039 基礎の呪い~金編②~
ベルトコンベアはちょうど直角に曲がっている。
曲がりの少し手前が見えないようになっており、そこから人形が出てくるのであろう。
ステファの正面には自分のベルトコンベア。左側には葉月のベルトコンベアがある。
変な形状である。
常識的に対決というのであれば両者の正面にベルトコンベアがあり、互いに互いを監視しながらすすめる。
もしくは両者が背中合わせとなり、正面に流れるベルトコンベアに対して処置を行う。
それが、ステファ側からは葉月のベルトコンベアに手が届き、一方で葉月のベルトコンベアからはステファのベルトコンベアに手が届かない。
「さあ、さっそく始めようか。」
葉月はそういうと機械に取り付けられたレバーを引き下げる。
ゴウンゴウンと轟音を鳴らしながら機械が、ベルトコンベアがゆっくりと動き出す。
まず初めに出てきたのは紫色の顔色をしたウサギのぬいぐるみ。
見た瞬間に毒状態だとわかるので、『基礎リカバリ』を用いて状態異常を回復する。
すると機械がピンポーンと鳴る。正解であるようである。
なお、葉月の方は腕に包帯を巻いた猫のぬいぐるみが出てきて、間髪入れず『基礎ヒール』で回復を行う。
やはりピンポーンという機械音が鳴り響き正解として通過する。
次にステファの前に出てきたのはキリン。首に包帯を巻いている。
迷わずステファは『基礎ヒール』で回復を行う。するとまた正解音が鳴る。
ステファはもう葉月の方は気にしないことにした。ただ、二人とも正解音だけを確実に鳴らしていく。
次に出てきたのはゾウのぬいぐるみ。顔色に変化はなく包帯などもしていない。
つまりは正常時という事なので、幸運の祈りをかけてやると正解音が鳴る。
続いて出てくる人形はサイ、サル、イヌ、クマ、キツネ、ウマ、ヒツジ。
次々と流れては来るものの、ベルトコンベアの速度は遅く判断を迷うことなくステファは次々に処理していく。
ちょうど30体目にペガサスと思われるウマに羽の生えた人形が出てくる。
どこにも異常が見当たらないので『幸運の祈り』を用いるとファンファーレが鳴り響く。
これで一区切りのようである。第一クオータの収量である。
ステファはこの人形の配列はどこかで見たことがある。
「動物」の人形の中に紛れるペガサスが最大のヒントである。
しばし考えたステファに一つだけ思い浮かぶものがあった。
「たべっ〇どうぶつビスケットだ!」
「せやねん。せやねん。ええやろ。かわいいやろ。」
そういうと葉月は嬉しそうに笑う。
「30体目は必ずペガサスが出てくるようにしとるねん。わけわからんくなるからな。目印や。」
そういうとまたベルトコンベアが動き出す。
先程よりも少し速度が上がっている。
とはいえ、ステファは戦時下の混乱の中で自らのスキルを磨きあげ
元々のプレイヤースキルの高さもあって、即座位に判断して処理していく。
迷うことも間違う事もない。
回復役の判断ミスはパーティの崩壊に直結する。
特に今は範囲回復等のすべを持たない以上、一人一人確実に適切に回復なり状態異常なりを回復させることに専念するしかない。
第二クオータも問題なく完了する。勿論両者満点である。
第三クオータが始まるとき、ステファはふと思ったことがある。
シゲが介入後、戦力の拮抗が再び取り戻され泥沼の戦時下へと戻っていった。
その最中、ステファは後方での支援待機ではなく敢えて前線へと赴いた。
と、いうのも最前線で戦う兵士たちはできることであればその場で回復を受けて戦線へと復帰することが最も望ましい。
いちいち衛生兵に引きずられ、後方支援の戦闘指揮所まで回収するのは手間でしかないのである。
また、基礎聖職者は刃物の類を一切装備できないため
通常であればロッドと呼ばれる短めの杖を持つのが常なのである。
これはMPの最大値上昇や、基礎ヒールの回復量増大につながるためである。
しかし、ステファは敢えてここで少し小振りなモーニングスターメイスを装備して、自らの身を最前線へと置いた。
つまり、自分で敵を殴り、仲間を回復し、走り回ることを選択していた。
その効果は絶大で、今までは軽傷で「まぁいいか」としていた兵士にまで基礎ヒールを用いることでスキルレベルを上げることが捗り
また、戦局もどんどんとステファが所属しているゲホサラス教国へと傾いていった。
そんな中第三クオータの開始音が鳴り響く。
第二クオータより更にベルトコンベアが早く動く。
人形が出てきた瞬間、ステファはモーニングスターメイスへと装備を変更して、葉月のベルトコンベア上にある人形を殴りつける。
そして間髪入れずに自分のベルトコンベア上のぬいぐるみに対して基礎ヒールをかける。
そう、ステファの素朴な疑問は『邪魔をしたらどうなるのであろう?』であった。
運悪く、その時に葉月に流れてきたパンダの人形は包帯をしており、葉月は『基礎ヒール』を用いるだけで何の邪魔にもならなかった。
しかし、葉月はニヤリと笑う。本当に楽しそうに笑う。
続いて流れてきたのはステファには正常なペンギン。『幸運の祈り』を使うとすぐに葉月のラインにいる人形を殴りつける。
葉月のラインには青い顔をしたタカがおり、ステファが殴りつけると更に包帯がまかれた。
葉月は冷静に『基礎ヒール』と『基礎リカバリ』で回復させる。
邪魔をするにも手数がかかる。
とはいえをれをリカバリーする葉月にも手数がかかる。
毎回ではなくランダムに混ぜ込んでいけば……。そんなことをステファなりに考える。
そんな中ふと思う。
『異常なし』のぬいぐるみに対して『幸運の祈り』を使用しなければならないが
それが途中で『HPの減った状態』となった場合はどうなるのか。機械の判定はどちらになるのか。
これは試してみる価値がある。
虎視眈々とチャンスをうかがうステファ。
どこからでもかかってこいと言わんばかりの余裕のある葉月。
程よい緊張感の中、その瞬間は第三クオータ30体目のペガサスで現れた。
ステファの人形は毒状態。葉月の人形は異常なし。
ここがチャンスだと言わんばかりにステファは葉月のぬいぐるみに対してモーニングスターメイスを振り下ろす。
今まではどちらかというと武器の重さを利用して振り下ろしてきたのだが、ここにきて武器が急に軽く感じ的確に狙って振り下ろすことができた。
そして思わず『アタック!』声が出ると声が出る。
その攻撃は今までと威力が違う。ゴン!と重々しい音が響くと共にペガサスの羽根がちぎれて飛んだ。
部位欠損は基礎ヒールでは治せない。
これは戦場で目の当たりにしてきた光景である。
しかし葉月は冷静に「スーパーヒール」と上位スキルを見せつけ、部位欠損を直すとそのまま『幸運の祈り』を使って何事もなかったようにクリアする。
そして第三クオータが終了する音が鳴り響く。
「上位スキルは見せるつもりはなかったんやけどな。まぁしゃーない。先に『アタック』を習得されるとは思わんかったわ。」
そういってケラケラと葉月は笑う。
やはり葉月は今までの試練とは違う。上位スキルがあることも、どんな効果があるものなのかも見せてくる。
「ちょっと予定は変わるけど、第四クオータからは部位欠損も含めよか。」
それはつまりステファに対しても上位スキルである『スーパーヒール』を使えと言っているのである。




