069 宝島~ハナ&誠②~
石魚の群れ以降、敵らしい敵は出てこない。
二人はのんびり歩きながらピラーへとたどり着く。
「へー。ピラーといえどでっかいね。」
「シゲの言葉の通りなら、これらがムー大陸を海中に支えているのだろう? 貧弱な柱じゃ困るよ。」
「で、毎度のことながら石碑ね。読めるのかしら?」
「手をかざす窪みがあるな。バクっと食われたりしねぇかな。」
「心配性だなぁ、マコは。」
ハナは何の恐れもなく、手形に手を触れる。
『恐れを知らぬ冒険者よ。明瞭な静寂を与えん。』
そう言葉が鳴り響くと、石碑は地下へと沈みピラーの前には巨大な石像が現れる。
石像は右手には石の大剣、左手には石の盾、頭には石の兜を装備している。
「ゴオオオオオオオオオオッ!」
声とも音とも捉えられる咆哮を石像はあげる。
ハナと誠はすぐに臨戦態勢へと移行し、武具を構える。
「こ……っ!」
ハナは胡蝶の舞を繰り出そうとしていた。その効果は相手の命中力を下げること。
大ぶりな大剣はただでさえ命中力が低い。それを尚下げようというのである。
しかし肝心の声が出ない。
ハナは構わずステップを踏んで舞うと、大量の蝶が現れ巨人の周囲にまとわりつく。
技は出せるが声が出せない。
シゲやステファなど所謂『魔法』というものであれば声を阻害されると問題が出そうではあるが
ハナは舞うことでその効果を出すし、誠は動作によるスキル攻撃である。
とはいえ声が出せないのは都合が悪い。
石像は大きく権を振りかぶって振り下ろす。
誠はあえてその攻撃を剣で受けきる。どれだけの攻撃力があるのか確認するためである。
『ガインッ!』
石と金属が激しくぶつかる音を立てて誠が少し後ろに飛ばされる。
(なるほどね。」)
ダメージを受けるほどではないが、馬鹿力では少なくとも巨人の方に分がある。
さらに声が出せないというのは都合が悪い。
誠は大きく一歩を踏み込むと身体に巻き付けるように腕をしならせ回転して切り付ける。
(巻き打ち!)
巨人はすっと盾を出すと誠の巻き打ちを防ぎきる。
誠の攻撃の最中、ハナは影の舞を用いて巨人の死角からは一斉に八方向攻撃を仕掛ける。
(影の舞!)
しかしハナの攻撃はことごとく石の皮膚へダメージを与えることができず弾かれてしまう。
ハナが前衛として戦うには石の巨人は一癖も二癖もありすぎる。
単純に硬いだけではなく、武器や技の相性が悪すぎる。
ハナは思い切って誠の後ろへと下がると支援に徹することに決める。
誠としてもその方が戦いやすいので叶ったり願ったりだった。
このあたりの切り替えの早さ、自分の役割をファーストインプレッションでほぼほぼ見切る。
(ハヤブサの舞!)
誠の移動速度を上げる。立て続けに誠へバフを重ねて入れていく。
(炎の舞!)
そして誠は自分自身の強化を施す。
(ベルセルク!)
現段階で積めるだけのバフは積んだ。これでダメージが通らなければ根本的に戦い方を考えねばならない。
誠は巨人と剣で打ち合う。たまに巨人は盾を用いて誠の攻撃をそらそうとするが移動速度を上げている誠の方が速い。
誠は素早く巨人の剣を切り上げて状態を反らさせると、間髪入れずに冗談からの切り下ろし、切り上げ、払い抜けと三連撃を食らわせる。
(雪月花!)
誠が現在所持している技の中で最大威力を誇る三連撃である。
これにはさすがの石の巨人にもダメージが入り、巨人はピラーへと吹っ飛ばされる。
ピラーと巨人の衝突音はすさまじいものがあり、砂埃が巻き上げられる。
(やった……か?)
しかし誠の願いもむなしく、砂埃の中から巨人は上段からの強力な切り下ろしをしてくる。
そして巨人が狙うのは誠ではなく……ハナ。
それに気づいた誠は急いでハナに近づき、ハナの肩をぽんっと押すと巨人の攻撃を左手一本で握った大剣で受ける。
ハナの角度からは巨人の攻撃が見えてなかったため完全に意表を突かれた形だった。
そんな中、巨人の動きをいち早く察知した誠に助けられた形である。
誠も左手一本で剣を持ち巨人の攻撃を受け、直接ダメージではないもののその力任せの大振りに負けて吹っ飛ばされる。
(いってぇ……。)
声が出せないので、誠はそう思うだけにする。
声に出せるのであればもっと激しく騒いだのは間違いない。
攻撃範囲外に押し出したハナの様子を見ると、びっくりした表情をして誠の方を見ている。
しかし、そんなところで何時までもグダグダしている暇はない。
巨人が攻撃のターゲットを誠ではなくハナにしたということは
『なにかしら』のターゲットを変更するきっかけがあったはずなのである。
(なんだ、何が起因だ……。)
誠は分析をするのは得意ではない。
と、いうかそういう分析はシゲや俊也に任せてしまえば簡単に答えを出してくれるからである。
多分、ハナ本人には自覚がない。巨人が反応するもの。
――静寂。
明瞭な静寂と言っていなかったか。
静寂の中、唯一その影響を受けていないものがなかったか。
そう、ハナの装備するシャムシールの柄から延びる紐の先に付けられた鈴。
シャランと綺麗な音色を鳴らすことで舞を完成させる重要なファクターである。
しかし、声が出せない中でも鈴の音は鳴り響いていた。
静寂を破っているものとすればこの鈴しかない。
しかし声の出せないこの状況下で如何にしてこのことを伝えるのか。
誠はハナとアイコンタクトをとり自らの剣の柄の先にある鈴を教えようとボディーランゲージを試みる。
(す・ず! 剣の柄から延びるす・ず!)
しかし、誠のボディランゲージは全く伝わらずハナは眉間にしわを寄せて訝しむ顔をしている。
しかし巨人は待ってはくれない。誠は果敢に巨人へと剣を打ち込む。
その最中、隙を見てはハナに鈴を伝えようとするが伝わらない。
誠ははるか昔にみた映画を思い出す。
日本人がメジャーリーグに行って全く日本語が伝わらず(当たり前であるが)
お前はマタンキついているのか!? と伝えるのに「ビー玉!」といってマタンキの位置でぶつけるのである。
それに似たもどかしさを感じる。
何か丸い物でもあれば伝わるのだろうか。
そこでようやく誠は思い出す。
よくいく娼館の贔屓の子にお守りをもらったのである。
ずいぶん古風で日本風だなと思ったものだが、この歳になるとNPCとはいえ若い子から何かを貰うと嬉しいものである。
そしてそのお守りに鈴がついていたのを思い出したのである。
誠は小さなお守りを取り出すとチリチリチリンと細かく鳴らす。
巨人のターゲットが一気に誠に集まり誠はハヤブサの舞であげた速度バフを使って縦横無尽に逃げ回る。
その姿を見るとようやくハナも理解したようで、自分の武器に標準でついている鈴が原因なのだと理解できた。
あとは二人の鈴を使ってターゲットを替えながら一気に攻勢に打って出るのみである。




