自己犠牲
そういえば。ふと不思議に思う。カイレンは話を聞いたと言っていたが、誰から聞いたのだろう。メイユーが熱を出したならともかく、チュウが熱を出した事が後宮で噂になるなんて考えづらい。加えて言えば私が頑張ったという話など、そもそも噂になるなんておかしい。つまりヨウズデンの誰かから、聞いた可能性が高いだろう。
「さっきの聞いたというのは……チュウさんの熱の事ですよね?」
「……あぁ、それがどうした?」
「……誰からです?」
カイレンが不思議そうな表情を浮かべる。まぁ確かにそんなのは確かめる必要はない。だがしかし、気になるのだ。
「ミンズーだが」
ミンズーか。そういえば二人は妙に親しい気がする。お菓子横領事件の時もそうだったが、毒見役に直接渡せば手間が省けると言っても、実際メイユーに渡すのがスジではないだろうか。ミンズーを餌付けして撫でようという下心があったのではないか。もや。私の知らない所で、二人は会っているのだ。もや。
いや、なんで私がもやもやしているのだろうか。二人がどんな事をしていたって、関係ないではないか。
「なんだ?」
「……何でもないです」
なんとなく顔が見れなくて、声をかけられると同時に顔を横に向けてしまう。カイレンが小さく息を吐いたのが聞こえた。
「……チンインの時も事も、まだ褒美をやっていない」
そういえばあの時もごたごたしていて、それからすぐにチュウさんが倒れたから、カイレンをかまってやる時間はなかった。それでもミンズーとは顔を合わせていたのか。もや。
よく考えればあまり放置しすぎて、ミンズーやユンに被害が及んでもよろしくない。ユンはまだしも、ミンズーのバカ犬は食べ物をもらったらホイホイ身を差し出すかもしれない。うん、たまには撫でられる事もしておいた方が良いかもしれない。あくまで二人を守る自己犠牲のもとで撫でられるのは、やぶさかではない。
「……撫でたいですか?」
「な、撫でたいなど言、っていないぞ」
嘘の匂い。嘘をついた。素直になれない人は本当に面倒だ。だがここでグッとこらえる。私以外に目移りなんて嫌だか、間違えた。自己犠牲で撫でられておけば被害が出ない。
「褒美を、受け取ってあげても……いいですけど」
「本当か」
いきなり身近でカイレンの声が聞こえた。横に向けていた顔を元に戻すと、すぐ目の前にカイレンが立っていた。何も音がしなかった。いつの間にか目の前に移動してきたのだ。どれだけ飢えているんだ。




