045 基礎の呪い~木編②~
「よっこいせっと。」
そういって老人は立ち上がる。
「全く知らんでいいが、儂はアキラじゃ。」
「あ、俊也といいます。」
俊也は丁寧に名乗り頭を下げる。
明らかに年上。そしてどう見ても外国人。
AIなのか本物なのかの区別は現時点では全くつかない。
丁寧な対応は間違いないであろう。
「お主は何屋じゃ?」
「リアルでは『なんでも屋』です。修理でも片付けでも。仮想では基礎盗賊です。」
「ま、この宝箱だらけの現状を見ればわかるだろ。正解じゃよ。」
「ここに来るまでの間も苦労させられましたけどね……。」
「ああ、あれはここの試練だけでは新スキルの取得が出来んからな。システム的に作らせてもらった。」
「C4やレーザーはやり過ぎだと思うのですが?」
「ま、突破できたのだから適正なんだろうよ。そこまで難しくは作っておらんわい。」
「一般人向けではないですけどね。」
「元々の『基礎』がそういう風に作られとるのじゃから、いいんじゃよ。」
「で、ここでは宝箱の早開けでもしますか?」
「ほとんど正解じゃ。まぁ『開ける』ことに特化はさせとるがな。」
「宝箱の破壊はセンスがないですよね。」
「そうなんじゃよ。なんであんなにダサいことがスタンダードになったのかいまだに不思議じゃ。」
「人間、低きに流れるものですよ。楽な方楽な方にと。」
「だが、宝箱の開錠スキルを身につけたお主なら気付いておるのじゃろう?」
「宝箱を『破壊』した場合と『開錠』した場合のレアリティドロップの差ですよね?」
アキラは俊也の百点満点の回答に目を細めて喜ぶ。
「そうじゃそうじゃ。その通りじゃ。世の中の阿呆どもは金の宝箱からはSRしか出ないと思い込んでおる。馬鹿ばっかりじゃ。」
そう、ダンジョン内には大きく分けて3種類の宝箱がランダムに湧き出す。
茶色の宝箱は一番低ランクの宝箱。赤い宝箱は中ランク、金の宝箱は高ランクの宝箱となっている。
一般では茶色の宝箱からはノーマルランク(N)のアイテムが出てくる。
赤い宝箱からはレアランク(R)のアイテムが出てくる。
金の宝箱からはスーパーレアランク(SR)のアイテムが出てくる。
稀に一つ上のランクのアイテムが出てくる。
LAOの掲示板や攻略情報サイトのどこを見てもそう書いてあった。
だから俊也が初めて茶色の宝箱を開錠した時にSR武器が出てきてたまげたものだった。
勿論、Nランクの中でも希少性の高い物や有用性の高い物は存在するし、それはRランクでも同じことが言える。
しかし、換金性の高さで言えばより高ランクのものが適している。
洞窟内をスニーキングし、敵に見つからぬように宝箱を開錠する毎日。
そんな日々を送っていた俊也にとって宝箱の中身が開錠すると高ランクのものが『出やすい』というのは明らかだった。
そして市場で一般売買されるアイテムのほとんどはSRクラス。
SSRクラスやSSSRクラスになるとほとんど出回らず、どれだけ金をつぎ込んで買い取るか
オンラインゲームの醍醐味といってもいい、延々と終わらないレア堀の為の狩りを続けるかという話になる。
市場価値を見て、俊也は愕然とした。
自分が今持っているSSSRの武器や防具、アクセサリーを世に流しては市場が大混乱すると。
おかげで市場に流せずに倉庫の肥やしとなっているSSRやSSSRのアイテムは大量にある。
下手なドラゴンを倒して財宝を独り占めするよりも、俊也の倉庫を丸ごと買ったほうが高額な可能性すらある。
『本当に基礎系は恐ろしい職業である』
これが俊也の出した結論だった。
シゲが基礎にこだわった理由もわかる。
廃人仕様とはいえ、間違いなく強い。そして狂っている。
高ランクのアイテムは単純に強い。
低ランクの武具やアクセサリーを改良して強くすることもできるが
所詮は低ランク。頭打ちが存在する。
それでもパーティの編成や狩りの仕方によっては楽に攻略できるダンジョンやモンスターがいることも事実である。
が、それすらをぶっ壊していくのが高レアアイテムである。
結局、目的がモンスターの討伐である以上火力は正義。
そして高レアリティの防具には特性があるし、高レアリティのアクセサリーには状態異常を含む優秀なものが揃っている。
装備するだけでレベルが1でも無双可能といってしまえばいいのだろうか。
まるでゲームの裏技を試しているような気分になる。
高レアリティの装備を俊也が使用しない訳はなく、装備して歩きたいのだが問題がある。
高レアリティの装備は、とにかく目立つ。光り輝きご立派なのである。見た瞬間にレアリティの高さがわかるようになっている。
そうなると、道行くプレイヤーに捕まり「何処で手に入れた」だの「売ってくれ」だのと大変なことになる。
ただ、LAOは『見た目』だけを変更することができる為
俊也は有料オプションで『見た目変更スキン』を購入し、レア度の高い武具やアクセサリーを装備していないように見せかけている。
最初は比較的近場にいたハナにはいくつか武具やアクセサリーを融通していたのだが
それでも日々倉庫を圧迫していき、今では貸倉庫を10個も借りる羽目になっている。
今ではハナにすら新アイテムを貰ってもらえない。
だからこそアキラのいう『阿呆』というのはその通りだと思った。
ゲームには正解があるのだから、正解をきちんと選択すべきなのである。
ただ、ダンジョンというモンスターがいつ何時襲ってくるかわからない場所で
時間をかけて宝箱の開錠を行い、中のアイテムを取り出すという手順を踏むだけのリスク管理に見合わなかったのである。
金の宝箱でも前衛職が5発殴れば壊れる。
それに対して宝箱開錠スキルを有する『基礎盗賊』や『基本盗賊』がどんなに急いでも10分はかかる。
スキルレベルを上げることで速度はあがっていくのだが、その間はパーティであれば他のメンバーに守ってもらう必要がある。
モンスターから攻撃を受ければ最初からやり直し。
一度開錠作業を中座してしまえば最初からやり直し。
壊してしまえという流れになるのは尤もだし、致し方ないとも思う。
LAOは絶妙に人間心理を突いた嫌な事をしてくる。
「開錠スキルのレベル上げで、倉庫にアイテムが入りきらず困ってますよ。」
「不要なものは売ってしまえばよかろう。」
「1個1個が高額ですからね。一気に市場に流すわけにはいかないですよ。」
「欲に目の眩んだ人間とは面倒なものじゃな。」
「全くです。欲しければ自分で努力すればいいだけなのですが。」
「だから『基礎』があるのであろう?」
「『基礎』は努力の結晶以外、何物でもないですからね。」
「さて、そろそろ実況と解説に仕事をやるとするかのう。」
「ええ、待ちくたびれていると思いますよ。」
そういってアキラと俊也はニヤリと笑う。




