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033 基礎の呪い~水編②~

「さあ、プラムック選手はフットワークを使って澄弧選手の周囲を回るっ!」

 

 プラムックはステップを踏みながら澄弧との距離を調整し、お互いの攻撃が当たるギリギリのラインで動く。

 一方で澄弧は、呼吸を整え、プラムックからの攻撃を待つ。

 合気道の基本は後の線。相手の攻撃を、その力をうまく利用して反撃する。

 

 するとプラムックは澄弧の正面で立ち止まるとぽんぽんと自分の右足を叩く。

 次は足技で勝負だと言わんばかりの挑発。

 澄弧もニヤリと笑い、その挑発を受ける。

 

 そして一瞬の刹那、右足のハイキック一閃を互いに放つ。

 お互いの足の甲が衝突し、パチーンと高音が響く。

 

「ハイキックだ! ハイキック! 互いに一歩も譲りません! 力が拮抗しています!」

 

「!!! いえ……拮抗ではないようですよ。」

 

 じりじりとプラムックのキックが澄弧の足を押し込んでいく。

 そして最終的には澄弧の足は弾き飛ばされてしまう。

 足を弾かれても、左足を軸にしてくるりと回ることで澄弧はその勢いを殺して着地する。

 

 一方でプラムックは右足の勢いそのままにくるりと回って着地する。

 

「ふむ……やはりな。」

 

 澄弧はそう呟く。

 

 プラムックはニヤリと笑う。

 

「お主のスキルはレベル10ではないな?」

 

「ああ、俺は元々プラムックのクローン脳だ。そしてスキルレベルは10ではなく11になっている。」

 

「なんとっ! なんとっ! なーんとっ! プラムック選手のスキルレベルはあるはずのない11レベルだっ!」

 

「わしの攻撃に寸分たがわず合わせてくるには、同時に撃ちださねばならないのにお主は明らかに少し遅く攻撃する事で合わせてきている。そんなことができるのはわしよりスキルレベルが高い者だけだ。」

 

「別に舐めているわけではない。スキルレベルに差がありますよというのを暗に伝えたかっただけなのでな。」

 

「舐められているとは思わんよ。ただ、運営も無茶をする。」

 

「ま、それが『呪い』なのだろうな。」

 

「投げ技を封じられ、打撃のみでスキルレベルが上位の者と戦えと。そういえばそんな例をシゲが興奮して言っていた事があったな。」

 

「さあ、俺は知らん。」

 

 プラムックはそういうと実況席を指さす。

 

「えー。おほん。指定されたので解説いたします。過去に投げ技禁止、打撃のみのルールで格上と対した伝説の試合と言えば、アントニオ猪木VSモハメド・アリ戦でしょうか! あの伝説の試合はアントニオ猪木がモハメド・アリからの攻撃を受けず、自分からは攻撃可能な方法としてリングに寝転がったまま、ひたすらローキックをし続けるという世界的には大批判を受けた試合でもあります! しかし、しかし後にして思えばボクシング世界チャンピオンに対して、打撃のみで勝負を挑野むのは不可能であったと。アントニオ猪木の選択は正しかったのだと再評価された試合でもあります!」

 

「だ、そうだ。お前はどうする?」

 

「わしにはわしの戦い方がある。」

 

「そうか。では続けよう。」

 

 そういって両者はリング中央で再び拳を軽く合わせる。

 そして再び拳のラッシュ。パンチの応酬。互いに一歩も引かずに打ち続ける。

 しかし澄弧の手数より多いプラムックのパンチが澄弧の頬をかすめ、長い髪の端を切り飛ばす。

 明らかに澄弧の劣勢。プラムックは本気のパンチを繰り出してきている。

 必死に拳を打ち込むも澄弧はだんだんと窮していく。

 

 そしてとうとう、澄弧の左頬にプラムックのパンチがきれいにヒットして澄弧はその勢いで後ろへと飛ばされる。

 

「クリーンヒット! クリーンヒット! とうとうプラムック選手の拳が澄弧選手をとらえました!」

 

 ならばと今度は足技も組み込みパンチとキックを組み合わせて澄弧はプラムックへと襲い掛かる。

 プラムックは時に防御、時に攻撃と手数で圧倒している筈の澄弧の攻撃をすべて弾いていく。

 そして澄弧の一瞬の隙をつき、プラムックの蹴りが澄弧の横腹をとらえる。

 再び澄弧はリングの端まで飛ばされる。

 

「今度は蹴りです! 澄弧選手ジリ貧だー!」

 

 澄弧は思い出す。もう四十年以上前になるか。

 澄弧は格闘家としての壁にぶち当たっていた。

 合気道は投・極・打(当身)・剣・杖・座技と多岐にわたるが全てにおいて行き詰っていた。

 自分の身体の限界。特に手足のリーチの短さによる『打』が決定的に欠けていた。

 合気道には『試合』という概念はないものの『演武』は存在する。

 リーチ不足による打が欠落すると投一辺倒となり、相手にいいようにやられてしまう。

 

 自己解決に窮した澄弧が頼ったのはシゲだった。

 唯一対応に格闘技の話ができる相手がリアルではほとんどいなかったこともあるが

 シゲならば何か妙案を出してくれるのではないかという期待もあった。

 シゲは一通りの話を聞くと、うんうんと勝手に頷き「多分解決できると思うよ」と言ってのけた。

 

 それは澄弧が求めていたものであったが、逆を言えば格闘技をやっていないシゲに解決できる問題だということもショックだった。

 シゲから提案されたのは『距離を縮めること』と『二の手』についてだった。

 特に『距離を縮める』ことに対してのシゲの回答は意外だった。

 

 合気道において『打』は基本的に真っ直ぐ打ち込むもの。

 それは拳であっても掌底であっても変わらない。蹴りもまた正面に対して蹴るか、横から蹴るかの違いである。

 それに対してシゲは『左足を軸にして右回りで、かかとから蹴りに行け』というものだった。

 最初は何を言っているのかわからなかったが、聞けば簡単な話だった。

 まず左足で踏み切る。そして右回転しながら右足のかかとで相手の右側面を攻撃しろというのである。

 とびまわし蹴りとでも言えば単純なのだろうが、澄弧にはそれがなぜ有効なのか理解できなかった。

 

 ただ、実際に使用してみるとその効果がわかる。

 合気道には『回転しながら打撃を行う』という概念そのものがほとんどない。裏拳など使うものはまずいない。

 よって回転しながら蹴るという単純な動作なのだが、相手からすれば想定外の動きなのである。

 また、特に右利きの場合、右手は攻撃の主たるものとなる。そこを防御に充てさせる効果がある。

 そして仮に相手に右腕でまわし蹴りをガードされたとしても、そのまま右足で着地後は相手との距離も近く、澄弧でも十二分に届く距離である為、左での攻撃が可能となる。

 

 さらにシゲは、そのひらりでの攻撃についても指定してきた。

 プロレスラーのサンダーだかライガーだかの掌底を見本にするのだと。

 そのプロレスラーの左の掌底は、右足を軸に腰から回すことで掌底の威力をあげて短い距離でも効果的な打撃威力を実現するのだという。

 

 右利きの澄弧にとっては、慣れるまで時間はかかったものの慣れてみると驚くほど効果があった。

 まず飛び蹴りをしてくる相手に向かって、左でカウンターができるものなどいない。

 また、打は掴まれるとそのまま投に移行されるが、右利きの者ほど右腕を中心に投へと移行するため防御をした時点でつかまれることがない。

 また、二の手として用意された掌底は顎を狙いやすく威力も十分だった。

 

 さて、ムエタイはどこまで対応できるのか。

 澄弧の格闘家としての強さはいかほどなのか。

 切り札を使ってでも試したくなったのである。

 

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