%を超えるようなことがあると、脳信号に影響があると思う。例えば片目が使えなくなるとか、片腕が使えなくなるとか。」
「LAOでも肉体損傷が存在するのか……。」
「正確には脳損傷だな。できればこれは、本当に避けたい。LAOは本来脳へのノックバックが弱く設定されているはずなんだが。」
「どうにも俺達はLAOのシステムに嫌われているというか。俺達がLAOのシステムをぶっ壊しにかかっているというのか。」
「両方……というのが正解じゃろうな。」
澄狐の一言は、全員に重くのしかかった。




