謎の行動
カイレンのその行動にチュウは疑問を浮かべる。なんなんだろう、本当に。移動している私達についてきている。仕事の為に入った部屋にカイレンも一緒に入ってきた。そこでチュウから指導を受けていると、その間ずっと視線を感じていた。
私はもしかして、試されているのだろうか。いや試すにしては何もしてこない。見ているだけだ。あと可能性があるとすれば、メイユーの命を狙う刺客ではないか確認しているといったところか。いや、それなら尻尾を出す様にバレないよう監視した方が良いだろう。そんな事さえ分からないカイレンではないと思うが。
「あの、チュウさん」
たまらなくなってチュウに小さく声をかける。
「……もしかして、カイレン様の事ですか?」
同じ様に小声で返してくるチュウ。やはり、気になっていたのだろう。
「はい……もしかして新入りにはあの様に張り付くのが常なのでしょうか?」
そう問いかけておいて、違うだろうなと考えてしまう。張り付くのが通常の事ならチュウのこの反応はおかしい。こんな風に気にしないはずだ。
「あんなの初めてですよ」
やっぱり、これは特殊な状態らしい。チュウが少し考える様子を見せた後、言葉を続ける。
「……もしかして、何かやらかしましたか?」
「まだ来たばかりですよ、何も思い当たりません」
ここに来て、ヨウズデンから一歩も出ていない。それどころかあまり部屋から出ていない。やらかしようがない。
少しだけカイレンの方に視線を送る。気のせいかもしれないと考えたが、そんなことは無かった。確実に私を見ている。しかも、私の視線に気付くと、眉を少し動かしてからゆっくりと顔を背けた。
「どちらかというと」
今の反応を見ていたチュウが、顔を近づけて来て言葉を続ける。
「シャオグーを気にしているという感じでしょうか」
そんな事を言いながら、少し安心したように小さくため息をつく。安心できる要素が何もなかった気がするが。もしかして自分には被害が無い、と安心したという事か。裏切者め。
「あぁ……あれだ」
突然声がして、顔を向ける。カイレンは先ほどと変わらず顔を背けたまま声をあげていた。今の密談を咎められるのだろうか。一応、体をそちらに向けて、視線を下げる。チュウも少し遅れて動いた音が聞こえた。恐らく同じ様にしたのだろう。
「いや、違うのだ、その様な態度は必要ない」
私達の姿を見ての事だろう。少し慌てた様子でカイレンが言った。咎められるわけではなかった。とりあえず姿勢を元に戻す。
「では、どのような」
さすがにチュウも、困惑しているらしい声だ。その態度から見るに、カイレンがこれまでこんな態度を取った事がないのは明白だった。何かあったのだろうか。言い難い何かが。