珊瑚の宝石
捕まっていたチュンジャオが、無罪放免になって我が住まいシーリウデンに帰ってきた。シャオグーに頼んでよかった。途中怒ってしまい申し訳ないことをしたが。
なぜかシャオグーから変な褒美をねだられた。事情を聞いても誤魔化しおったが、悪い事を企んでいないと信じて、第三側妃の権限を最大限使って秘密裏に書庫に入れるようにしてやった。
戻ってきたチュンジャオは、後宮を去る事になってしまった。罪に問われたからではない。目の病気だからという事だ。もうすぐ見えなくなるかもしれないから。どのみち歳で暇をもらおうと考えていたらしいが。もう少し早く決断して、暇をもらっていればお騒がせする事もなかったのに、と苦笑するから頭をはたいてやった。
「今日は一緒に寝ましょうか」
チュンジャオからそんな申し出を受けた。最後の思い出と言わんばかりだったから、最後になんてしないと断ってやろうと思った。あまりにも懇願する様な表情だったから、だから一緒に寝てやることにした。
「ありがとうございました」
暗くなった寝室で、チュンジャオの声が聞こえる。横になっている寝台の端から聞こえてきた。もっと真ん中に寄ればいいものを。
「何がじゃ」
「私の様な者を助けていただいて、です」
「当り前じゃ、悪い事をしたわけではないんじゃなから……それよりもっとこっちに来るのじゃ、これでは一緒に寝る意味がないのじゃ」
寝台の上でチュンジャオが動くのが聞こえる。次いで密着した体の温かみを感じる。
「申し訳ありません」
「何も謝る事はないのじゃ……抱きしめてもよい」
チュンジャオが少し笑ったように聞こえたが、気にしないでおく。それから包まれる感覚と暖かみを感じた。
「……そういえば、妾の宝石をお主にやるのじゃ」
「宝石、ですか?」
「妾の、珊瑚の宝石じゃ、特別な装飾が施されたアレじゃ」
チュンジャオの息を呑む音が聞こえる。妾が一番大事にしている宝石だと、理解したからだろう。あれはこの世に一つしかない。それぐらいの物なら、翡翠なんかと間違える事は無いだろう。
「うれしいですが、よろしいのですか」
「当り前じゃ、もう間違えられては敵わんからの」
「……ありがとうございます」
回されていた手に、少し力が入った気がした。
「一つ、ワガママを申し上げてよろしいですか?」
「なんじゃ?」
「私を母と、呼んでいただけないでしょうか」
遠慮がちな声だった。確かチュンジャオは若い頃に、旦那と娘を無くしていた。いや、そんな事どうでもいい。妾はお主をいつだって。
「いや……ちゃんと言葉にしないとじゃな」
照れくさくて、いつも言葉にしてこなかった。だが、今日はちゃんと伝えなければ。
「妾はいつだって、お主を母と思っておったのじゃ」
回された手に、今度は確かに力が入った。でも痛くはない。優しいのにきつく抱きしめられていた。
「ありがとう」
チュンジャオの声に、抱きしめ返して返事にする。
「おやすみ、母上よ」
「おやすみ……珊瑚、私の愛しいもう一人の娘、私の宝石……あなたの行く先に、どうか幸多からん事を」




