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後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
珊瑚の宝石

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謝蚕祭

「無事、謝蚕祭が開催されてよかったよ!」


 剣舞用の衣装を身につけたユンが嬉しそうに声をあげた。剣舞を披露する舞台に設置してある幕の裏だったため、声を抑える様にチュウがたしなめた。


「悪い悪い」


 小さい声でユンが笑う。少し興奮気味なのは、ずっと待ち望んだ剣舞を披露する事ができるからだろう。中止になると思ってたらしいので、嬉しさもひとしおなのかもしれない。というか、チュンジャオの件が解決しなかったとしても、謝蚕祭は開催されたっだろう、たぶん、おそらく。チーヒが騒いでも、重要な祭祀を取りやめる理由にならない。帝が危険とかならまだしも。


「それにしても、シャオグーはすごいな」


 先ほどよりかは小さい声で、ユンがそんな事を言う。それから私の頭に手を伸ばし乱暴に撫でた。手が伸びてきたからすぐに犬の耳を倒したおかげで、耳は痛くない。断じて撫でやすい様に倒したのではない。


「チュンジャオさんはやっぱり、仕事は続けられないんですよね?」


 ユンが手を引いたのを見計らったように、チュウが悲しそうに問いかけてくる。後ろを振り向くと、声通りの表情を浮かべていた。


「おそらく悪くなる一方です、見えなくなる可能性も高いかと」


 チュンジャオは罪には問われなかった。だが仕事を辞める事になったのだ。いや、正確には引退すると言う方が正しいだろう。元々それくらいの歳だったのだ。


「そう、ですよね」


 そう呟くと、チュウは俯いてしまった。さすがに罪に問われる事は防げたが、事情が事情だけに後宮を去る事は防げなかった。しょうがない事なのだ。こればかりは。


「でも、色が……しかも緑だけが赤に見えるって不思議だな」


「……視界全体が赤く見える訳ではないんですよね」


 ユンの言葉に、気持ちを持ち直したらしいチュウが疑問を重ねる。


「全体が赤く見えず、一部の色だけが変わって見えるから気付かないんです、それ以上の詳しい事が分からないのも厄介さに拍車をかけてますね」


 チュンジャオは、緑色が赤色に見える色覚異常に突然なってしまったのだ。だから青い柿が、熟した柿に見えてしまった。黄緑色の柿が、赤い柿に見えてしまった。緑色の翡翠を、赤色の珊瑚と間違えてしまったのも、それが理由だ。


 分かってしまえば、故意に青い柿を出したのではないと証明するのも簡単だった。審議の場でチュンジャオに何も知らせず、珊瑚の宝石の様な間違えやすい物を選ばせる。それだけでいい。


 色覚異常の原因はおそらく加齢によるもの。チュンジャオはもう五十近いらしい。見た目はもうちょっと若く見えたが、それなりに年寄りだ。


「歳は取りたくないな」


「なんで一瞬、私を見たんです?」


 ユンの言葉にチュウが反応した。チュウはそこまで歳を取っていないが、それでもヨウズデンの最年長者だ。老いの話題の時、つい見てしまうのもわかる。


「あぁ、もう出番だ……ははは」


 ごまかす様に、ユンが舞台の幕の側に向かって歩き始めた。チュウも出番を邪魔してまで追及する気はない様で、大きなため異をついてから体を反転させる。私もそれに続いて舞台裏から移動する。

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