074 宝島~澄狐&シゲ①~
「ひょっとして、俺たち一番遅いんじゃないか?」
ピラーの解呪が成功したと思われる轟音を既に三度聞いている。
その一方で、二人はピラーに向かって歩いているもののまだまだピラーの根元へと辿りつけていない。
「攻略に速度の誤差があるのは面倒じゃな。」
そうはいっても二人は歩行速度を変えない。一定のペースで歩くことで体力の消耗を最小限にする。
脳直結のフルダイブ型のMMOで体力の消耗が存在するのかと言われると、実は存在する。
ステータスには現れないものの、脳は疲弊する。脳に対して身体の疲労が信号として送られるのである。
それは徒歩で歩いてもある程度の疲労は蓄積されるが、走った時の方が疲れが脳に蓄積されるのである。
この辺は、ある意味自分の身体を鍛えぬくことで実際に体感した澄狐や、シゲのようにストイックな生活をしない限りなかなか体感しにくい隠れ仕様と呼んでもよい。
そんなわけで、隠れ仕様を体感している二人であるからこそ、歩行の速度は変えないし、他のメンバーの攻略が順調だからと言って慌てるようなこともしない。
この二人が本気で走れば、その速度は俊也の移動速度に迫る。
そもそも二人祖も装備は軽装だし、澄狐にとってある程度の速度で走ることは準備運動と同じレベルだし、シゲには縮地スキルもある。
ただ、そんなものを使用してまで急ぐ道程ではない。むしろ、前人未到のクエスト中なのであるから慎重に進めるべきなのである。
石畳の道を二人はひたすらピラーぬ向かって歩く。迷うようなこともないし、道の枝分かれもない。
ただ、いつの間にか気付いたことがある。道の両脇に石でできている街路樹があるのである。
「シゲよ……。」
「ああ、街路樹だろ。いつからだ?」
「わからぬ。気付いた時にはあった。」
そんな中、一陣の風が吹く。
強風に煽られる様に石の街路樹がざわざわと葉を鳴らす。
海中で風が吹き、石の街路樹が、石の葉が揺れるのは既に異常事態である。二人は素早く臨戦態勢へと移行する。
澄狐は構えて、素早く周囲へと視線を送り状況の把握に努め、シゲは一歩引いた位置で杖を構える。
音は二人を囲うように四方八方からとめどなく聞こえる。
その刹那、石の街路樹から一枚の葉がゆっくりと石畳に落ちるとその葉は姿を変えて目にも見えない速度で弾丸のように澄狐へと迫る。
澄狐は冷静にパシンと音を鳴らしてその弾丸を掴む。
弾丸は柳葉魚《ししゃも》のような姿ではあるが石でできている。
澄狐は掴んだ石の魚をシゲの方へと投げ捨てる。
「なんじゃこの魚は。」
「柳葉魚《ししゃも》だよ。なるほど。街路樹は針葉樹で柳のつもりらしい。」
「変なところでこだわるゲームじゃのう。」
気付けば二人は数百の石の柳葉魚に囲まれ、いつ襲い掛かってくるかわからない状態になっている。
きらりと一瞬、一匹の石の柳葉魚が光ると一斉に二人へと突撃してくる。
澄狐は宙へ高くジャンプし回避するが石の柳葉魚はまるで追尾機能があるように澄狐を追いかける。
澄狐は小さく舌打ちすると迫りくる石の柳葉魚へと空中で向き直り、一匹一匹丁寧に掴み、放ち、時には手の甲で弾き無数とも思える石の柳葉魚が次々と処理される。
一方でシゲは縮地を用いて数度回避行動を行うも、回避では無駄とわかると両手を地面につき「ストーンウォール!」と唱えると眼前に石の壁を作り出し、そこに無数の石の柳葉魚が突き刺さる。
空中の柳葉魚を処理した澄狐はストーンウォールの上にスタッと着地すると、ストーンウォールは砂となって消え去りシゲの横へと並び立つ。
第二派と言わんばかりに石の柳葉魚は再び澄狐とシゲを取り囲む。
シゲはそれに対応するがごとく、修理に向かって全力のアイスアローを出現させる。
アイスアローのスキルレベル10での数は1023発。しかしアロー系で与えられるダメージは5で固定されている。
「ルナ、そろそろ起きろ。」
そういってシゲは腰についている小さなかばんをポンと叩いてかぶせを開くと中からルナが飛び出してくる。
「はいな~。」
そして周囲をきょきょきょろと眺めるとにんまりと笑う。
「ぴんちだ! ぴんちだ!」
「いいから、並列処理だ。」
シゲがそういうとルナはムーンビーの姿になりシゲの頭の上に止まる。
すると1023発だったアイスアローが倍の数へと増幅される。
シゲが両手を広げて石の柳葉魚を左右それぞれの五本指で指し示すとシゲはゆっくりと自分自身を回転させる。
すると指先に指定されたアイスアローは次々と石の柳葉魚へと向かって行く。
アイスアローが当たった石の柳葉魚はアイスアローの追加効果で若干ではあるが凍り付く。
追加効果の発生確率は5%と低いものの、合計2046発のアイスアローであれば計算上は100匹以上が追加効果の期待ができる。
そして澄狐は的確に追加効果の発生した石の柳葉魚を次々とこぶしで砕いてゆく。
澄狐は凍り付いた石の柳葉魚を破壊しながらもある方向へと向かって行く。
石の柳葉魚が一段と濃い場所へと向かって行く。澄狐を援護するかのようにシゲはさらにストーンアローを放ち澄狐の活路を切り開く。
澄狐は石の柳葉魚の密集したところに右腕を突っ込むと勢いよく一匹の柳葉魚を掴んでバックステップでシゲの横へと戻る。
「こいつじゃな。」
「御見事。」
そう言葉を交わすと、澄狐は右手で掴んだ石の柳葉魚を握りつぶす。
二人の周囲にいた石の柳葉魚は砂となり消え果る。
「古典的な仕掛けじゃのう。」
「古代都市だからね。その辺は忠実なんじゃないかな。」
「細かい敵はやはり苦手じゃ。」
「合気道自体が人間より小さい敵を想定した格闘技じゃないからなぁ。」
「格闘技自体が対人戦しか想定しておらんよ。」
「どこかで格闘技MODも作ろうかな。」
「それは楽しみじゃな。遠距離攻撃と範囲攻撃があると格闘技系のMODとしても非常に助かる。」
「それは格闘技MODとしてはダメじゃないのか?」
「ゲームなんだから、そのあたりのスキルがないと結局近づいて力いっぱい殴るか蹴るかの二択にしかならん。」
「まぁ考えておこう。」
「よろしく頼む。」
そういって澄狐とシゲは拳を軽くこつんと合わせる。
「ルナも混ぜてほしいんだよ~。」
そういってルナも前足をシゲの拳に乗せる。
ルナはそのままシゲの頭の上を定位置として羽根を休める。
シゲはいつもの煙草に火をつけてMPの回復をはかる。一方で澄狐はポーションを飲んで体力の回復を行う。
「ルナにもちょうだい~。」
はいはいという顔でシゲは腰のカバンからチューペットを取り出すとルナに渡してやる。
ルナは顎で器用にチューペットの先を切断すると食べ始める。
「頭の上でこぼすなよ。」
そして二人と一匹は再びピラーに向けて歩き出すのであった。




