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051 バカンス

 基礎の呪いというワールドクエストをクリアした一同はバカンスに来ていた。

 大きなイベントをこなした後は、やはり休息は必要なのである。

 

 そんなわけで一同が来ているのは澄弧の修行場。

 一応ちゃんと名称があってヨニヴズールの滝というらしい。

 ただ、一般的な観光としては不釣り合いだし、お勧めもされない。

 

 ではなぜこの場所にしたのかというと、一部の男性陣からは強烈に『水場!』という意見があり

 特に海だビーチだと煩かったのである。

 それに対して女性陣はルナやルカがいることから海よりも山がいいという話だった。

 この話は平行線で、致し方なく水場があるならいいのかという事で澄弧の拠点でバカンスをすることにしたのだ。

 

 昔は7人だったので多数決で何とかなってきたが、気付けば大所帯である。

 俊也のファミリーは自分たちはLAOでは役に立たないからとパーティーへの参加は辞された。

 しかし、澄弧の弟子たちは皆、『BackStreet』への参加を望んだ。

 そんなにたくさん参加されても面倒が見切れないし、前衛ばかり増えてもバランスが取れない。

 何よりも弟子の参加を澄弧が嫌がった。

 弟子は弟子として独立して巣立ってほしいというのが本人の意向だからだ。

 

 そんなわけで正式にパーティメンバーとして迎えられたのはルカ一人。

 ルナはAIなのでパーティとしてはカウントされなかった。

 で、こうなるとどうなるか。

 男性4人、女性4人となり多数決で物事が解決しなくなる。

 

 そこで折衷案となるわけである。

 

 男性陣はぱっぱとバミューダの水着に着替えて、川沿いにキャンプを設置しバーベキュー用の火おこしまでしている。

 そして今や遅しと女性陣が水着出てて来るのを待っているのである。

 そんな中ようやく水着に着替え終わった女性陣が出てくる。

 

「水着なんて子供のころ以来。」

 

「ですよね。海に入るとムチャムチャするしね。」

 

 そういって出てきたのはハナとルカ。

 ハナは赤と白のビキニにパレオを巻いている。

 ルカは黒地に赤のラインが入ったラッシュガード。

 

「いいよ、いいですよー!ラッシュガードはアレだけど。」

 

 ハナの水着を誉めるのは誠。

 

「阿呆ばかりじゃ。」

 

 そういって次に出てきたのは澄弧。

 スカイブルーといってもいいシンプルな青いビキニで狐のしっぽがふわりと揺れる。

 地味に一番布面積が少ないのは澄弧である。

 

「その尻尾どうなってるの?」

 

 シゲもそれは疑問に思ったが聴くのは野暮なのだろうと察したが、誠はぐいぐいと行く。

 

「阿呆。」

 

 最後に出てきたのはステファ。

 黒のビスチェビキニでフリフリが多く飾り気も多い。

 

「おお~っと。ゴスロリを水着に取り込んでますな。」

 

「誠の感想は別に求めてない。シゲ、どう? 似合ってる?」

 

 ハナは誠の述べる感想をぶった切ってシゲに話を振る。

 

「それぞれ個性があって似合っているのではないだろうか。」

 

「そう? 着てよかった。」

 

 そういってハナはくるりとシゲの前で回って見せる。

 

「でもなんかこう、脳がバグるよな。一度肉体は本当に衰えたのに、全盛期の肉体に再び脳みそだけ移植したみたいでさ。」

 

 俊也が冷静に答える。

 

 その後は三々五々、それぞれがそれぞれの楽しみ方をする。

 肉をひたすら焼いて食う者、川の水に足を付けてのんびりする者。

 シゲは滝つぼに釣り糸を垂らしてのんびりとしていた。

 釣果は程々。あとで塩焼きにしようと思っていたのだが、誠が近づいてきて横に座る。

 

「なあ、聞きたかったんだけどさ。」

 

「なんだ?」

 

「お前の目から見るとルカちゃんって誰に似てるんだ?」

 

「……また芸能人の話か?」

 

「お前の視点だと誰に似てるというのか気になってしゃーない。」

 

「また面倒事を……。そうだな。井森美幸かな。」

 

「あー。うーん。えー。」

 

 誠は何とも難しい顔をする。

 

「わからなくもないが何というか。偏ってねぇか?」

 

「他人の主観なんてそんなものだろう。」

 

 そんな話をしていると、急に誠は後ろから突き飛ばされて滝つぼに落ちる。

 

「おいっ! なにすんだっ!」

 

「わしがシゲに用事がある。」

 

 誠の背中を蹴飛ばしたのは澄弧だった。

 澄弧はシゲの横に座ると端的に要点を話し始める。

 

「それでだ。『神おろし』は誰にでもできるのか?」

 

「多分相性がある。できる神とできない神がそれぞれ人に依存している……と、思う。」

 

「なるほど。じゃあハナだけが『神おろし』をできるわけではないし、ハナでもおろせない神がいる可能性が高いという事じゃな。」

 

「実際にルナを合体させてみないとわからん。」

 

「今やってみる気は……。」

 

「ないな。魔法は遊びで使っていいシロモノではない。異世界転生系で一番嫌なのは魔法を軽々しく使う事だ。」

 

「他にも理由がありそうじゃが?」

 

「『月光の雫』が少なすぎる。これは切り札として本当に残しておきたい。」

 

「ふむ、残念だが諦めるしかないようだな。」

 

「通常のモンスター程度なら、このメンツなら負けないさ。」

 

 そういってシゲは楽しげに遊ぶ仲間たちを見る。

 つられて澄弧も仲間たちを見る。

 

「そうじゃな。水着で悩殺されてくれないシゲのせいじゃ。」

 

「師範代も似合ってますし可愛いですよ。」

 

「ま、世辞は素直に受け取っておこう。」

 

 澄弧が離れると次にシゲのもとに来たのはハナである。

 

「ねー。何の話?」

 

「ああ、『神おろし』の話だ。」

 

「あれは私専用じゃないの?」

 

「多分違うな。全属性の神を降臨させられるような超人は存在しない。」

 

「沖縄のユタとかはそんな感じなかったけどなぁ。」

 

「四神は特に方角と関係性が深い。東西南北全部できますというのは無茶だろう。」

 

「あんなに痛い思いしたのに私専用じゃないのか。」

 

 ハナはぐ~っと伸びをする。

 シゲの持つ竿から延びるウキがピクピクと反応しているので、シゲは合わせて魚を釣り上げる。

 

「うまいもんだねぇ。」

 

「山中の川で釣りをするのは難しくない。警戒心が薄いから。」

 

「シゲは何でもできるね。」

 

「何でもはできないだろう。俺のパンチなんてクソ雑魚パンチだし。」

 

「そういう意味じゃないんだけどな。それで、生前の約束は?」

 

「単車の後ろに乗せろだっけか。別に構わないがどこか目的地でもあるのか?」

 

「どこでもいい!」

 

「そうか、考えておくよ。」

 

「そうしてね。」

 

 そういってハナはひらひらと手を振りながらシゲのもとを離れる。

 

 最後にやってきたのはステファである。

 

「今後の活動方針は?」

 

「みんなやりたいことがあるんじゃないのか?」

 

「あんまりないねぇ。」

 

「そうなのか……。ひとつ面白そうなことはある。」

 

「なに?」

 

「じゃあ全員集合したら話をしようか。」

 

 ステファは即座に全員を集める。バーベキューコンロの周りに一同が介して座る。

 

「さて、次にすることの提案だが……。これだ。」

 

 そういってシゲはアイテムボックスから茶色い巻紙を一枚取り出す。

 中には何も書かれていない。

 

「で? この紙が何か?」

 

 あまりの何もなさに俊也が問う。

 

「この紙は『宝の地図』として古書店で販売されてたものだ。」

 

「あちゃー。」

 

「これはダメだね。」

 

「詐欺の常套手段じゃん。」

 

 シゲからの提案とはいえ、皆口々にダメ出しをしてくる。

 

「で、試してみたいのがこれ。」

 

 シゲはそういうと宝の地図に水をかける。そしてそのまま待つ。

 待つ。

 待つ。

 待つ。

 シゲは誰かが動こうとするのを手で制して人差し指を口に当てる。

 そして待つこと五分。

 五分経過してシゲはゆっくりと宝の地図を持ち上げると、そこには本当に地図が描かれていた。

 

「た〇しの挑戦状か!」

 

 誠は思わず叫ぶ。

 

「ご明察。LAOの開発は相当偏ったゲーム知識を持っているようだ。」

 

「次の目的が決まったな。」

 

 俊也がそういうとシゲがニヤリと笑って見せる。

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