表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
後宮案内と宦官の思い
9/90

毛並みが悪い

「……獣憑きになると」


 少し小さめの声でカイレンが口を開いた。こちらを見ている。聞きたい事があるらしい。


「はい」


「……撫でられたくなってしまったりするのか?」


 こちらに向けられた視線が、いきなり焦点が定まらなくなる。かと思えば最後にはこちらをジッと見つめてきた。何かを期待するように。何がしたいのか全く分からない。使っている言葉も変に遠回しな物である。


「? ……いえ、特には」


 そんな事はないから、そこは素直に答える。


「そう……か」


 そんな声を出されても。答えを聞いた途端、何故かカイレンは残念そうに視線を下げてしまった。どう答えれば正解だったのか。嘘をつくのも違うだろう。よくわからない。


「……む」


 少しの間をあけてカイレンがまた声をあげた。


「尻尾の、毛並みが少し悪いのではないか?」


 尻尾の毛並み。気にした事がなかった。


「そう、でしょうか?」


 軽く振り返って、自分の尻尾を見てみる。ここに来て耳や尻尾を隠す必要はない、堂々と出すべきと言われ、尻尾が出せる様に着ていた服を早急に加工してくれた。それでも振り返るだけでは見辛かった。


 毛並みが悪いと自分では思わない。一応もうちょっとよく見てみようと、尻尾を動かして掴み、顔の前に持ってくる。


「私はそうは思いませんが」


 やっぱりよく見ても、毛並みが悪いとは思わない。


「いきなり現れた物だ、手入れが上手くいかないのも無理はない」


 おや。話が通じていない受け答えだった気がするが。カイレンの方に視線を戻すと、懐を探っている所だった。何をしているのだろうか。嫌な予感がしてきた。ちゃんと否定しよう。


「いえ、毛並みはもんだ」


「私が櫛を入れてやろう」


 懐から櫛を取り出しながら声をあげるカイレン。どうも言葉が通じていない様だ。


「いえ、毛並」


「遠慮する必要はない」


 言葉を遮る様にそんな事を言いながら、早足で近づいてくる。怖い。


「いいいいえ、結構です、結構ですから……チュウさん、毛並み悪くないですよね?」


 チュウに助けを求めようと、後ろに顔を向ける。さっきまで背後にいた筈のチュウがニコニコと笑顔を浮かべて、出入口の方に移動していた。逃げやがったな。自分は関係ないからって。


 仕方がなくカイレンの方に顔を戻すと、すでに目の前まで迫ってきていた。私は後づさりながら何とか思考を巡らせる。


「私は卑しい身分の者です、カイレン様にその様な……それこそ使用人の様な真似をさせる訳には」


「気にしなくてもよい、私とお前の仲だ」


 ほんの数日前に会った仲だ。


 何が目的だ。どうしてこんな事を。そういえば先ほど撫でてもらいたくなるのか、と問われた。それに私は『ない』と答えた。それから、櫛を入れてやると言い始めたのだ。という事は。これはもしかして。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ