078 宝島~ブレドウィナー②~
遠くでエンジンの音がする。
この世界はさらさらと水が流れるような音がずっと鳴っている。
深海では波の音など聞こえず、ただ海流に沿って水の流れる音だけが聞こえるのだろうか。
そんな中でエンジン音が聞こえるというのはやはり異質である。
だんだんと近づいてくるエンジン音は、やはりシゲ達のものだった。
シゲはいつもとは違うバイクに乗っている。普段は一人乗り専用のカフェレーサー仕様に乗っているのに対し、今はサイドカーがついており、そこには澄狐が乗っている。そして俊也はステファを後ろに乗せている。
俊也とステファの乗るバイクはシゲの乗るものとは明らかに違い、スクーターのような形状をしている。
「オートマなら楽に運転できるな。」
バイクを停止させて、俊也はシゲへと声をかける。
「欲しければあげるよ。俺はやはりオートマだと楽しくない。」
「楽しくないものをわざわざ作ったのか。」
「マニュアルでなくても、最低限クロスカブのようなロータリー式ではあって欲しいね。」
「アクセルひねって進むだけじゃ不満か。」
「巡行しているときはマニュアルもオートマも差はないんだが、気持ちの問題だね。」
そしてサイドカーの側車から澄狐が出てきて、ヘルメットを外して首を振りセミロングの髪を舞わせる。
そしてこんな風にバイクに乗った後に髪が舞うのは現実ではない証拠である。
リアルでは、まず風に晒されている髪の毛は水分を失いパッサパサになる。一方でヘルメットの中に収納されている髪の毛は蒸れるため汗でペタッとする。
だから結果として、某怪盗の三代目に出てくるヒロイン役の髪が舞うというのは嘘でしかない。
「側車は、通常のバイクより位置が低く地面に近い分、慣れるまではちと怖いのう。」
「ボクは初めてバイクに乗ったけど楽しいね。」
そういってニコニコしながらステファは俊也の後ろから降りてくる。
「ずるーい。」
そういうのはハナである。
なぜなら、生前のリアルの約束であるシゲのバイクの後ろに乗せてもらうという約束がまだ果たされていないからである。
シゲもそれをわかったうえで、わざわざサイドカーに澄狐を乗せてきた。
それでもハナは文句を言うのだろうなという予感はあった。
とはいえ、移動はさっさと終わらせてしまいたかったし、俊也も生前に免許を持っておりバイクに乗れることは知っていたのでシゲの作成したバイクを渡すこととした。
道中はモンスターの姿もなく、本当に駆け抜けるだけだったので注意するのは大理石のような床が滑ることだけだった。
その点、俊也の運転は安全運転だったし、シゲはサイドカーなので転ぶことなく先行組へと追いつくのは簡単だった。
「やっぱりピラーは7本か。」
シゲはハナの文句をスルーして状況の把握に努める。
「なんでやっぱりなの?」
「七つの海と言われれば、やはり『七つの海のティコ』なんかが有名だね。中世だと地中海、紅海、ペルシャ湾、アラビア海、ベンガル湾、南シナ海の7つの海を示しているし、現代だと北太平洋・南太平洋、北大西洋・南大西洋、インド洋、北極海、南極海で7つの海になるのかな。『海』を支えるのはいつだって7個なんだ。」
「でもなんでムー大陸で海を支えるって考えになるんじゃ?」
「『封印』と言っただろう? 海に封印するならそれは7本である必要がある。そしてブレドウィナーには俺の予想通りなら……。」
「予想通りなら?」
ハナがシゲに問いかける。
「『海王』がいるんだろうね。多分。」
「『海王ポセイドン』じゃな。」
パチカスである所以か、やはり澄狐は理解している。
「神殺しは大罪なんじゃないのかい? なんか色々後腐れがありそうで怖いね。」
ステファの様な神職からすると神殺しはいろいろと面倒なことになる可能性が高い。
神話として神殺しが肯定されるケースもあれば、否定されるケースも存在する。
「みんなが大好きな話をするとすれば、イエス・キリストを磔にしてイエス・キリストが十字架上で死んだ後、ローマ兵の百卒長「ロンギヌス」(聖ロンギヌスとも)が、イエスの生死を確認するためその脇腹を刺したとされる槍。これがロンギヌスの槍。一方でカエサル暗殺に関わった「ガイウス・カシウス・ロンギヌス」の名前から取られたと推測されるのがカシウスの槍。どちらの人物にも『ロンギヌス』が入っているから分かりにくいけど全く別の用途だし、そもそも出自が違う。ロンギヌスが『絶望の槍』とされているのは曲解だね。イエス・キリストの血が槍を伝ってロンギヌスの目に入った際、盲目だったロンギヌスの目が見えるようになったという逸話も残されている。とはいえ聖書の話ではなく福音書という別冊での話だし、これがどれだけ創作物なのかは判断できない。」
「神を殺しても問題ないと?」
ペインがシゲに問いかける。
「問題の有無でいえばあるのだろうけど、ぶっちゃけた話をするとラストアタックをした者以外には影響はないと考えていいかな。『神殺し』の面白いところはあくまでも『トドメ』をさしたものが神殺しの称号を得るのであって、途中で殴っている者は対象にならない。イエス・キリストだって磔にする際の釘は聖遺物だけど、釘を打った者については何の伝承も残されていない。極論『殺さなきゃ何をしてもいい』と考えるのが神の世界の様だ。そして、だ。」
「まだ何かあるのか?」
俊也がシゲに問いかける。
「この世界、信仰は確かにあるのだけれども全てが『女神』信仰なんだ。どこにも『男性神』が存在しない。かなり偏った世界だね。」
「つまり『ポセイドン』は……?」
「うん。『神』でない可能性が高い。」
「なるほどなぁ。」
シゲの解説に一同納得する。
「して、残りのピラーはどうするのじゃ? また分担するのかのう?」
「ここからは全員で攻略した方がいい気がする。」
そういうのはハナである。多少面倒でも全員で行動した方がいいと言っているのである。
「まぁ、今の話を聞いちゃうとしゃーねーか。」
賛同するのは誠である。
「そうだね。ここから先、ボクの火力じゃ役に立てそうもない。回復に徹するよ。」
ステファも本来の役目に戻ると言っている。
「ワシも回復役はいてくれた方がありがたい。」
澄狐も賛同する。
「私はお任せ。皆さんと一緒でいいです。」
ルカは基本的に方針は委ねてくれる。
「じゃあ、久々の全員攻略だな。」
そういうのは俊也である。
「万全を期すとするか。」
シゲのそのセリフですべてが決まった。
一同は残りの道具や、新しく手に入れた装備についての確認。
スキルによる互いの動きについて情報交換を行うのでった。
50年ぶりに廃人達のパーティアタックが実現する。




