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081 宝島~ブレドウィナー⑤~

 一方でクラーケンとの戦いは一進一退を繰り返していた。

 アタッカーである誠と俊也が攻撃を躱し、防御をしながら1本の足に向かって集中的に攻撃を行う。

 イカは足が8本あり、触腕と言われる腕が2本ある。もっぱら攻撃を仕掛けてくるのは触腕である。

 しかし足の方は攻撃者を掴みに来るのである。足には吸盤が存在し、巻き込まれるとそれこそ死ぬまで解放されることはないだろう。

 しかも足を攻撃しても、全く本体に対してダメージを与えている様子はない。

 勝利条件のわからぬ敵ほど面倒なことはない。

 

 一方で澄狐とハナはセイレーンを倒し終わりやってくる。

 しかし、状態をみた澄狐は早々に諦める。

 

「軟体動物は、ワシの攻撃で有効打を与えられるとは思えん。リヴァイアサンの方にいくとするかの。」

 

「私はアタッカーの数が必要そうなクラーケンの方がいいかな。」

 

 澄狐とハナはそれぞれが得意な方に加勢する。

 

「ありがてぇ。バフも貰えるしな。」

 

 そういうのは誠である。

 

「ボクのバフじゃ足りないってのかい?」

 

 ステファが不満そうに文句を言う。それに対して誠は苦笑いで済まそうとする。

 ステファのバフはラックに特化した『幸運の祈り』あとは全ステータスを少しだけ上昇させる『オールアップ」が主なバフである。

 それに対してハナのバフは『攻撃力上昇』や『移動速度上昇』、『命中力上昇』といった確実に攻撃を行うために必要な能力上昇が見込めるのである。

 とはいえ、バフを管理しながら自身も戦闘を行うというのは非常に難しい。

 

 そんな中、誠は防御しきれずクラーケンの触腕の薙ぎ払いをもろに受けて吹っ飛ぶ。

 しかし、ステファはフンといって回復をわざと行わない。その程度の攻撃で死ぬはずがないという前提はあるものの明らかな嫌がらせである。

 致し方なく誠は腰のポシェットからポーションを取り出して一気に飲み干すと袖口で口の周りを拭う。

 よっこらせと誠は立ち上がると、再び大剣を構えてクラーケンへと向かっていく。

 

「状況はどうなの?」

 

 ハナがステファへと問いかける。

 

「多分、足の一本一本にHPが設定されているタイプだね。全部切り落としてから本体を叩くか、10本の足全てを潜り抜けて本体を叩くか。」

 

「8本の足と2本の触腕ね。」

 

「シゲの真似をし過ぎ。」

 

「真似ついでに、ステファもどう?」

 

 そういってハナは背後で支援しているシゲに向けて親指でくいくいっと合図をする。

 

「ボクは君たち程、豪胆ではないからね。正攻法でいくよ。」

 

「あら、勿体ない。」

 

「お二人さん、そろそろこっちの支援も頼むよ。」

 

 俊也は手に持った槍で三本もの足と対峙し、華麗にさばいている。

 とはいえ、俊也は余裕の表情でクラーケンの足を突いて、いなして、時に槍を叩きつけている。

 

『ハヤブサの舞!』

 

 ハナはシミターの根元につけられている鈴をしゃらりと鳴らすと舞いを始める。

 移動速度のあがった誠、俊也は足の一本に狙いを定めて攻撃を仕掛ける。

 誠は上段からの振り下ろしによる強力な一撃を、俊也は槍攻撃による無数の連続突きを行う。

 しかし、足の一本を切断するまでには届かない。

 

「浅いか……。」

 

 そう呟いた俊也の横を二人が駆け抜ける。

 ハナは両手に持ったシミターで無数の攻撃を仕掛けて切りつける。

 そしてステファは足の根元をモーニングスターメイスで力一杯叩きつけると、ようやく一本の足が消滅する。

 

「ようやく一本か。」

 

 とはいえ、全員で攻撃すれば足程度ならば潰せることがわかった。

 そうなればあとは簡単な話である。単純に足の数が多いだけで、4人の攻撃で確実に一本は潰せるのである。

 しかも今の攻撃はスキルでの攻撃はしていない。スキルは強力な攻撃ではあるが、敵の数が多い場合は気を付けねばならない。

 スキルには必ず膠着時間と言われる隙が生じるし、連続で同じスキルは発動できないようにクルールタイムも設定されている。

 

 4人は一度クラーケンと距離を取って離れる。

 その隙間を見逃さないのはシゲである。アイスランスを唱えると、ルナのAIと共にコントロールしてクラーケンの1本の足へと集中攻撃を行う。

 そしてその攻撃が合図かの様に、4人はその足へと攻撃を集中させる。

 無論、攻撃の順序が常に一定とは限らない。触腕からの攻撃を誠がガードし、先に俊也が攻撃をすることもあれば

 俊也が触腕をいなす事でハナが攻撃を仕掛けるタイミングを図る。

 

 背後にいながらシゲが戦いをコントロールする。

 これが本来の廃人たちの戦い方。分散か、集中か、それとも防御か、支援か。

 シゲは自身で攻撃を行う事も多数ある。しかし根本にあるのはまるでメンバーを将棋の駒の様に、チェスの駒の様に

 各メンバーの一長一短を組み合わせて考えながらパーティ全体としての方針を決めているのである。

 

 残り足が2本、触腕が2本となったところでクラーケンが叫び声を高らかとあげる。

 

 クラーケンは口から無数の針をハナに向かって吐き出す。

 誠はハナの前に割って入り、大剣で防御してハナをかばう。

 しかし、大剣で防ぎきれなかった針が二、三本誠に突き刺さる。

 

「ダメージは大したことないな……うっ。」

 

 誠が片膝をついてしゃがみ込む。とすかさずそこに触腕がまっすぐに誠に向かっていく。

 そこで俊也が槍さばきで触腕を弾き飛ばす。

 それを見たステファはすかさず『基礎リカバリ』を用いて誠の毒を回復させる。

 

「助かったぜ。状態異常持ちか……。」

 

 誠はステファに礼を言いながら立ち上がる。

 

「連続では食らわないでね。対処できなくなるから。」

 

 とはいえ、攻撃する事には変わりはない。

 シゲは思い切って攻撃の対象を足から触腕に切り替えて、今度はウィンドアローを叩き込む。

 ウィンドアローの弾幕に隠れて4人は素早い連携で触腕へとターゲットを変更して攻撃態勢へと移る。

 最初に攻撃をしたのはハナだった。触腕に向けて高くジャンプして両手に持ったシミターで切りつける。本来はそのまま連続で切りつけるはずだった。

 しかし一度切りつけると、そのままハナは硬直して動かなくなり、空中からドシンと床に倒れるとピクピクと身体を痙攣させる。

 それを見た俊也は攻撃の手を止めて、ハナを担ぐと素早く後退する。

 そしてシゲはファイアアローで弾幕を再び展開する。

 

『ノーマライゼーション!』

 

「かっ……かはっ……。」

 

 ハナはステファの回復スキルでようやく呼吸が戻る。

 

「LAOの『麻痺』ってのはやばいな……。」

 

「一般的なゲームの麻痺が変だと言われればその通りなんだがな。」

 

 ゲームで言われる『麻痺』には様々なケースがある。

 例えば単純に暫く攻撃も防御もできない状態になる。例えば確率で攻撃も防御もできない状態になる。

 どちらにしても『身動きができない』というのが特徴であるが、実生活から考えれば道理に合わない。

 仮に脳からの信号を全てシャットアウトするとなると、それは瞬きや呼吸、歩行などすべてがシャットアウトされねばならない。

 つまり、呼吸が止まり全身が硬直し、脊髄反射もできないものとならねばならない。

 それほど『麻痺』というのは恐ろしいものなのである。

 

「ボクにどうしても負担を掛けたいみたいだね。」

 

 今までになかったクラーケンの触腕に無数の小さな針が出現し、状態異常攻撃が追加されたあかしだった。

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