073 宝島~ルカ&ペイン③~
「ペインちゃん、こっちは終わったよ。」
いつの間にか分担制となっている。
パーティとして、ペアとして、バディとしてともに攻略するという概念が希薄なのである。
ルカまでもがどっぷりと染まるとは想定していなかったが、50年前も変わらない。
ソロで戦えない奴は要らないのである。それは回復職であっても、補助職であっても変わらない。
『スタンドプレーの末に生まれるチームワーク』とは即ち個々人が考えることである。
誰かに任せない。誰かに頼らない。逆を言えば自分のやることだけやってしまえば、あとは何をしてもよい。
ルカはもう赤兎馬を倒したのだから、ペインが関羽雲長を倒すのだと言っているのである。
『一騎打ち』と銘打つならば、それは『騎』である必要があるのではないのか。
地べたに足をついて『一騎』とはこれ如何に。下手に騎乗できるドラゴンがルカであり、対話が可能であることからペインはそんな無駄なことを一瞬考える。
石の関羽は自身の大きさと、長刀のリーチの長さからペインに対してほぼ一方的に攻撃を仕掛けてくる。
ペインはその攻撃をすべて盾で防ぎながら、相手の隙を窺う。
前衛職は結局のところ相手の懐に入り込んでインファイトを行うしかない。特にゲームのボスは巨大に設定されることが多い。
澄狐のような格闘家は相手のモーションを読んで回避を。
誠のような剣士は相手の攻撃を受け流したり、キャンセルさせたりする。
では騎士のペインは何ができるかというと、盾で防いで、防いで、防ぎきることだけである。
時にボスクラスが放つ吹き飛ばしの攻撃も耐える。相手の懐から動かない。
そしてたまに攻撃を行う。攻撃より防御に特化しているのが騎士の本来の戦い方であるが、ルカとのコンビではその方法は通用しない。
攻撃の全リソースはペインの攻撃であり、ペインが防御に回れば回るほどルカが回復魔法を放つ回数が増えじり貧になる。
とはいえ今回はルカが赤兎馬を倒すまでの時間は稼げた。ここからは一転攻勢に出るタイミングである。
ペインは盾を前面に出したまま、一歩、また一歩と関羽の懐へと入り込んでいく。ようやくペインのスピアが届く距離まで入り込むとペインはあえてスキルを使用する。
『挑発行為《タウント》っ!』
挑発行為《タウント》はただ、ターゲットを一身に集めるだけではない。
その効果は『相手を怒らせ攻撃をさせる』というシンプルなものであるが、その真意は『相手に回避・防御行動を行わせない』所にある。
基礎騎士のスキルの中で最も目立たず、最も地味なスキルではあるものの、その効果は絶大である。
相手の攻撃は防御すればいいことは変わらず、こちらの攻撃に対しての回避行動をしてこなくなる。つまりはペインの攻撃があたるようになるのである。
どんなにAIが発達しようと、どんなにゲームを作る人間が賢くなろうと、必ずそこに傾向はあるし癖もある。ここまで防御をし続けたペインにはもう関羽の攻撃モーションはすべて見切っている。
石の関羽が大きく右手で長刀を振り上げた場合は斜めに袈裟切ってくる。この際に一番無防備になる部位は頭。
ペインは袈裟切りを盾で受け流し、石の関羽の頭めがけてランスを無数に突く。
『連続突きっ!』
金属が石を削る高温が鳴り響く。
首から上がなくなった石の関羽はズシンと音を立て方膝をつく。しかし、ペインの削りきった頭部は砂が集まり修復されていく。
修復を終えた石の関羽は再びペインの前に立ちふさがる。
「やはりこれもコアか……。」
ペインはぺろりと口の周りをひとなめすると今度は盾ではなくランスを前面に構える。
『突撃っ!』
ペインは全力で走りだしその勢いのままに石の関羽の腹部へと深々とランスを突き刺す。
そしてその衝撃のまま石の関羽を仰向けにして倒す。
「ルカっ!」
「はいはい。」
ルカは低空でペインに向けて滑降し足の爪でペインの両肩をしっかりとつかんで急上昇する。
ルカは迷いなく空中でペインを離すと、ペインはランスを構えたまま真っすぐに石の関羽へと向けて落下していく。
『サザンクロスっ!』
騎士のスキル、サザンクロスは頭、両腕、胸、腹と上半身をカバーするように素早く5連突きを放つスキルである。
通常でもそれなりの威力のあるスキルなのに対し、ルカとペインのコンビはさらに落下速度を加えたオリジナルスキルへと昇華させている。
その威力は絶大で、石の関羽の上半身は粉々に崩れ落ちる。
その中に赤く光るコアを見つけたペインは、足を上げて「ふんっ」と一息に踏み抜くと石の関羽は全身がさらさらと砂となって消え果た。
「悪役の倒し方よね。」
「倒し方に綺麗も醜いもない。」
そういうとペインはあたりを見渡す。
石の関羽を倒したというのに全く周囲に変化はない。
とりあえずピラーの根元へと近づきランスの先でコンコンとピラーを突いてみるが、ピラーは傷一つ入らない。
「飯にするか。」
あっさりとペインはピラーをどうこうすることをあきらめる。
何か絡繰りがあるのであろう。しかし謎解きはペインの仕事ではない。
そんなものはシゲか俊也に任せておけばよいのである。
ではその二人のどちらかが来るまで、飯を食って寝て待てばよい。
シゲがよこした怪しげな薬など使わずともよいのである。
いつの間にかヒト型に戻っているルカは床に敷物を敷いてランチボックスを取り出している。
ご丁寧に水筒から温かいお茶まで用意している。
「いただきます。」
ペインは手を合わせて用意されたサンドイッチをうまそうに食べる。
朝は起こしてくれるし、飯は用意してくれるし、ルカの存在は非常にありがたい。
しかし、ペインはシゲと同じくアダルトMODを導入していない。これはペインが医者という肩書があったリアルにて若いころはいろいろと面倒くさかったことがすべて起因している。
ゲームでは『廃人』と呼ばれた猛者たちでも、リアルの生活、リアルの仕事、リアルの人間関係。
それらリアルの面倒さを痛感し、脛に傷があったりする訳である。
だからこそゲームはゲームとして楽しみたいのである。ゲームにリアルを持ち込みたくないのである。
ペインとルカはサンドイッチを食べ終え、お茶を飲んでいると「おーい」と遠くから声がする。
俊也がステファを抱えてすごいスピードで走ってくる。
そしてペインとルカの前で急停止をすると「待った?」と聞いてくる。
「全然。」
平然とペインはそう言ってのける。
「じゃあ開錠しちゃうね。」
ステファの後に続いて歩いていくと、ピラーのちょうど裏側にたどり着く。
なるほど、言われてみれば薄っすらと亀裂のような線が入っている。しかしペインではとても見つけられなかったと思うので待っていて正解である。
「石碑の文言は?」
「なんだっけ?『丈夫な騎士』とかだったかな。」
「はいはい。馬がキーワードになるのかな。」
ステファは『エワズ』のルーン文字を描くとピラーのドアがゆっくりと開かれる。
四人はピラーの中に入ると、そこには他のピラーと同じく虹色に輝く宝箱が鎮座していた。
「なるほど。こりゃ俊也が必要なわけだ。」
「シゲが開けてしまわないか心配なんだけどね。」
そういうと俊也は虹色の宝箱を開けるべく作業へと入った。




