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後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
珊瑚の宝石

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もう限界なのか

「はい……ここに連れてこられる前に、お守りとしてお借りしたのですが、返せそうにないので」


 やはり死を覚悟している様な物言いだ。


「……責任をもってお返しします」


 カイレンは一瞬何かを言おうとして黙ると、言葉を出すのが辛いという感じで約束をする。そして宝石を懐にしまった。


「疲れている様なので、今日はもうお休みください」


「ありがとうございます」


 カイレンの優しい声に、弱々しくチュンジャオが微笑んで頭を下げる。


「シャオグー、行こう」


「はい」


 早足というより、逃げる様にカイレンが出口の方に歩き始めた。私もそれに続く。見ていられない、そんな思いが背中からにじみ出ている気がする。


 当たり前だ。チュンジャオが珊瑚の宝石といって差し出してきたのが、翡翠の宝石だったのだ。真相が見えていなければ、命が風前の灯火なのだと思ってしまうだろう。



「もう限界なのか」


 外に出ると、こちらに背中を見せたまま震えた声が聞こえてくる。もう日は沈みかけて暗くなっている。カイレンの心の模様を映しているかのようだった。だがおそらく、その心を明るくする事ができる。


「宝石の件でしたら、限界だからではありません」


「?! 何かわかったのか?!」


 弾ける様にカイレンが振り向く。私は頷いて見せる。


「しかし、宝石を間違えたのだぞ、緑色の宝石を赤色の宝石と間違えたのだ、限界だからではないのか」


「それでしたら、もっと前から限界だったことになってしまいます」


「……どういうことだ?」


 意味が分からな過ぎてだろうか、顔が険しい。別に化かしてやろうとかそういうつもりではない。


「柿の事を思い出してください、チュンジャオ様はどんな柿をどんな状態だと認識してましたか?」


 その問いかけにカイレンがハッと目を見開く。そうなのだ。宝石の件と柿の件は本質的には同じことなのだ。そして、決め手がなかった状態から、宝石の件を目の当たりにして確信を得る事ができた。


 柿は一度だって熟していない。ずっと青いままだった。誰かが仕掛けをしたとして、先ほどの宝石にまで同じ仕掛けをする意味が分からない。つまりチュンジャオは青い柿を熟した柿に、翡翠の宝石を珊瑚の宝石と見間違えていたのだ。


「だが、そんな事あり得るのか? というよりどう証明すればよい、チュンジャオさん自身の事を我らが証明するにはどうすれば」


 混乱するようにカイレンが声をあげる。混乱の極みといった感じで、少し面白い。


「落ち着いてください、証明の方法は簡単です……チュンジャオ様に起こっている事は、完全に理解しなくても証明は出来るので、簡単に説明するだけにします」


 私はたどり着いた真相をカイレンに聞かせる。もちろん理解できる訳がなかったが、とりあえず証明は出来ると理解して安心した様だった。

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