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046 基礎の呪い~木編③~

「さて、ようやく実況と解説の出番となりました。」

 

「俊也選手に関しては道中から解説していたのですが……。」

 

「どうやら機器の不具合で全く実況と解説が入っていなかったようです。」

 

「運営としてはそのあたりはきちんとして欲しいですね。」

 

「さて、解説のA氏にお尋ねします。宝箱の早開けという事ですが?」

 

「読んで字の如く。本当にそのままです。」

 

「そうなると開けた宝箱の個数で得点といった感じになるのでしょうか?」

 

「あとは宝箱のレアリティですね。茶色宝箱は1点、赤宝箱は3点、金宝箱は5点になります。」

 

「なるほど。俊也選手は何か注意点とかあるのでしょうか?」

 

「水道管ゲームを甘く見ない方がいいとだけ言っておきましょうか。」

 

「色々なゲームのミニゲームとして使われてますよね? 流す水の距離が長いと高得点とか。」

 

「ま、そのあたりの先入観は禁物です。」

 

「なるほど。何やら意味深なA氏の解説でした。」

 

「Aの奴は本当に解説する気があるのかね?」

 

 実況と解説を聞いたアキラはそういい捨てる。

 

「どうでしょうね。ただ、世間の『水道管ゲーム』に対する認識が間違っているというのは同意ですよ。」

 

「そりゃ開発者としては嬉しいのう。」

 

 その発言でようやく俊也の脳内が繋がる。『アキラ』という日本人風の名前と明らかな外国人の様相から

 そのアンバランスさにどうしても合点がいかなかったが、ようやく繋がった。

 

「あなたは開発者のアキラ・レッドマー氏ですね。そしてWATER WORKSの水道管ゲームではなく『パイプドリーム(Pipe Dream)』が正解なのですね。」

 

「いやはや。これだけの情報であっさりと正体を見抜かれるとは思っておらなんだ。感心するぞ。」

 

「お褒めに頂き光栄です。」

 

「じゃ、ぱっぱと始めようかの。」

 

「そう致しましょう。」

 

 一見すると無造作に床に置かれている宝箱。

 しかし、少し視点を変えるとそれは等間隔に置かれており、まるで碁盤の目の中に納まっている。

 

 俊也の目の前に床から岩がせりあがってくる。

 その岩には電子的なテーブルとボタンが配置されている。

 

「解錠はリモートですか。」

 

「わしは歳じゃからのう。いっせーので走ったらその時点で負けじゃよ。」

 

 そういってアキラは笑う。

 俊也はなるほどと納得してボタンを押す。

 すると宝箱の置いてある床がランダムに光る。

 ピピピピピという機械的な音と共に一つの茶宝箱が示される。

 

「9×9マスから順当に……ってとこかな。」

 

 実は宝箱のマインスイーパーには攻略法がある。

 マインスイーパーは1手目が最重要で、どこに爆弾があるかわからない状態でどこかのマスを選択せねばならないのが一番の事故。

 しかし宝箱の解錠には、その後に控えているパイプドリームがあるのでスタートとエンドの位置がわかる。

 つまり、絶対に安全な2か所が存在しているのである。

 とはいえ、この方法が使用できるのは赤宝箱まで。

 

 金宝箱は流石に出てくるレア度の高さからマインスイーパーをまともにクリアしないとスタートとエンドの位置が出てこない。

 初めて金宝箱の解錠に挑んだときは1手目で地雷に吹っ飛ばされて俊也でも街へと強制送還された。

 

 そしてWATER WORKSとPipe Dreamの差というのも理解しておかねばならない。

 Pipe Dreamは元々カードゲームとして2人~5人で『対戦』するためのものなのである。

 決して一人で遊ぶためのゲームではない。

 

 では『対戦』で何ができるかというと、簡潔に言えば『邪魔』ができる。

 壊れたパイプを相手の場に出すことができるのである。

 壊れたパイプは必ず『レンチ』のカードで修理しないとそこを水が通過することができない。

 つまりは戦略性を求められるゲームなのである。

 

 二人はものすごいスピードでマインスイーパーを終わらせてパイプを繋ぎ始める。

 一切無駄のない作業。邪魔なパイプが来てもどこに置くのかをもう予め決めてしまっている。

 1個目の宝箱はタッチの差で俊也が先に解錠する。

 

(まずは1ポイント。)

 

 慌てず、焦らず、確実に。

 今度はアキラが宝箱選択のボタンを押す。

 なるほど、負けたほうが宝箱の選択をするルールなのか。

 

 そうして次々に選択される宝箱をアキラと俊也は次々に解錠していく。

 茶や赤程度の宝箱では二人の実力は拮抗し、ほとんど差がない。

 あるとすれば少しばかりの運の差だけである。

 よってポイント差は全くといっていいほどついていない。

 本領はここから先、金宝箱が登場してからだと二人は無言で語っている。

 

 そして三十数個目の宝箱を選択時にようやく金の宝箱が示される。

 俊也は盤面を眺める。何もない30×16のマスなのだが傾向がある。

 金の宝箱をいくつも解錠してきた自分の経験と勘に従う。

 流石に1000個もの宝箱の解錠を10セットもしてくると金宝箱には一定パターンのマインスイーパーしか用意されていないことが分かった。

 それは全てPipe Dreamに依存するため、『必ず通過できるルート』を用意するというマインスイーパー側に制限がかかったためである。

 

(金宝箱のパターンは煩悩と同じ108パターン。その中でX軸が6、Y軸が13の座標が地雷であるパターンは6パターンしかない。)

 

 確率の問題なのだから勇気をもって1手目を打つしかない。

 しかし無情にも俊也はその6パターンを引いてしまい地雷で爆発。

 

「ひょっひょっひょ。甘いのう。お主であれば金箱の安全地帯くらい知っておると思ったが。」

 

「……っ。完全な安全地帯があると……。」

 

 アキラは自信をもってX軸を1、Y軸を16を選択する。

 見事に地雷を避けてマス目が一気に開く。とはいえ、スタートでもエンドでもない地雷に囲まれた範囲でしかない。

 

「通過させるだけがPipe Dreamではないぞ。捨てる場所を作っておくことこそ重要じゃ。」

 

 今まで俊也は、金宝箱の解錠の為スタートからエンドの位置を特定できるように『効率的に』マインスイーパーをこなしてきた。

 確かにそれではアキラの示した『パイプの捨て場所』という地雷に囲まれた範囲が出てくることは無い。

 急がば回れ。効率を重視した俊也の失態である。

 

「ちなみに金宝箱のパターンは108パターンではなく124パターンじゃ。」

 

「くっ……。」

 

「この時代にメモリ削減なんかする理由がないからのう。マインスイーパーのマップデータくらいは素直にMAXまで使っておるよ。」

 

 この程度のことくらい、シゲならば考察だけで辿り着いたであろう結論。

 そこに至れなかった自分の未熟さを痛感する。

 そしてアキラは余裕で金宝箱を解錠してしまう。

 

 5ポイントの差というのはかなりの差になりえる。

 ここから先何個の宝箱解錠のチャンスが訪れるのか。

 

「うん。飽きたな。」

 

 金宝箱を解錠すると、アキラはそういい放った。

 

「124パターン中108パターンも理解していれば十分だろ。」

 

 そういってアキラは次なる宝箱の抽選ボタンを押す。

 そして選ばれた宝箱は茶色の宝箱の筈だが、床がぐりんと反転すると出てきたのは虹色に輝く宝箱。

 こんなものは俊也も見たことがない。

 

「ダンジョンの奥深く。深く深く奥地にレア設定されている宝箱じゃ。」

 

 全く予備知識のない宝箱を開発者と競って解錠しろというのはほぼ不可能である。

 

「これが触れるのは『基礎盗賊』をマスターしたものだけじゃ。物理破壊は一切受け付けない。まぁ世界で唯一、お前さんだけが今のところ解錠権限を持つ宝箱といってもいい。ヒントは十分にある、解錠してみせい。」

 

「し、試練は……?」

 

「Pipe Dreamを知っていた時点で合格じゃよ。早開けは余興かな。楽しかったじゃろ?」

 

「貴方たち開発陣は……。基礎はなんでこんな玩具にされているのですか?」

 

「全ては陰と陽が解決すればわかる話じゃよ。さ、虹宝箱の解錠に挑みなされ。出てくるアイテムは全部URクラスじゃ。」

 

 虹宝箱はマインスイーパーが64×64マスの全4096マス。金宝箱のマス目ですら480マスだったのに対して10倍。

 相変わらずぶっ壊れた仕様を持ってくる。

 単純に考えるのであれば480マスで99個の地雷だったのだから990個の地雷があっておかしくない。

 

 マインスイーパーは1手目がすべて。

『ヒントは十分にある』その言葉にふと自分の立ち位置を思い出す。

 今いるこの洞窟の空間。宝箱の配置は64×64になっている。

 ひょっとして、この虹宝箱に限ってはヒントがこの場所にあるのではなかろうか。

 

 ランダム選択といいながら、それ自体がヒントになっている。解錠した宝箱は既に100個近くになっている。これだけあれば十分なヒントになりえる。

 ゲームではよくあるパターンではあるし、LAOの開発陣ならやりかねない。

 俊也は自分から最も近い、X軸6、Y軸1の場所を選択する。

 

 ――地雷は発動しない。

 

 胸をなでおろした俊也は、そのまま既に選択済みの宝箱位置を慎重に選択し宝箱を無事に解錠させた。

 中からはばね式のとぼけた人形が出てきて、紙吹雪と共に『おめでとう』と書かれている。

 

「おめでとう。」

 

 アキラはそういうとニヤリと笑い、集中力が切れた俊也はその場に座り込むのであった。

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