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082 宝島~ブレドウィナー⑥~

 それからは皆、消極的な攻撃となってしまう。

 麻痺の威力が高すぎるからである。

 特に触腕からの攻撃は致命的である。盾を持たないメンバーでは掠っただけで致命傷になりかねない。

 背中を預けるステファには絶対的な信頼こそあれ、負担をかけすぎるのは本意ではない。

 

 俊也は装備を槍から弓へと変え、遠距離からの攻撃へと切り替える。

 シゲも魔法で遠距離からの攻撃を行うも、効果的な攻撃になっていない。

 一方でクラーケンは右の触腕を右から左に薙ぎ払うと麻痺針を無数に飛ばす。

 逆に左の触腕を左から右に薙ぎ払うと毒針を無数に飛ばす。

 残った二本の足は近くにいる者を絡めて動きを封じようとしてくる。

 

 この攻撃に辟易としているのは誠とハナである。

 麻痺針も毒針も本当に針なので見えにくいのである。せめて薔薇の棘程度の大きさがあるならば回避行動もある程度余裕をもってできる。

 それほどに、二人の目はいい。視力がどうこうではなく、動体視力が高いのである。

 そういう意味では、廃人の視力は大きく二つに分けられる。動体視力が高く、処理能力が高い者。誠やハナ、澄狐が該当する。

 一方で視野が広く、仲間を守る。状況の変化に対応するのはステファやシゲが該当する。

 そして最後は視力に頼らない。本人たちに言わせれば基本に忠実なだけというのがペインと俊也である。

 AならばB。BならばC。CならばD。一体いくつのパターンを持っているのかわからない。

 ペインはそれをランスと盾だけで実現し、俊也は複数の武器を使い分けることで実現させる。

 

「ちょっと誰か、作戦ないの!?」

 

 ハナが悲痛に叫び声をあげる。

 

「ルナ、ハナ! いけるか?」

 

 シゲがルナに問いかける。

 

「準備はいつでもできてるよー。」

 

「やっとだよ。」

  

 ハナは文句を言いながらもルナの前に並んでシゲに背中を預ける。

 シゲはルナの背中に呪符を貼り付け呪文を唱える。

 

「言葉を紡ぎ、呪となりて、魔法となる。元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る 白虎!」

 

 完全体の白虎。消耗が激しすぎるので通常は本人の資質を呼び覚ます形で四神を降ろす。

 先に澄狐に青龍を降ろした時も、完全体では降ろしていない。こんな場所で澄狐が戦力外となっては困るからである。

 完全体の白虎は大きく吠える。その身に雷を宿しバリバリと青く帯電する。

 白虎はクラーケンへと左右にステップを踏みながら突っ込む。右の触腕が大きく振りかぶって薙ぎ払ってきたものをジャンプで躱し

 今度は左の触腕を触腕の先をうまく回避しながら噛みつく。そしてグルルルルと低く唸ると首を激しく左右に振って左の触腕を引きちぎる。

 

「圧倒的だな……。」

 

 その姿をみて遠距離からちまちまと攻撃していた俊也が呆れた声をあげる。

 そして俊也は装備を鞭へと変えると、右の触腕に向かって投げつけてグッと引く。

 まるで力比べの様に俊也はクラーケンの右触腕を伸ばした状態へと持ち込む。

 誠は待ってましたとばかりに右の触腕へと近づき、大剣を振るう。何度も何度も何度も何度も。

 そして最後に大きく身体をひねり遠心力を利用した『巻き打ち』を放つことでクラーケンから右の触腕を切り離すことに成功した。

 

 クラーケンにとって足は自重を支えるものであり、触腕はバランスをとるものである。

 足が8本中6本失い、触腕も両方失った状態では自身を保つすることすらできず、その巨体を横に倒れていく。

 ズドーンと巨大な音が響き渡る。それを合図に誠と俊也は一気にクラーケン本体へと攻撃を仕掛ける。

 ハナは白虎の姿のまま爪で何度もクラーケンを切りつける。

 ステファはモーニングスターメイスで足を潰しにかかる。

 シゲは一番後ろから無数にありったけのアイスランスを上空からクラーケンへと雨が降るかの如く落とし続ける。

 シゲは魔法命中を制御せずに落とし続ける。このメンバーならフレンドリーファイアが有効でも勝手にかわしてくれる。

 

 こうなるとクラーケンを倒すのは時間の問題である。

 ただただ、一方的な暴力でクラーケンのHPを削り切るのである。

 もうすぐクラーケンのHPが削り切れるかというタイミングでクラーケンは細かくぶるぶると震えだす。

 その動きを察知したシゲは大きな声で叫ぶ。

 

「引け!」

 

 その声に反応できたのはステファと俊也だけだった。

 ステファはクラーケン本体ににそこまで接近していなかったし、俊也は持ち前の身軽さでシゲの声を聞いた瞬間に迷わず距離を取った。

 白虎化していたハナはある意味暴走状態で目の前の敵を倒すことに集中し過ぎていたし

 誠はそもそも重装備の為、動きがそこまで素早くない。

 

 クラーケンは最後の攻撃としてバフンという音と共に紫色の煙を口から吐き出してあたり一帯を包み込む。

 

『ハリケーン!』

 

 シゲは紫色の煙を一掃するべく、風の上位魔法で吹き飛ばしにかかる。

 魔法によって生じさせた竜巻は紫色の煙を巻き込むと霧散させていく。

 その中で、誠は倒れて全身を痙攣させている。一方の白虎であるハナはクラーケンへと噛みつき、それを離すことはなく攻撃し続けていた。

 ステファはすぐさまノーマライゼーションで誠を回復させる。俊也は誠を引きずって一度クラーケンから引き離す。

 

「まだ抵抗するとはね。さすがはボス級。」

 

 ステファは冷静に状況を分析する。

 白虎は大きく吠えると最後に大きく振りかぶって爪で切りつけるとばたんと倒れる。

 そしてそこにはルナとハナが残される。

 

「俊ちゃん急いで!」

 

 俊也は誠を離した後、今度はハナとルナを担いでクラーケンから距離をとる。

 それを確認したシゲは、ありったけの魔法をぶち込む。ファイアアロー、アイスアロー、ウィンドアロー、ストーンアロー。

 順番に途切れることなく、とめどなく、それは絨毯爆撃のようにすべてを飲み込む。

 

 全ての魔法が撃ち尽くされ、シゲのMPもゼロになった時、丁度クラーケンも消え去った。

 珍しくシゲが肩で息をしている。そのくらいクラーケンの死に際の一撃は危ういものであった。

 

「ステファ、どうだ……?」

 

 ステファはハナとルナの回復を行い、問題なしと判断していた。

 

「大丈夫。ステータス的にには問題なし。ただ、意識が戻らない……。」

 

「逆に拙いな……。ステファ、こいつを使ってくれ。」

 

 シゲはステファに月光の雫を投げて渡す。

 

「ちょっ……。これ貴重なんじゃないの?」

 

「あぁ、それしかない。」

 

「じゃあちゃんと渡してよね。」

 

 ステファは月光の雫が入った壺を傾けてルナとハナにそれぞれ1滴だけ飲ませる。

 

「っはぁっ……はあっ……はあっ……。」

 

 息を吹き返したハナは大きく呼吸をしてせき込む。

 ルナも息を吹き返すが、うえぇと変な声を出している。

 

「クラーケンを倒した代償は大きそうだ……。」

 

 俊也はそう呟いた。

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