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076 宝島~澄弧&シゲ③~

 澄狐はのんんびりとシゲに近づく。

 明らかに怒っている。それもかなりお怒りのご様子である。

 そして澄狐の背後にある真っ二つに割れた石の巨牛はさらさらと砂になって消えていく。

 

「師範代、今の技は……?」

 

 ちょっとシゲも澄狐に対して気を使って問いかける。

 

「あぁ、昔流行ったじゃろ。二連撃に見せた打撃の神髄じゃ。最初の一撃で物質に対しての衝撃を与えて、物質からの抵抗がゼロとなった瞬間に二撃目を叩き込む。それによってすべての力を二撃目では叩き込むことができる。理屈でいうのは簡単じゃが実践はなかなか難しい。」

 

「ひょっとして、スキル外の業かい?」

 

「スキルもあったんじゃがなぁ、なんだか興が乗らんで。実践してみたらできた。」

 

 LAOの世界では「スキル」と「スキル外」の技が存在する。

 シゲなんかは自分自身でスキルMODを作成して公開することで魔法にしても、仕込み杖の剣技にしても使えるようにしているがスキルは必ずクールタイムが存在するため、同じスキルや魔法をノータイムで連続に使い続けることはできない。

 そのため、複数のスキルを組み合わせてコンボを作り出し、技をループさせることで限りなく隙を作らず攻撃を一方的に与え続けることができる。

 ただ、そんなことが可能なのは格下のモンスターつまりはゴブリンやオーガなどに対してだけである。

 それ以上になると、回避や防御といった『立ち回り』というものが必要となってくる。馬鹿正直に真正面から攻撃を打ち合うようなノーガード戦法でポーションをがぶ飲みするような、昔のMMORPGでよくあった戦い方は通用しない。

 前衛、後衛という考え方は過去のものであり、後衛職だからと言って前衛スキルを取得することは無駄にはならない。

 実際問題としてステファはモーニングスターメイスでいつでもモンスターを殴る準備ができている。

 ステファのモーニングスターメイスは特にスキルも習得せず、ただ心の赴くままに振り回して打ち下ろす。時に野球でホームランを打つかのごとく振り回す。これは完全に我流でスキル外の攻撃となる。

 だからこそ、好きなタイミングで振り回せるし、振り回し方も自由。スキルに縛られることないのが特徴である。

 

 ただ、ステファのように必要な時にだけ振り回して今の一瞬だけを乗り切る事に対して、澄狐の技はスキルと比べても遜色ない威力であり、立派な技として確立されている。

 これは一朝一夕でできることではなく、ひとえに澄狐のたゆまぬ努力である。

 

「どれだけの時間を使えば……。」

 

「そりゃ生前からじゃ。結局成功したのはLAOの世界に来てからじゃがな。リアルでは無理だったのかのう。」

 

「理屈としては合理的だし、実践可能な気もするのだがな。」

 

「人体なんてのは不合理の塊じゃよ。」

 

「人体だけじゃない、世の中不合理ばかりだ。」

 

 何かを思い出し吐き捨てるようにシゲが呟く。

 

「お主の合理主義は、さぞ生きにくかったであろうな。」

 

「りんごが重力に引かれて木から落ちるように、全ての万物には理由があって然るべきだ。理由なき事象は信用できない。」

 

「森羅万象の理由を求めるか。」

 

「その点に関してはLAOの世界はよくできている。全てにおいて理由と言う名のプログラムで動作している。」

 

「直結している人間の脳が一番の不合理じゃろ。」

 

「それでもある程度の防御策と選択権は持っている。」

 

「アダルトMODの話か?」

 

「否定はしない。」

 

「では受け止めてやれ。ハナにしてみれば50年越しの片思いじゃろ。」

 

「ハナが求めているのは『繋がり』だよ。それはもう与えた。」

 

「白虎……じゃな。」

 

「あぁ。今はそれで納得してもらうほかない。」

 

「だからワシには青龍が与えられないと?」

 

「そうはいってない。師範代が求めるのは力であって俺との繋がりはそこまで求めていないだろう?」

 

「阿呆。」

 

 そんな会話をしていると、二人に猛スピードで近づく人がいた。

 足音から次なる敵かと思い二人は一斉に振り向いて臨戦態勢になる。

 高速で近づく人物は急ブレーキをかけるかのように地面を足で強く踏みしめて停止する。

 

「まった、まった。俺だ。俺。」

 

 そういうのは俊也の声である。

 

「俊也か?」

 

「ボクもいるよ。」

 

「ステファまでおるのか。」

 

「何事だ?」

 

「ピラーは破壊するんじゃない。『解除』するんだ。」

 

 そういえば、ピラーをどうにかしなければならなかったのだと二人はようやく気付く。

 

「で、ここの石碑には何が書かれてた?」

 

「何って……。」

 

「石板に触れると文字が出てくるだろう? ナントカを示せ~とか。」

 

「そういえば何か出たけど、師範代が殴ったな。」

 

 澄狐はシゲの受け答えを受けてバツが悪そうにする。

 

「シゲがついていながら、クエストちゃんと読まなとかしちゃダメでしょ。」

 

「すぐにモンスターが出てきたしなぁ。」

 

「どんな種類のモンスターだった?」

 

「牛だよな? 石の巨牛。」

 

「え、ええ……闘牛のような牛。ホルスタイン種とかではなく。」

 

「ステファ、何が該当するかわかるかい?」

 

「牛……。家畜かしら?」

 

 俊也が先頭に立ちピラーの裏側へと回り込む。他の三人は俊也に従って後ろをついて行く。

 そしてピラーの裏側には薄い切れ目があることをシゲも確認する。

 

「なるほど。破壊ではなく解錠なのか。」

 

「家畜だとすれば、『フェイフュー』のルーン文字かな。」

 

 ステファはピラーに向かってルーン文字を指で刻むと、音もなくピラーが開く。

 

「まて、ルーン文字だと?」

 

 シゲが驚いて声をあげる。

 

「ルーン文字に何か不満でも?」

 

「あぁ、不満だね。ルーン文字は古代北欧文化で使用された文字で魔術との相性がいいとされている。その一方で、今僕たちがいるのはムー大陸だ。距離が離れすぎているし約1万2000年前の古代文明だ。一方でルーン文字は8世紀の文化とされている。距離も違えば年代も違いすぎる。サンスクリット語ならまだ理解できるがルーン文字を使用して解錠というのはどうしても解せない。そんなあっちとこっちのバラバラの文化を混ぜちゃあダメなんだ。」

 

「とはいっても、ほれ。中には貴重な貴重な虹色宝箱だ。みんな中身には大満足だったぞ。」

 

 そういって俊也は虹色宝箱の鎮座している階段を登り解錠作業を開始する。

 シゲは不満げに落ち着きなくピラーの内部を隅々まで見て歩く。そしてブツブツと「変だ。」「おかしい。」「これでは。」と独り言をつぶやく。

 

「落ち着きがないのう。」

 

「いや、うん。それはそうなんだが。やはり最初から何か変だ。」

 

「最初から?」

 

「あぁ、『最初から』何か変なんだ。」

 

「このピラーが終わればみんな集合するじゃろ。そこで一度整理してみてはどうじゃ?」

 

「そうか……。みんなの意見も聞きたいな。そうだな。」

 

 そして俊也は時間はかかりながらも虹色宝箱を解錠して中から出てきた脛あてと杖を澄狐とシゲに手渡すのだった。

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