来客
「いいよ、それぐらい」
なんでも無さそうに呵々と笑うユンは本当にうれしそうだ。人前で剣舞を演じられるのがそれほど嬉しいのだろう。おそらくずっと過去の事を引きずっていたのだ。
「もうすぐなんだな、やっぱり少し緊張するよ」
珍しくユンが弱気な表情を見せる。いつもの豪胆な姿から、想像もできなかった表情だ。経験のない事を、しかも人前でやるのは誰だって緊張するだろう。ユンも普通の神経の持ち主だったという事だ。
「ユンなら大丈夫です」
チュウが優しくユンの肩に触れた。それに対してユンがにっこりと笑って「ありがと」と、チュウの手に自分の手を重ねた。もしかしてこの二人は付き合ってるのか。チンインとグイファのアレな姿を見て、影響されたのか。そんな邪推を浮かべている間に、二人はその触れあっていた手を離していた。
「さぁ、これぐらいで終わりです、そろそろ仕事に戻ってください」
表情がいきなり仕事の時の物に変わったチュウが、私とミンズーを押し出すように部屋から出そうとする。さすがにこれ以上は迷惑をかけてしまうし、指示に従うしかないだろう。
「あれ?」
大人しく部屋を出ようと思った時、遠くで聞き慣れない足音が聞こえてきて、立ち止まってしまう。
「どうしました?」
「聞き慣れない足音が」
二人分の足音。一つはカイレンの物だ。もう一人は軽い足音からして女だ。カイレンと女が一緒に歩いているらしかった。もや。
「ほんとだねぇ」
ミンズーが頭の耳をピコピコとさせる。
「これは、赤妃様だね」
「チーヒ様? 第三側妃でしたっけ」
どうして、そんな人がここへやって来たんだろう。よく聞いてみるとチーヒの足音には少し感情が出ている気がする。カイレンは「チーヒ様、いくら緊急事態でも」と窘めているのが聞こえる。怒って乗り込んできたのだろうか。ふと思いついてメイユーに顔を向ける。
「何をやらかしたんです?」
「私をなんだと思ってるのよ」
呆れた様な表情でメイユーが返してきた。腹黒女という言葉が喉まで出かかったのを、何とか堪えた。
とりあえずメイユーには、心当たりがなさそうだった。チーヒと聞いた時、心の臓はいつも通りで慌てたという事もない。他の用事でやって来たという事だ。
考えていても意味がないので、出迎えに行こうと歩き出すとそれを制するようにチュウが指示を飛ばす。
「ミンズー、お出迎えしておいてください」
「はーい」
ミンズーは気の抜けた声をあげて部屋を出て行った。
「? 私が行きますよ?」
どうして、ミンズーに行かせるのか。
「いえ、ヨウズデンの者以外に会う時の注意事項を伝えていなかった、というのを思い出しまして」




