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後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
ユンの希望

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東屋

 そして、謝蚕祭の準備が始まった。チュウがまた倒れるのではないか、と不安になるほど忙しい。ヨウズデンの通常の仕事に加えて、謝蚕祭の準備に駆り出されているのだ。当然と言えば当然である。というか皆フラフラになりながら仕事をしている。体力のない私は本当に不味いかもしれない。


「……疲れた」


 足がガクガクとしてしまっている。カイレンではないが尻尾の毛並みも悪い気がする。自分の尻尾を抱える様にしながら、謝蚕祭の準備から帰ってきた。


 ヨウズデンの屋敷が赤い光に照らされている。夕方の赤くなった光が妙に寂しく感じた。疲れているせいなんだろうか。


「はぁ……部屋に戻ってる時間がない」


 これからまだヨウズデンの方で、メイユーの夕食の準備がある。自室で少し休憩したかったが難しそうだ。仕方がない。とりあえずヨウズデンにある庭園に入る。そこにある東屋で少し休憩をしよう。もう立っているのが辛くて仕方がない。


 震える足で何とか東屋を目指していると、庭園の真ん中に人がいるのが見える。逆光になっていてよく見えないが、剣を持って動いているのを見るとおそらくユンが剣舞の練習をしているのだろう。邪魔しても悪いし、声をかけずに東屋に入ろうとする。


「ん? 誰だ?」


 ユンの声がした。逆光で見えなかった人物はやはりユンだった様だ。邪魔する気はなかったのに、気付かれてしまった。まぁここで隠れる意味もない。素直に声をあげる。


「シャオグーです」


「あぁ、なんでこんなとこに?」


「休憩しようと思って、自室に戻る時間もありませんし……邪魔してすみません、気にせず続けてください」


 逆光でちゃんと見えないがユンは顔を横に振った様だった。


「邪魔なんかじゃないよ……アタシもそろそろ終いにしようかと思ってたからさ」


 剣を一度振ったユンは、それを脇に挟むようにしてからこちらに向かってくる。所作が凄い綺麗だった。剣については分からないが、それでも見とれてしまうほどの物だ。たぶんすごい腕の持ち主なんだろう。


 東屋に入ると、ユンも少し遅れて入ってきた。それから申し訳なさそうにして口を開く。


「悪いな、アタシのワガママで」


 正直なところユンがいない方が、仕事が捗ってしまう。そんな残念な真実を胸に秘めながら、顔を横に振って当たり障りのない返事を返した。


「問題ありません、気にせず練習に打ち込んでください」


「ははっ、ありがとな」


 ちょっとその笑顔が心に痛みを生む。それを隠すように何でもない風にしながら、椅子に座った。


「じゃあ、隣、失礼するな」


 何も気づいてない様にユンが笑いながら隣へ座る。なぜか少しドキリとして、顔を横に振った。

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