派遣された女
-手紙が届き数日が経った。
絵は男の部屋には殺風景だが、壁に佇み輝きを放っていた。
ただただ綺麗な庭園の絵。誰が描いたかも分からないし、絵画の知識なんてまるでゼロ。ピカソもゴッホも興味はないけど、この絵には魅力を感じた。
こんな安いマンションに立派な絵がある事なんて、近所の人間すら知らないだろうと思うと、椿はちょっとした富豪にでもなったような気がして誇らしかった。
しかし、自分がこんな立派なものを貰える要素なんてないし、そんな宛もない。だから、この絵がなくなるのが不安で自慢はしたくなかった。
そのときインターホンが鳴った。玄関へ向かった。
扉を開けると、全く顔に覚えのない素朴な女性が立っていた。椿はキョトンとしながら会釈した。
「椿様でいらっしゃいますね?私が手紙に書かれていた案内人の響と申します。」
女も自己紹介をすると、長く少し茶色い髪が肩からほどけるぐらい頭を下げた。
「あの、申し訳ないんですが…自分がなんで招待されたんですか?」
「あなたのおじ様であるリュウジ様が、是非椿様を招待してくれと申されまして。」
椿の叔父は趣味が才能へと開花して、歴史家になり世界を飛び回っていた。幼いときから叔父を慕っていた椿は、その人生に憧れを胸の片隅で抱いていた。
「おじさんからかぁ…へぇ。」
椿は少し嬉しくなった。