070 宝島~ハナ&誠③~
一切の静寂を生む海の底で、石と金属がぶつかり合う音
そして鈴の音だけが忙しく動き回っている。
ハナも誠も肩で息を切らしながら精いっぱい戦っているのに呼吸音すらしない。
硬い。とにかく石の巨人は硬い。
ハナの攻撃ではダメージを与えられている感じが全くしない。
それでも攻撃をするのは誠にターゲットが集中しないようにするため。
大振りばかりの石の巨人の攻撃はハナが避けることで隙をうませる。
そしてその隙に誠が攻撃を入れることで石の巨人にダメージを与えていく。
ただ、それすら有効打になっているかが怪しい。
なんせ
誠が攻撃するたび、攻撃をした部分の石は壊れ、破砕していく。
しかし、数秒もするとその破片は元の位置に戻り修復されていく。
どれだけ細かに砕こうとも、その動きが変わることがない。
(なんで修復するんだ!? 無敵なのか?)
(ダメージが通ってない。なんとかしないと……。)
誠もハナも焦燥感に駆られる。早く敵を倒すことがすべてではないが
フルパーティであれば長期戦もできるが、今回の様に前衛と後衛だけで戦うにあたっては短期決戦が望ましい。
攻撃を受け過ぎれば回復ポーションを使わねばならなくなるし、その残数だって限りはある。
また、強力な攻撃をしようとスキルを使用することでMPは消費される。
そしてMPの回復はやはりポーション等の消耗品を使用せざるを得ない。
そんな中、ありがたいことにハナが新たな舞を踊る。
(天使の息吹!)
天使の息吹は踊り子のスキルの中でも重宝される持続回復《リジェネ》効果のあるスキルとなっている。
一定の時間が経過するたびに5%と小さいながらもhpを回復してくれる貴重なスキルである。
タイミングさえ合えば即死を免れることさえできる為、踊り子には必須のスキルといっていい。
バフ、持続回復《リジェネ》、これらを管理しながら自らも攻撃を仕掛ける。無論、踊り子は防御力に優れた装備やステータスではないため、敵からの反撃も基本は避けなければならない。
これはプレイヤースキルが一定以上ないとできない芸当である。同時に色々なタスクをこなすことは非常に難しい。
それは人間の脳がいくら進化しても並列処理というのは実現されない。
あくまでも人間の脳で処理ができるのは「スイッチング」による切り替えのみで同時処理には向いていない。
しかし、例えば肉体の制御に関して言えばその限りではなく呼吸と心臓の鼓動が同時に処理できるように交感神経と副交感神経の制御は並列で処理される。
この並列処理は人間に限ったことではなく、脳の大きさが小さい動物においても変わらない。
では、人間が脳だけとなった場合どこまでの並列処理が可能なのか。
交感神経と副交感神経の処理を全てカット、右脳と左脳による同時処理、そして前頭葉によるコントロール。
それらができれば論理的には人間の脳でも並列処理が可能となる。
特にハナの場合は、リアルで自分の身体を半身しか使えなかった。神経接続が途切れていたことが原因である。
覚醒するチャンスはいくらでもあった。脳だけとなった人類が次のステージへと進化するために必要な事。
それは即ち並列処理の実装である。
ハナは変わらずに攻撃とバフと回避を可能な限り早いタイミングでスイッチさせながら処理を行う。
実体はない肉体であるはずなのに頭がどんどん熱を帯びているような気になっていく。
攻撃を受けてもいないのに鼻から血が流れ出てくる。脳がオーバーヒートしているのである。
やがてハナの左手が光りはじめる。ハナに刻まれた白虎の紋章が光り輝いていく。
誠はハナの作った隙に変わらず攻撃を仕掛けていく。
スキルを使う場合もあるし、普通に払い抜けすることもあり、上段から切りつけることもある。
ハナにターゲットが向かう兆しがあった場合は、お守りの鈴を激しく鳴らして注意を引き付ける。
ハナの負担が大きいことは理解している。常人で耐えられる筈もないような動きをしていることも理解している。
流石は廃人。そういってしまえば一言で済ましてしまうが、その一言で済ませられるほど簡単ではない。
そこに至るまでの努力、そして自らの解放。そして覚醒に至るいばらの道。
誠にはまだそこまでの覚悟はないし、最初の一歩にすらたどり着けぬ境地。
そこへと向かおうとするハナを止める言葉は持たないし、背中を押してやることもできない。
それがこの廃人一味の中で最弱である誠のコンプレックスでもあるし、我が道を行くという言い訳でもある。
ハナは鼻血を右手の甲で拭うと、左手の装備を変更する。
白虎の紋章を得たあとに俊也から譲ってもらったSSR武器。一見するとかぎ爪のようであり完全な近接戦闘用の武器。
右手のシャムシールは変更せずに左手のみ装備を変更する。
ハナは腰を落として左手に力をためるように構えたまま動かない。
その姿を見て誠はハナの前でハナを守り様に立ち回る。
石の巨人からの攻撃は大剣で受け、剣と剣と打ち合わせ弾く。
払い抜けるような攻撃はせずに、あくまでもハナの前に居続けるように攻撃を行う。
耐えればいい。信じればいい。そうすれば必ず。必ず。
バチッ、バチッ、バチッ、バチッ、バチバチバシィ
ハナは全身に帯電し、臨戦体制へと移行する。
背中にその変化を感じた誠は、石の巨人が繰り出す袈裟切りを受け流すとともに斬り上げて石の巨人へと隙を作る。
そう、単純に石の巨人は硬いだけ。攻撃しても効果がないだけ。敵としての技量は大したことがないのである。
とはいえ、それは常人の世界での話。誠もまた自らを過小評価しているものの廃人なのである。
そして誠の最大の特徴は『仲間を信じる』という点がブレない事。だから最後の一撃は自分で行わなくても構わない。
誠はそのままの姿勢でハナの前を開ける。
ハナは待ってましたとばかりに、最大出力で左手のかぎ爪装備を中心に全身を回転させまるでドリルの様に石の巨人の腹へと一直線に向かう。
ガリガリと音を立ててどんどんと石の巨人の腹部を削っていく。ハナの勢いは全く衰えない。
瞬間で切り裂けるような甘い敵ではない。やがてハナの攻撃は石の巨人の腹部にある赤い宝玉へと辿り着く。
(コアかっ!)
誠は瞬時に石の巨人がコア(核)で動作していることに気付く。
どうりでいくら攻撃しても効果がないはずである。
ハナの攻撃は勢いは変わらないものの、コアを砕けない。コアが硬すぎる。膠着状態が続く。
誠はそんなハナの足を大剣の腹で打ち付けるようにして加速を手伝う。
コアとハナの間には火花が散り、甲高い音で徐々にハナが押し込んでいく。
それと主に、パキッ、パキッとコアにひびが入り最終的にハナはコアを粉砕して抜ける。
コアを失った石の巨人は剣、足、手、頭と砂になって消えていく。
石の巨人を倒したハナと誠は満身創痍だった。
しかしそこに近づく気配があり、二人はガバッと振り向き武器を構える。
そこにいたのは俊也とステファだった。
そこで二人は武器をおろすと、誠は口の前で指でバッテンを作る。
俊也とステファはお互いを見て頷くと、ハナと誠に手を貸してピラーの裏側へと回る。
ステファはそこで『イス』のルーン文字を刻むとピラーの門が開く。
中にあるUR宝箱を俊也が解錠すると、そこには大剣と一対のシャムシールが納められていた。
そうするとようやく静寂が解放され、声が発せられるようになる。
「ようやくか。」
「これからどうする?」
「ステファと俺は他のピラーに向かう。」
「俺とハナはブレドウィナ―へと向かうべきなんだろうな。」
「無茶はするなよ。」
そういって四人はまた二組に分かれて宝島の攻略を始める。




