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043 基礎の呪い~土編③~

「ふーっ、ふーっ、ふーっ」

 

 肩を大きく上下させ、荒い呼吸の中血と泥にまみれたペインがいた。

 WAVEと言っていたが、本当に波の様にとめどなく敵が現れる。

 その度にペインはルカを守りながら懸命に戦う。

 

 もう倒した敵の数など覚えていない。

 途中で騎乗スキルを発動して乗ったオオカミもいつのまにか敵にやられてしまった。

 ゴブリン、ゴブリンライダー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンキング、オークと段々敵の強さは上がっていく。

 最初は一撃で葬れた敵も、オークはスキルを使用しないと倒せない。

 スピアによる基礎騎士の固有スキル『連続突き』である。

 

 騎士とはなんと面倒なものであろうか。

 重装備は何と邪魔な事だろうか。

 スピアとはなんと戦いにくいものであろうか。

 

 恨み辛みが喉まで出かかっては飲み込み、ただひたすらに敵に向かって行き倒す。

 仮に基礎系に対しての上位スキル習得のためとはいえ、こんなにもばらつきがあっていいのだろうか。

 澄弧は同等の者との戦いの中で進化した。

 誠は上位の者との戦いの中で進化した。

 ステファはただ、ゲームを楽しんだだけの様だった。

 

 それに比べてこれはなんだ?

 どうしても合点がいかない。

 絶え間なく戦い続けて何があるというのだ?

 終わりの全く見えない戦いの中、ペインはずっと考え続ける。

 

 そもそもの根底が間違っているのではなかろうか?

 

 解説は確かに『ルカを守り抜け』と言ったが『敵を倒し切れ』とは言っていない。

 方法は様々と言っていた気がする。

 つまり『方法』が存在するのである。

 今はその方法がわからない。わからないから闘い続けるしかない。やるしかない。

 

 何が真実で、なにが嘘か。

 そんなことを言ってしまえばこの仮想世界そのものが嘘になってしまう。

 だがそんな中でどうしてもペインに引っ掛かることがある。

 

 ――このルカは本当にルカなのだろうか?

 

 見た目は間違いなくルカである。

 仕草、癖もルカ本人に見える。

 ただ、高度に成長したこの時代のAIはそんなこと簡単に模倣できてしまうのではないか?

 いや、そもそも『ルカ』という女性は存在したのか?

 VOCALOIDのバーチャルシンガーとして存在した『巡音ルカ』は『流れる歌』からルカとなった。

『ルカ』という名前がそもそも何かの派生だとしたら?

 

 ルカ、ルカ、ルカ、ルカ、ルカ……。

 

 そう呟きながらも、モンスターは次々に現れる。

 別のことを考えながら戦う事ほど危険なことは無い。

 気付いたときにはもう遅い。オークが薙ぎ払うかのような横からの拳を大盾でガードしたとはいえ、腰が入っておらずペインは吹っ飛ばされる。

 なんとか着地出来たとはいえ、確実にダメージが蓄積されていく。

 

 ルカはご丁寧にペインが傷つくたびに回復魔法をかけてくるという徹底ぶり。

 ペインが未だ攻撃していないモンスターは一気にルカへとターゲットを変更する。

 気力を振り絞りペインはルカのもとへと駆け寄り、襲ってくるモンスターを撃退する。

 

 ルカ、ルカ、ルカ、ルカ、ルカ……。

 リュカ……!?

 龍化?

 

 これらがもしすべて龍への騎乗。ドラゴンライダー、龍騎士へとなるものなのだとしたら?

 そうすればすべて合点がいく。

 終わらないWAVE。余裕なルカ。

 終了条件が明示されていないことも納得できる。

 

 モンスターを倒し切ったペインはゆっくりとルカへと近づく。

 ルカは柔和な笑みを浮かべたまま、次のWAVEを発生させようとしている。

 そんなルカの前へとペインは跪く。

 

「あら? なにかしらん?」

 

 ルカはおどけた様子でペインの反応を見る。

 

「乗らせてもらえないだろうか?」

 

「えっちい意味で?」

 

「全くそういうのではなく。ルカ……君はドラゴンなのだろう?」

 

「どのへんでわかったの?」

 

「この試練が他の試練と違って『終了条件』があやふやな事かな。」

 

「ふーん。でもそれだけじゃ説明にならないよね?」

 

「『ルカ』という名前を何度も呟いていたら『リュカ』になり『龍化』へと行きついた。本当にヒントなんてその程度さ。」

 

「ずっと私のことだけ考えててくれたんだ。」

 

「そこは微妙かな。はじめのうちは心を無にして戦うだけだったから。でもだんだんと一緒にスキルレベルを上げた事とか思い出してね。」

 

「ずいぶんと長く一緒にいたからね。」

 

「あぁ、こっちにきてから一番長く一緒にいた。」

 

「これからも?」

 

「あぁ、これからも一緒に頼む。」

 

 そうペインが言うと、ルカはペインへ右手を差し出す。

 ペインはルカの手の甲へとキスをする。

 するとルカの身体は光に包まれ、段々と本来の姿を取り戻していく。

 そこには体長が三メートルほどのドラゴン。

 ドラゴンというにはあまりに小さいが姿形は紛れもないドラゴンなのである。

 背中には鞍が乗っており、騎乗ができるようになっている。

 

 空中に向けてルカはぼうっと火の息を大きく吐き出すと、『伏せ』のように身体を低くする。

 ペインはルカの背中にある鞍へと座り、手綱を握る。

 すると今まで閉じていた、洞窟内全ての柵が一斉にあがる。中からはゴブリンをはじめとする様々なモンスターが一斉に飛び出してくる。

 ペインは手綱を少しだけ引くと、ルカは両翼をはばたかせて少しだけ浮き上がる。

 そして洞窟内を旋回するように飛び回る。

 

「タウント!」

 

 ペインは洞窟内のターゲットを一身に取得する。

 ゴブリンアーチャーからの弓攻撃や、オークの投げつけてくる岩石を華麗にかわしながら飛び回る。

 

「キエエエエエエエエエエエエ!」

 

 ルカはドラゴンの咆哮をあげると、モンスターたちは一斉に怯む。

 その隙を逃さず、ペインはルカの手綱を緩めるとモンスターに向かって一直線に降下を始める。

 すれ違いざまにペインのランスが次々と敵を貫いては殺していく。

 

「一文字突き!」

 

 ランスの新スキルを用いると、ランスから一直線に衝撃波が放たれ直線状にいたモンスターをなぎ倒していく。

 また、ルカも口から炎を吐きモンスターを一方的に蹂躙していく。

 

 すべてが終わった後は圧巻の一言。

 ルカはゆっくりと着地すると身体を地面へと伏せる。

 ペインは鞍から降りると、ドラゴンへと手を伸ばす。

 ドラゴンは頭をペインの手へと近づけ、ペインがドラゴンの頭をひと撫でするとまたまばゆく発光する。

 

 次に立っていたのはやはりルカだった。

 

「ペインさん、末永くよろしくお願いしますね?」

 

 いたずらそうにルカは笑う。

 こんなことになるならば、ワンナイトでも誘っておくべきだったか。

 ある意味これは結婚よりも束縛の厳しいものになるのではないか。

 そんな嫌な予感がペインの脳裏をよぎる。

 

 とはいえ、回答は一つしか許されない。

 

「はい。」

 

「あ、世の中に私以外のドラゴンがあと3人います。私は火属性のドラゴンなので。」

 

「え? えぇぇ……。」

 

「みんなやきもち焼きなので注意してくださいね。」

 

 ガクンとペインは肩を落とす。

 まだまだ受難は続くらしい。

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