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後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
愛があれば

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39/90

義理はない、はずなのに

 ヨウズデンの客室にカイレンと共に入ると、一言断ってから椅子に座らせてもらった。落ち着いて分かった事を整理していく。


 まずはチンインの事。チンインは妊娠しているかもしれない、という自覚があった。加えて医官の所に行く事を嫌がった。その事からおそらく妊娠している事がバレてはいけないと考えたからではないか。なぜバレてはいけないのか。理由はいくつか考えられる。


 相手の男を守りたい。帝が相手で口止めされた。自分が外に出た事がバレてしまう。だがどれも、分かった事実をもって否定できてしまう。


 反応からして帝が相手ではない。しかし、反応からチンインは後宮を抜け出していないし、男が後宮に忍び込んでもいない。どれも違うという事は最初から後宮の中にいたとしか考えられない。それを問いかけて、チンインは怒り出したのだ。


 相手は帝ではない。しかし後宮の中に最初からいた人物が相手。そんな人物がいるのか。


 その後グイファに会った。グイファは男が後宮に忍び込んで、チンインに乱暴したのだと言っている。それで妊娠したと。


 チンインはいつも一緒にいて、しかも男が苦手らしい。だからグイファはそう考えた。


 グイファは一つ嘘をついた。男が苦手という言葉は嘘だった。だが他には一切嘘をついていない。グイファは何かを隠している。それも明らかにしなければ。重要度がどれくらいか分からないけど。


「はぁー」


 一度息を吐く。なかなかに複雑な事情があるのかもしれない。頭がこんがらがってきた。


「……カイレン様」


 考えがまとまるのを、静かに待ってくれているカイレンを見る。


「男が……宦官ではない男がどこかの機会に後宮の中に紛れ込んで、それから誰にも気づかれずに、隠れて過ごし続ける事はできますか?」


 その問いかけにカイレンは少し考える。バカらしい問いかけなのに、真剣に考えてくれているらしい。


「……そもそも入り込むのが無理だ、催事、祭祀を行う時でさえ、後宮に宦官以外の男を入れない、逆に後宮外の催事や祭祀に後宮の女は参加できない、後宮を出る事が許されていないからだ」


 後宮に来た時にある程度勉強した。宦官以外の男は後宮に入れないし、後宮の女は後宮外に出てはいけない。


 どう考えても条件に当てはまる男が存在しない、という事になってしまう。


「今日はもう終わりにするぞ」


 椅子から立ちあがったカイレンが、そう口にする。視線は窓の方に向いていた。開け放たれた窓からは、赤く染まった空が見えている。もう夕方だ。


「そう、ですね」


 私の言葉にカイレンが頷くと、部屋の外に向かって歩を向ける。その背中に向かって声をかけた。


「明日は後宮の門へ行きたいのですが」


「段取りをしておこう」


 振り返る事もせず、何でもない風の声だけが聞こえてくる。本当に分かっているのか。このまま行くと、カイレンは責を問われて。


「そこまで私が考える義理は、ない」


 ない、はずなのに。

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