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080 宝島~ブレドウィナー④~

 いくらそれぞれのメンバーが手練れとはいえ、同時に三体のボス級を相手にするのはなかなか骨が折れる。

 どの相手に対しても状況は拮抗、攻撃は当てられているが、効果的な一打は認められない。

 その中でも一番苦労しているのはセイレーンを相手にしているハナと澄狐である。

 リヴァイアサンとクラーケンは大型モンスターであるがゆえに、攻撃も当てやすい。

 その反撃も大振りでモーションも盗みやすい。俊也や誠であれば躱すなり防御したりすることで防ぐことができる。

 また、ステファを守る立ち回りも十二分にできている。時間をかければクラーケンは問題なく倒せるとシゲは踏んでいる。

 

 また、リヴァイアサンは炎系ドラゴンであるルカとの相性は悪いが、それを加味してもペインの突撃は確実にダメージを蓄積しているし

 ひらりひらりと舞うドラゴン騎乗も様になっている。

 

 そんな中、ハナと澄狐だけが対処できていない。

 セイレーンは空中を泳ぐように逃げる為、地上からしか攻撃の手段がない二人にはセイレーンが攻撃してくる時のカウンターしか狙えない。

 カウンター攻撃は本来で言えば、澄狐の独壇場である。合気道は常に相手の力を利用して反撃を行う。

 しかし、セイレーンの身体はぬるっとした感触がありなかなか上手く投げることができない。 

 また、打撃攻撃においても直前でスピードを落としたり急上昇したりと、魚の下半身を持つセイレーンに翻弄されてしまい、当てることができていない。

 ハナは補助スキルを使用して、澄狐の攻撃力や移動速度を上昇させて隙を伺う。

 シゲがいくら遠距離魔法で援護してもすいすいと泳ぐが如く攻撃を避け続ける。

 

「ちっ、面倒このうえない。」

 

 ハナが嘆く。

 

「何とかして引きずりおろさんとならんのう。」

 

「もしくはこっちが泳ぐか?」

 

「あのスピードに対応する様な泳ぎは無理じゃろて。」

 

普通なら(・・・・)ね。」

 

 ハナと澄狐は背中を合わせて次なるセイレーンの攻撃に備える。

 そして二人はひそひそと話を始める。

 

「で、方法は?」

 

「青龍でしょ。ここは。」

 

「『従属』契約の条件は?」

 

「陰は血を、陽は気を示し、あとは交換。」

 

「気の交換ってのがわからんな。」

 

「違うわ、血を貰い気を捧げるの。」

 

「おとなしく、血なんかくれるかのう?」

 

 澄狐の疑問に対して、ハナはふふっと笑う。

 

「可笑しいか?」

 

「真面目に考え過ぎよ。私はその話を聞いて『あぁ、なるほど』って思って即実行した。」

 

「なんじゃと!?」

 

「ヒントは吸血鬼~♪」

 

 そう言い残すと、ハナはちょうど降下してきたセイレーンに向けてシミターを振るって攻撃を当てに行くがひらりと躱されてしまう。

 無駄だとわかりながらも反撃を行わねばこちらがダメージを負ってしまう。

 イタチごっこもいずれどこかで綻びが発生してチャンスがあると信じている。

 残された澄狐は考える。吸血鬼について。

 

 吸血鬼とはドラキュラの事で間違いないであろう。血を食事として吸血行動をする伝説上の生き物である。

 シゲに言わせれば一言も二言もあるのだろうが、澄狐にそれほどの知識はない。

 知識がないというより興味がないのだ。一般論的な知識しか持ち合わせていないのも当然である。

 

 吸血鬼として、ドラキュラとしてやることとすれば吸血行動そのものしかない。

 血を得て気を送る……。なるほど。吸血行動か。澄狐は納得するとくるりと反転してセイレーンではなくシゲの方へと向き直る。

 そして澄狐の出せる最高速度でシゲへと向かって走り出す。

 シゲはちょうどペインとルカの支援の途中で澄狐に気付くのがほんの一瞬遅れた。

 その刹那、シゲは澄狐にがっちりと抱き着かれ、首筋に噛みつかれる。

 

「ぐっ……うぐっ……。」

 

 シゲの口から声が漏れる。

 澄狐はぺろりとシゲの首筋から流れる血を舐めとると、強く抱きしめる。

 すると目の前にウィンドウが現れ、『従属契約を行いますか?』と表示されている。

 澄狐は迷うことなく『YES』を選択する。そしてシゲを抱きしめる力を緩めるとシゲは自力で澄狐の腕の中から脱する。

 

「全く……。君たちは乱暴すぎる。」

 

 噛まれた首筋をさすりながらシゲはあきれたように言い放つ。

 

「結構簡単じゃったな。」

 

 ニヤリと笑う澄狐に対して、シゲは不満そうな顔のまま懐から一枚の式札を取り出す。

 

「師範代はやっぱり……背中がいいのかい?」

 

「そうじゃな。背中に頼む。」

 

 そういってシゲに背中を向けて、髪を肩にかけて準備を整える。

 シゲは式札を澄狐の背中へと張り付け、人差し指と中指を立てて五芒星の陰を刻む。

 

「元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る。この者に青龍の力を契約する。」

 

 そういうと澄狐の背中に貼られた式札が静かに発光し、そのまま背中へと消えていく。

 そしてシゲは澄狐の背中に手を当てて五芒星の印を刻む。

 

「急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》、シゲの名において命ずる……青龍!」

 

 すると澄狐の姿は一気に青龍へと変化し、中を泳ぐセイレーンへと向かって一気に突進する。

 思いもよらぬスピードで体当たりされたセイレーンはバランスを崩しピラーへと激突する。

 砂煙が舞う中、再びセイレーンはハナに向かって攻撃を仕掛ける。

 しかし、その攻撃が届くことはなく横から青龍となった澄狐ががっちりと口で咥えてホールドする。

 

 青龍の口からなんとか脱出しようと試みるセイレーンだが、青龍の力はすさまじく全く歯が立たない。

 地上ではハナが白虎の力を使用するべく、左手の紋章を光らせ全員を帯電させて待ち構えている。

 青龍はいつの間にか澄狐の姿へと戻り、セイレーンの背中から拳を突き立てて真っ直ぐにハナへと向かう。

 

 澄狐の右手がセイレーンの背中に、ハナの左手がセイレーンの腹へとめり込むと二人は叫ぶ。

 

「龍虎!」

 

「交差拳!」

 

 青龍と白虎、龍と虎が手を組み持てる全力をその一撃に叩き込んだのである。

 

「ギエエエエエエエエエエエエエエエッ」

 

 悲鳴にも似た雄たけびを上げてセイレーンはさらさらと砂になり消えていく。

 澄狐は右手を握ったり開いたりしながら自分に得られた新たなる力を確認する。

 

「これが……青龍の力……。」

 

 ハナが右手を挙げている。澄狐はハナに近づくと右手を挙げてパチンとハイタッチをする。

 

「ほらね、簡単だったでしょう?」

 

「本来の手順とは違いそうじゃがの。」

 

「契約なんてしたもの勝ちよ。」

 

「しかし、ワシに教えてよかったのか?」

 

「四神の力は公平であるべきよ。それと恋愛《これ》とは別問題。」

 

「そういうものか。」

 

「廃人だからね。お互いに。」

 

「違いない。」

 

 そういってハナと澄狐は笑いあうのだった。

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