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054 宝島 ~俊也&ステファ~

「やあ。」

 

「おはよう。」

 

 俊也とステファは約束の時間通りに街の噴水前で待ち合わせる。

 

「事前調査はほとんど空振りだった。」

 

「ボクも調べてみたけれども、めぼしい情報はなかった。」

 

「そうなると……。」

 

「地道に足で稼ぐしかないね。あとは元々のゲームに関連した事項とか。」

 

「MMORPGでた〇しの挑戦状と同じことを求められるときついんだよな。」

 

「俊也はクリアしたことがありそうだったけど、何がそんなにきついの?」

  

「んー……そうだな。スナックとカルチャーセンターと旅行会社というそれぞれの店があるとするじゃないか。」

 

「うん。」

 

「スナックで出来ることは流石にファミコンだから限られている。例えば酒を飲む、カラオケを歌う。選択肢がほとんどないんだ。」

 

「なるほど。」

 

「今度はカルチャーセンターではなにかしらの技術習得しかできない。」

 

「ほう。」

 

「つまり『店』と『行動』が最初から絞られているわけだね。極端な話をすればその組み合わせでしかない。どれだけのクソゲーだとしても所詮はファミコン、限りがある。」

 

「1986年発売のゲームだから……今から約70年前か。」

 

「1メガ+64キロRAMだからね。」

 

「それをこの無限ともいえるLAOのデータの中から探せと。」

 

「そう、比喩ではなくまさに『砂漠でコンタクトレンズを探す』だね。」

 

「普通に考えれば無理ね。」

 

「半無限の応答をするAIから宝島の内容をピンポイントで探し出さねばならない。」

 

「考えるだけで無理ね。」

 

「と、いうわけで。」

 

「いうわけで?」

 

「当てもなくぶらぶらしよう。運があれば何かに当たる。」

 

 そして俊也とステファは街の中をぶらぶらする。気になった店や雑居ビルにはとりあえず入ってみる。

 特に大通りに面していない、ちょっと狭まった路地からしか入れないような雑居ビルを中心にする。

 そしてわかったことはいくつものカルチャーセンターと名のつく店があることだった。

 大通りに面した明るいビルのテナントは『英語』や『中国語』といったメジャーな言語なのに対し

 裏通りにある雑居ビルでは『ヒンディー語』などのマイナー言語が取り揃えられていた。

 

「もし、もしだよ。我々と同じ世代の人間がLAOを作ったとしたら、俊也なら『宝島』と聞いて何を思い浮かべる?」

 

「そうだなぁ……。本当はシゲが詳しいのだろうが、アトランティス大陸やムー大陸、ちょっとマイナーなところでレムリア大陸とかかな。」

 

「言語だったら?」

 

「サンスクリット語くらいしか思い浮かばないなぁ。」

 

「1990年代の流行りよね。」

 

「あの頃はエヴァとか3×3EYESとかがあったからなぁ。」

 

「あとはルーン文字とか。精々この程度じゃない?」

 

「まぁ妥当なところだろうな。」

 

「で、そうなると大陸は2個。『ムー大陸』と『アトランティス大陸』に絞れる。言語は『サンスクリット語』と『ルーン文字』に絞れる。」

 

「筋は通っている。そこまで絞れるなら探しやすいかもしれん。」

 

「これらがハズレなら仕方ない気がする。」

 

「それは同意だ。」

 

「最大の難点はどの大陸でも『沈んだ』ということ。普通の船ではいけない。」

 

「だから私達は『言語』の習得に集中していい気がする。」

 

「では俺はサンスクリット語を。」

 

「ボクはルーン文字を担当する。」

 

 そういって二人は別れる。

 それぞれがそれぞれの言語を扱うカルチャーセンターを探すのである。

 始まりの街ともいえるイスブルク。それでも十二分に広大で、裏道を含めれば一体何人のAIであるNPCがいるのかわからない。

 とはいえ、アテは二人ともある。

 

 サンスクリット語は1990年代を過ごしたオタクたちにとっては非常になじみのある言語である。

 つまり、イスブルクの街にあるオタクが集まる場所にこそ、サンスクリット語のカルチャーセンターはあるのではないかと予想したのだ。

 本当に広くない5ブロック程度の範囲。

 その中に所狭しと雑居ビルが立ち並び、昔のゲームからエロゲ―専門店、電脳麻薬に電子部品やジャンクを扱う店が立ち並ぶ。

 秋葉原の全盛期を凝縮したようなその場所は『アキバ地区』といわれ立ち入る人種も制限される。

 俊也は頭にバンダナを巻き、リュックサックを背負い、赤と黒のチェックのネルシャツを着こんでアキバ地区へと入り込む。

『アキバ地区』は現実の秋葉原がどんどん衰退した原因の『ライトユーザ』を徹底的に排除し

 往年の姿こそ正しい姿として半分宗教的な思想家たちが作成した区画である。

 往年の姿など一度もリアルで見たこともないのに、過去の写真データだけで崇拝している。

 秋葉原の全盛期を知る俊也からすれば、ハナタレの小僧共の妄想だと馬鹿にしている。

 とはいえ、目的のものを手に入れる為には郷に入っては郷に従う。

 エロゲー専門店の二階、ジャンク屋の隣にあるカルチャーセンターでサンスクリット語を学べる事を発見した。

 

 一方でステファの『ルーン文字』は武器や武具に刻み込むことで特別な力を付与することに用いられる。

 武器や防具の製造の専門家。それはLAOの世界でもドワーフが秀でている。

 そうなれば話は簡単。武器防具の製造エリアに目的とするカルチャーセンターはあると想像できる。

 ドワーフたちは一見友好的だが、所謂ヒューマンに対して懐疑的である。

 自分たちの作った武器や防具の良さが本当にわかるのか?と思われている。

 あるドワーフは一見の客に対しては見た目だけが豪華な武具を見せてくるし、違うドワーフはただの鉄の剣や鉄の兜など基本的なものしか出してこない。

 ドワーフからの信頼を得ない限り、ドワーフから情報は引き出せない。

 そこで役に立つのは俊也の倉庫から溢れてるSSRランクの武具である。本当に誰も使わないSSRの剣を俊也から一本譲り受けたステファは適当なドワーフの店に入る。

 

「らっしゃい。初顔だな。」

 

「ええ、武器を一本引き取ってほしいのだけれども。」

 

「どれ、みせてみい。」

 

 ステファはSSRランクの剣を店主のドワーフに見えるよう、カウンターに置く。

 ステファの格好はゴスロリ衣装である。明らかに戦闘向けな格好はしていない。冒険者としても異質な姿である。

 一見の戦闘向けではない格好をした小娘。

 それがドワーフの最初の判断だった。

 しかしステファの取り出した剣は一目見ただけでわかる程の業物だった。

 俊也やステファにとってはごみ同然のものではあるが、LAOの世界の中ではSSR武具はまだまだ出回ってない。

 

「おい……。そ、それは……。」

 

 あまり関心がないようであったドワーフの店主も思わず声を漏らして剣へと近づく。

 

「どうぞ。」

 

 ステファがそういうと、ドワーフの店主は震える手で剣を手に取り、鞘から取り出してまじまじと刀身を眺める。

 

「お主、一体どこで……。」

 

「出自は明かせません。当然でしょう?」

 

「あ、ああ……。儂でも言えん。しかし、これを買い取るのは……。」

 

「お金には興味ありませんの。ルーン文字を学べる場所を紹介を頂けますか?」

 

「それだけ……。たったそれだけの事でいいのか?」

 

「構いません。」

 

「紹介状と地図を描いてやる。ま、待っててくれ……。」

 

「ええ、ごゆっくり。」

 

「おーい。母さん。このお嬢さんにお茶だ! そして椅子!」

 

「ご丁寧にどうも。」

 

 そうしてステファはルーン文字のカルチャーセンターの場所を聞き出したのだった。

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