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第7話 共謀の始まり

 ――「本気」のつもりだった。


 しかし、「本気」と「本物」は、似ているようで違う。


 相まみえたのは、「本物」だった。


「いい目をしてるね、木戸さん。気に入ったよ」

「……は?」


 学食。相席するや、やにわに藤堂がそんな事を言った。


 ちなみに、空腹感を打ち消せればメニューは何でもいいから、日替わりランチを頼んだ。


 皿の上に乗せられているのが、何であろうと構わない。


 一方の藤堂は、唐揚げ定食の大盛りだった。


 メニューのことなど、どうでもいい。


 いったい、どこをどう見れば、そんなセリフが出てくるのだろう?


 藤堂の目は――なんだろう、いやに澄んだ印象を与えるが――やはりにたついていて、かえって、何を考えているかが分からない。


 言葉が続く。


「その目。世界に絶望して、憎しみに満ちた目。まさに僕が探していた物だ」


 藤堂は、あたかも長きにわたって探し求めていた宝物を見つけたかのように、とてもにこやか、むしろ晴れやかだった。


 ますますもって、わけが分からない。


 そんな心境を読んだかのように、さらに続く。


「わけが分からないかい? ま、何はともあれ、食事をしようよ。せっかくのランチが冷めるとよくないからさ」


 一方的にそう言って、藤堂は自分の食事に手をつけ始めた。


 スピードはかなり早いが、特別に下品な食べ方でもない。


 しかし、肥満体の男が、一目で高カロリーと分かるメニューを勢いよく食べる様は、いかにもテンプレ的で、動く風刺画を見ているような気分だった。


 まずは、黙って食事をする。


 ただし、味などはほとんど分からないし、知ろうとも思わない。


 藤堂は驚くべき程の早さで定食を食べ終え、一足先にトレイを返却口へ返しに行くと、すぐに戻ってきて、まだ食べている私を、やはりニヤニヤと眺めていた。


「……ごちそうさま」


 食べ終えたが、身体のどこに入ったのかが分からない。だが、それもどうでもいい。とにかく、トレイを返しに行って、席に戻る。


「さて、落ち着いたかな、木戸さん?」

「……元から落ち着いてるつもりだけど」

「それならOK、本題に入らせてもらうよ」


 もう一度薄気味悪く「ニチャア」っと口元を歪めてから、さも嬉しそうに、藤堂は切り出した。


「木戸さんは、この世が憎くて、復讐したいんだろ? いや、叶うなら、世界をこの手にしたい。違うかい?」

「なっ……!?」


 この藤堂という男は、読心術の心得でもあるのだろうか? それほど正確に、自分の内心を言い当てられて、少なからず狼狽した。


 そんな私の表情を見てか、藤堂は会心の笑みを浮かべた。


「やっぱりね。目は口ほどにものを言う、だ。木戸さんのような相手を、ずっと探してたんだよ」


 まさしく「喜色満面」の藤堂だった。その笑みのまま、続ける。


「僕もね、こんなつまらない世界なんか、一度滅びてしまえばいいって、常日頃から思ってるんだよ」


 まるで「今日はいい天気だね」ぐらいの調子で、藤堂は言った。


 いや、にこやかに断言する分、この男がどれほど「本気」でそう思っているのかが、かえってよく分かった。


「木戸さんさえよければ、だけど、その計画に協力するのに、僕はやぶさかじゃないよ?」


 藤堂の申し出に、息を呑んだ。


 世界に復讐する。あるいは、この手にする。


 そんな野望を叶える手段があるのか?


 今のところ、具体性はない。


 一人では無理があるかも? とも思っていた。


 得がたい協力者の出現、と言えるのだろうか?


 改めて、藤堂を見る。


 顔は不細工そのものだが、その目はやはり、そら恐ろしいほどに澄んでいた。


 「今、ここ」ではない、どこか別の世界を見ている目。


 まごうことなき「本物」のそれだった。


 背筋を冷たい物が伝ったのは、はたして錯覚だったのだろうか。


「話せるならで構わないけど、木戸さんがそう思うに至ったのは、どうしてだい?」


 その澄み切った目で、藤堂が聞いてきた。脳裏に、今までの世界への憎しみがよみがえる。


 端的にまとめて、己の身の上を藤堂に話した。


 実のところを言うと、「本気度」ではかなわないのではないかとも思ったのだが、藤堂は大げさに手を叩いた。


「いいじゃないか、上等だと思うよ。僕的にはね」


 その言葉に、図らずも安堵してしまった。


 自分の中に逆巻く怨念に「お墨付き」がもらえたような気がしたからだ。


「それで、僕の助けは必要かな? 木戸さん」


 問いの形を取った確認だった。


 世界を征服するという、自分の野望を具現化したい。


 しかし先に述べた通り、一人では無理がある。


 協力者がいた方が、何かとやりやすいはずだ。


「ええ、お願いするわ」


 ほとんど考えることなく、「多分、笑みらしい顔をして」藤堂に返した。


「よし、いいだろう。じゃあ、定期的に僕の下宿で話し合いをしないか? 物事のスケールを考えれば、一朝一夕にできることじゃないのは分かるだろう?」


 それは提案でありながら、ほとんど命令だった。


 ただし、逆らう理由もない。


「そうね、そうしましょう」


 かくして、藤堂とは合意に至った。


 ……それが、大きな過ちの第一歩だったなんて、つゆ知らず。


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