042 基礎の呪い~土編②~
「じゃあ、死ぬ気で私を守ってね。」
ルカは明るくそういうと右手を上げる。
洞窟内の大きなホールにはいくつも穴が開いており、そこには柵がされている。
その柵が手始めと言わんばかりに5個ほど解放されれる。
そこから湧いて出てきたのはゴブリン。手にはこん棒を持ち腰布一枚で身体の色は緑色。
オーソドックスなゴブリンたちである。
数はざっとかぞえて10体ほどであろうか。それらが出てくると柵は再びガシャンと音を立てて穴をふさぐ。
「いやーん。ゴブリンこわーい。」
ルカは身体をくねくねさせながらそんなことを言っている。
もっと過酷な環境でペインと一緒にスキルレベル上げをしたのだから10体のゴブリン程度で怯むはずもない。
ただのポーズであることはペインにもわかり切っている。
しかし、やるしかない。
「タウント!」
ペインはタウント用いてゴブリンたちのヘイトを一身に受ける。
ゴブリンたちのぎょろっとした瞳が一斉にペインへと向く。
ゴブリンの攻撃などたかが知れている。ペイン自身が纏っている重装備はこん棒程度でダメージを受けるような代物ではないのだ。
ペインは駆け出すとまずはあいさつ代わりに手近にいたゴブリンを一突き。
そのままランスを振り回してゴブリンの死体を放り出すと次々にゴブリンの急所をランスで突いて殺していく。
その雄姿は騎士としては完全に場を制圧しており、普段のペインからは考えられないほどの動きである。
あっというまに10体のゴブリンを葬り去るとそこにはマントをなびかせ、重装備がきらりと光るペインの姿があった。
「流石ですね。この程度じゃ私も物足りないです。では次に行ってみましょう。」
さっと右手を上げるルカ。
ホールの中は360°の全方向に対して柵のある穴が開いている為、どこからモンスターがやってくるかわからない。
ぐるっと周りを見渡して確認した限り、開いた柵は再び5個。
しかし中から出てくるモンスターはゴブリンとゴブリンライダーの混在編成。更に先程よりも数が多い。
とはいえ、ゴブリンは先ほど同様話にならないが、ゴブリンライダーはオオカミに騎乗している為、重装備のペインとは相性が悪い。
ゴブリンライダーはオオカミの習性からか、獲物の周囲を回りながら隙を探っては飛び掛かってくるので厄介である。
また、武装も普通のゴブリンと異なりこん棒ではなくボロボロとはいえ剣を装備しているのでオオカミを倒しただけでは安心できない。
「タウント!」
とはいえ、やることは一緒。とにかく自分にターゲットを集めてルカへは攻撃が及ばないようにする。
ゴブリンは弱いが馬鹿ではない。狡猾なのである。
特にゴブリンライダーとゴブリンが一緒にいる場合、ゴブリンはこちらを襲ってこない。
ゴブリンライダーが攻撃したのを確認してから追い打ちの様に攻撃を仕掛けてくる。
通常であれば獲物の周りを周回するのが常のゴブリンライダーもタウントで一気にヘイトを集めている為こちらに向かって一直線に走ってくる。
数にして5匹。問題は数ではない。その方向がすべてバラバラなのである。
いくら重装とはいえ、背後からの攻撃や押し倒されてしまっては反撃できない。
何も考えずに一気にターゲットを集めてしまったがこれは悪手だったのである。
とはいえ、スキルレベルがカンストしてしまったタウントでは、この程度の洞窟のホール内などすべて範囲内になってしまう。
救いなのはここが平場ではなく岩場だという事。
少し大きめの岩を背にしてゴブリンライダーを迎え撃つこととする。
しかしそこですかさずルカは回復術師《ヒーラー》のスキルを使用してペインの基礎能力をすべて+5する魔法を放つ。
回復術師《ヒーラー》が補助魔法や回復魔法を行うと、ヘイトを集めてしまうためそれを管理するのが前衛職の務めである。
――とことんまで邪魔しに来るという訳か。
ペインは作戦を変更する。
向かってくるゴブリンライダーに向かって走り出し、先頭を走る一匹のゴブリンライダーのゴブリンをスピアで一突きして絶命させる。
そしてそのままルカのもとへと駆け寄るとしっかりと盾を構えて防御の体制をとる。
二匹目、三匹目はほとんど同時にペインへと飛び掛かってくる。
片方を盾で完全に防御し、もう片方はランスでオオカミごとゴブリンを貫いて処理する。
ゴブリンライダーは残り三匹。
――そういえばゴブリンはどこへ行った?
狡猾なゴブリンがぼーっとしている筈がない。
そう思って背後を見ると、ルカの背後から襲い掛かろうとじわじわと距離を詰めてきている。
ペインは慌ててルカの方へと走り寄る。そしてそのままルカを追い越し、走りの勢いそのまま大盾で一気に五匹のゴブリンを吹き飛ばす。
「シールドバッシュ!」
盾による攻撃。吹き飛ばし、弾き飛ばしを目的とした攻めの防御。
今までの試練を見てきたからわかる。ペインはもう感覚的にLAOのゲームシステムを理解している。
いくらやる気がなくても、いくら怠惰でも、目の前に出された課題をクリアしてしまう。やってしまうのがまたペインの弱さであり強さなのである。
きっとルカは、必死なペインを見ながらほくそ笑んでいるのであろう。
もうルカの方は見ないこととして次のアクションを起こす。
確証はないが、騎士ならばあるのだろう。この重装備に耐えられるかどうかは不明だがやってみるしかない。
騎乗するゴブリンを失ったオオカミがうろうろと一匹存在する。
それに走り寄るとオオカミは特段逃げ出すこともなく、あっさりと手綱をペインへと握らせる。
手綱を握ったペインはひらりとオオカミへと飛び乗って騎乗する。
そう、騎士が騎乗スキルも存在せずにスピアをもって地べたを徘徊するわけがないのである。
ペインはあぶみに足をかけ、オオカミの腹を軽く蹴ってやると走り出す。
とはいえ、ゴブリンライダーほどのスピードは出ない。やはり重装備が関係しているようである。
この辺りの作り込みが細かすぎるのがLAOといったところか。
「タウント!」
再びタウントを用いてヘイトをすべて一身へと集めて、各個撃破する。
ゴブリンも、ゴブリンライダーも従来の戦いより楽に倒せる。
移動速度が速くなるとはここまで楽になるものなのかと感心する。
「じゃ、次ね~。」
ルカは間髪入れずに次のモンスターを呼び入れる。
ペインはそれに振り回される意外になす術がない。
次に現れたのはゴブリン、ゴブリンライダー、ゴブリンアーチャーの混合編成。
今度は弓持ちがいる。遠距離からの攻撃は一番面倒なので最初に倒さねばならない。
「タウント!」
とにかくヘイトを集めてターゲットを取り続け、闘い続け、倒し続ける。
それ以外の方法がペインにはないのである。
自分で走り回らない分楽とはいえ、それでも連続で戦い続けると精神をすり減らす。
そして狙いすましたかのように回復魔法や補助魔法を使ってくるルカの存在がペインを更に疲弊させる。
「まだまだいくよ~。」
ルカは非常にもペインを次の戦いへと駆り立てる。
スキルレベルを上げる際も、そういえばへとへとになるまで戦わされていた。
そんなことをペインは思い出していた。




