063 宝島 ~潜航再び~
「よし、やるぞ。」
潜水艦に戻るなりそう言い放ったシゲの瞳は輝いているようにも見える。
「あー。」
「スイッチ入ったね。」
「こりゃキツそうだ。」
シゲのたった一言でいつものメンツはこれから起こることを予想できている。
「え? 何? ペインちゃん、どういうこと?」
付き合いの短いルカだけが現状を把握できていない。
「シゲが本気になったってことさ。疲れるんだよな。まぁいいけど。」
「本気になったら何か困るの? みんな元廃人なんだからいつも通りでしょ。」
「度を超えるのよ。」
「基礎も十分度を超えていたと思うのだけれど。」
「で、だ。これを使おう。」
シゲはアイテムボックスから薬のボトルケースを取り出す。
シゲは薬のボトルケースを振り、カラカラと中に錠剤が入っていることを示す。
「48時間……いや、72時間くらいかな。」
ステファが不吉な時間を述べる。
「120時間だ。不眠不休で動くことができる。」
シゲはきっぱりと言い切る。
「デメリットは?」
誠は薬物のデメリットを確認する。
「基本的には無害だ。別に脳内物質を操るわけではないからな。ただ、脳は疲弊する。脳には休息が必要だ。」
「つまり、俺の時の様に薬が切れたらぶっ倒れて眠るってことか。」
経験者の誠は苦虫を嚙み潰したような顔で答える。
「120時間で宝島を攻略する。」
はぁと一同からため息が漏れる。
あのジパングを見てしまったシゲは止められない。
シゲの過去を知っている者は、シゲの本気を甘くは見ていない。
シゲは自分の好きなものに対してはまっすぐに突き進む。
過去に何度か、シゲが本気になったことがあった。
ただ、そのやる気のベクトルは新マップが実装された時とは限らない。逆に新マップや新実装のレア品などが『ツマラナイ』と判断された時こそ本気になる。
さっさと終わらせて、いつもの生活に戻ろうというのである。
今回はどちらかといえば、宝島に向いていた興味がジパングに全部持っていかれたといっても過言ではない。
シゲ的には宝島などもう正直言ってどうでもいいのであろう。
ただ、シゲは論理的であるが故に順番に物事を処理する。
だから宝島を先に攻略する。その順番は入れ替えない。
「各自持ち場へ。潜水艦を出港させるんじゃ。」
もう澄弧ですらシゲには反対しない。無駄だし無理だとわかっている。
ならばさっさと宝島を攻略してしまうのが一番である。
「総員持ち場へ着きました!」
「機関室!」
「各機関正常!」
「発進シークエンス開始します! 1番から12番までのシークエンス各種正常、オールグリーン!」
「魚雷システム異常なし!」
「ソナー各種正常!」
「動力始動、ダリア出航! 微速前進ヨーソロー!」
「ダリア出航! 微速前進!」
そして潜水艦はゆっくりと出航を開始する。
しかし、潜水艦は微速前進どころではない。段々と速度を上げていく。
操舵管を握っているのがシゲなのだからもう誰も何も言わない。
「潜航しないのか? GPSが使えて便利だが、どこに向かう?」
俊也がそんなことを問う。
「最初に目指す場所はわかっている。ラドロネス諸島だ、ジパングから最短で行ける。」
「それはなぜじゃ?」
「ムー大陸の特徴として『大半は沈んだ』とされている一方で、ラドローネス諸島やハワイ諸島、イースター島なんてのは現存している。アトランティスが資料によって補足されている反面、ムー大陸は一部の島が残っているんだ。ムー大陸は碑文といわれる石器文化だ。高度な石器文化は消滅なんてしない。必ず水面下に何かしら用意されている。そしてそのヒントは地上にこそなければならない。そうしないとゲームにならないからな。」
「そこはゲームの、LAOの良心を信じるのね。」
「ただ、ラドローネス諸島が実装されていない可能性は存在する。その時点でもう潜航するしかない。」
「それだけ?」
ハナが呆れたようにシゲに問う。
「それだけだ。あとは流れで判断する必要がある。」
「流れねぇ……。」
誠が呆れたように呟く。
そしてそれから数日、潜水艦ダリアは南東に向かっていた。
「そろそろ、ラドロネス諸島の筈だが……。」
「ないな。」
「ないね。」
「予想通りといったところか。」
「だから潜水艦で来いという事だな。」
「船や飛行機では到着できないという事か。」
「仕方ない、潜航開始!」
「潜航開始! 潜航角5度!」
そして潜水艦はゆっくりと潜航していく。
「今回は深いね。」
潜航を続けながらステファが感想を漏らす。
「マリアナ海溝近辺だからな。ちょうど大陸プレートの狭間にある場所だ。深くなっててくれねば困る。」
「浅いほうが楽じゃない?」
「わかってないな、ハナは。シゲはムー大陸が『海に沈んでいてくれる』って事が大事なんだ。ムー大陸は存在したとね。21世紀の技術程度では見つけられなくて当然と。」
「眉唾と呼ぶか、浪漫と呼ぶか。月刊ムーを読むことを馬鹿と呼ぶのか、楽しみと呼ぶのか。」
潜航した時はソナーで周囲の状況を把握する。
潜航は数時間にも及んだ。潜航角が浅いという事もあるが、それでも全く底につくことは無かった。
やがて深海層である6000メートルに達すると、ソナーに反応があった。
「ソナーに反応!」
「別に洞窟とかじゃないよね?」
「なんだろうな……。反応が変だ。」
潜水艦はゆっくりとソナーの反応が合った方向へと船主を向け進んでいく。
やがてソナーの示す先に、船外映像では階段が見える。
「階段……?」
「いや、祭壇かな。」
潜水艦は階段に沿って少しだけ浮上しながら航行する。
やがて階段の最上段に巨大な石碑が設置されている。
石碑は半分砂に埋まっているし、藻の類もびっしりと生えている。
「どうするの、これ。」
「変なところでリアルだよな、LAOは。」
「藻に土ねぇ……。石碑を読ませる気が全くないわけだ。」
「まいったね、こりゃ。」
誠は何ともあっけらかんとして答える。
「船長、今後の方針は?」
「操舵士に聞いてみようじゃないか。」
「うーん。これは想定外。もう少しマシかと思っていたんだが。潜水艦の中で何か使える装備はないかい?」
水深、水圧、酸素の問題。
それこそ浅瀬であれば、潜水キットで潜ることもできたであろう。
潜水艦の中の装備を今一度見直す必要があるかもしれない。
皆で手分けして潜水艦の中の装備を見直したところ、方法は二つほど見つけた。
ひとつは極地用の潜水装備。いわゆる普通のダイバー装備ではなく宇宙服と見間違うような装備である。
もうひとつは深海用のドローン。ただしこちらは操縦する必要がある。
そこで俊也の登場だった。
カルチャーセンターでドローン操作を習得したというのである。
言語だけではなく、操縦技術も取得してきているというのが勘の鋭さともいえるし、運の強さともいえる。
ここで出戻りが発生しなかったことが何よりも幸いしている。
そして俊也はドローンを潜水艦から排出し、石碑の掃除を始めるのであった。




