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後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
ユンの希望

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剣舞をやるために

「あっ、そうそう! たまたま見ちまったんだよ、剣舞やってるところをな」


 なんとなく話が見えてきた。懐かしそうにユンが続ける。


「町に来ていた旅芸人がな、剣舞を披露してたんだ、それをたまたま見て感動しちまって、コレだってな」


 へへへっ、とユンが笑う。それから少し険しい表情に変わった。


「親父に武芸じゃなくて、剣舞をやりたいって言ったんだ」


「もしかして、喧嘩になったんじゃないですか?」


「おっ、そうそう、喧嘩になった、それで全く認めてもらえず家を飛び出したんだ」


「それで、旅芸人に弟子入りして剣舞を習ったという事ですか」


 指を鳴らして「そうだ!」とユンが声をあげた。やっぱり予想通りだ。そして悲しいが次の展開もわかってしまう。今ここにいるのだ、勿論上手くいかなかったという事だ。


「剣舞を習ってて楽しかった、武芸も楽しかったんだけどな、なぜか剣舞はそれを上回る物だったんだよ」


 その楽しかった過去を、思い出しているのだろう。嬉しそうに語っている。でもそれからユンの表情が嫌な予感の的中を予兆する様に曇ってしまった。


「元々武芸としての剣を修練してたおかげで、剣舞もそれなりに上達した、おかげで割と早く客の前で演じさせてもらえることになったんだ……でも」


 ユンが自分の頭の熊の耳を摘まむ。そうして「これがな」と力無く笑った。


 予想は的中した。獣憑きになってしまい、せっかく客前で演じる事ができるはずだった剣舞ができなくなってしまったのだ。旅芸人の人たちの態度が変わってしまったかどうかは分からないが、とにかくユンは旅芸人たちのもとを離れた。そして、メイユーに出会って今に至るという事だ。


「この機会に挑戦が、してみたい、んです」


 拙い敬語を使ってユンが口にした、挑戦したいという言葉が蘇ってくる。好きになって真剣に取り組んで、それがダメになってしまったのが悔しかったのだ。でもこの機会がめぐってきて、我慢出来ずに手を挙げた。


「すみません、嫌な思い出を」


「いや、いいんだよ、今はメイユー様を守るって使命があるしな」


 危険が無さすぎて、その使命が全く果たせていないが。


 というか、ユンなら腕に覚えがある。獣憑きになってこれまで通りに生活できなくなるとしても、それほど危険な目に合わなかったのではないだろうか。いかにも強そうなユンに石を投げるなんて勇気がいる。返り討ちにされる恐れがある。


 なのにどうしてメイユーに仕えているのか。恩を感じる何かがあったのだろうか。話を変える意味でも聞いてみよう。

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