嘘の匂い
「私は」
突然そんな声が微かに聞こえる。チュウの方を見ると、目が薄く開かれていた。覚醒しているという感じではなく、夢と現実の境が分からなくなっているような、そんな感じだった。
「……身分なんて関係なく、あなたの信念に惹かれてお仕えしておりますよ」
普段なら恥ずかしくて言えないだろう。チュウはそういうタイプではない。こんな熱にうなされていて、まどろみの中だから言えるような事だ。
「……それは好きって事?」
確かめるような口調で、メイユーが問い返す。どんな表情をしているのか分からない。照れているのか、真剣な顔をしているのか。
チュウが薄く微笑む。それから声が小さくなりながらも、それでもはっきりと口にした。
「はい、好きですよ……」
そのまま眠ってしまった。寝息が聞こえる。
「チュウリエン……私もあなたが好きよ、頼りにしてるわ」
メイユーの優しい声が耳をくすぐる。嘘のない本当の気持ち。メイユーとチュウは相思相愛らしい。絶対的な信頼関係。羨ましいとさえ思う。
「ふふふ」
少しの余韻を残してから、そんな声が聞こえてきた。そんな声を発したメイユーが、こちらに振り向く。
「チュウさんの恥ずかしい弱みを握ったわ」
最低の笑みをうかべていた。何というか雰囲気が台無しだった。素直になればいいのに。
「……そうですか」
それだけ言葉にして、私は飽きれた気持ちになりながら部屋を出るために扉の方に体を反転させる。
「なによぉ、弱みよ? いろいろ利用できるわ、ふふふ」
「良かったですね」
何というか、もう顔を見る気になれず、言葉だけ返して部屋を出る。本来なら頭を下げるべきだったのだが、それをする気持ちも湧かなかった。
まぁ好きと返した時、嘘の匂いはしなかった。あれは嘘ではない。ちゃんとしたメイユーの気持ちだった。チュウの方も確実に嘘ではないだろう。あの状態で嘘をつける人はいないと思う。
そして、弱みを握ったと言った時。あの時メイユーからは嘘の匂いがした。そんな風に思っていないという事だ。つまりは照れ隠しだという事だろう。
「……素直になればいいのに」
自然と笑みが零れてしまった。これはメイユーの弱みなんじゃないだろうか。突き詰めれば、もしかしたら顔を真っ赤にするかもしれない。
「ふふふ、メイユー様の恥ずかしい弱みを握りましたよ」
単純に弱みとして使うのではなくて、メイユーのそういう表情を見てみたいと、そんな悪い企みが頭を過ってしまった。




